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●一章-4.蜘蛛のお姉さん

章が終わったら一通り見直す予定です


※前回のあらすじ

 契約完了!

 さぁ、服を買いに行こう。主に下着!

-fate アキヒト-




 どうも、愛宕明人です。

 ……この、自分の名前に違和感覚えるのは、どうにかならない物か。


 それはさておき、俺は今、服屋に来ています。

 洋服屋と言わないのは和でも洋でもないデザインがあるからで、ブティックと言わないのは安売り店にあるようなTシャツなども取り揃えているからだ。

 で、そんな店に入ってからそろそろ一時間が経過します。


「いいわ! とっても!」


 俺の買い物はとうに済ませている。安い上下二着と下着類数枚。以上。

 家には洗濯機もあったので、これで十分とは思う。

 うん。俺の買い物なんて10分もいらなかったんだよ。当たり前だよな?


 ───ふと、視線を感じて顔を上げれば、カーテンの隙間からこちらを見ている赤い目があった。


「着替え終わったら出てくれば?」

「……ええと」


 躊躇いの表情を見せるシノ。

 彼女の隠れているカーテンは試着室のもので、要するに女の子の服選びに付き合うリア充的な立場にあるわけですが、心持ちは休日のデパートに付き合わされたお父さんです。

 更に問題なのはシノが選ぶのに時間をかけているわけでは無い事。


「ほら、大丈夫だから出てきて! 彼氏に見せてあげなさいな!」


 やたら元気な声と共に、カーテンを開く店員さん。シノを着せ替え人形にしている張本人だ。ちなみに彼女、上半身は目鼻のくっきりとしたラテン系美人のお姉さんですが、下半身は禍々しい色の蜘蛛だ。アラクネという種族らしい。遠目で見るとスタイリッシュなカッコ良さがあるのだが、近くで見るとこう、何と言うか、リアルな蜘蛛感が強くて、ウッとなる。子供の頃はまったく気にしないのに、大人になるにつれ虫系が苦手になるのはどうしてだろう。

 何故そのお姉さんがご機嫌にシノに構っているかと言うと、ここでもシノは「アキヒトに任せます」を言い始め、非モテな人生を送ってきた俺には手に余ると店員さんに預けたのが事の発端だ。つまり自爆である。シノを巻き込んでの。


 さて、器用に身を屈めてシノの高さに合わせた店員さんに手を引かれ───そういえば蜘蛛の足はちゃんと8本あるのに、手は別にあるんだな───出てきたシノは白いブラウス、黒の生地に白のヒラヒラで飾られたスカートというお嬢様ファッションを完璧に着こなしていた。白い髪に白い肌、戸惑いの表情が深窓の令嬢感を際立たせていた。

 そういえば、最初に逢った時にもお人形さんみたいな服装が似合うとか思ったっけ。


「凄い似合うけど……自分で着られる服にしような?」

「あら、彼氏さんが着せてあげれば良いじゃない」


 似合っているとはいえ、どうにも気に入っていないようなので助け船のつもりでそう口にすると、蜘蛛のお姉さんがそんな言葉を差し入れてくる。


「彼氏もなにも、シノとは昨日出会ったばかりですよ」

「あら? そうなの? その割には、べったりだけど」


 そのべったりの理由には何か別の要因がありそうなんだけど。半分は魂云々の問題からだろうけど、深刻にとらえる理由も理解もない俺には如何ともしがたく、軟化を待つばかりである。


「お互い他に寄る瀬の無い状況だからでしょうか。

 あと、俺にとってシノは命の恩人ですし」


 失言だったか。衣装への戸惑いを昏い色で染めてしまった。そんなシノの変化に気付いた店員さんが興味深そうに俺たちを見比べる。


「恩人ねぇ。どちらかと言うと貴方の方が保護者のように見えるけど。パパオーラと言うか」

「パパオーラって何ですか……」


 いや確かにそんな感想を抱いていましたが。


「女の子の服を選ぶなんて俺には難易度高すぎますよ。

 そこそこ安い服で数着、お願いします」

「あら、それは流石に甲斐性なし過ぎない?」

「昨日この世界で活動し始めたばかりで、先立つ物に不安があるんですよ」


 俺の回答に若干怒りを滲ませていた店員さんは、目を丸くし、それから苦笑へと変える。


「ふふ、しっかりはしているみたいね。

 ちゃんと捕まえておきなさいな。この人、良いパパにはなるわよ?」


 色恋沙汰に繋げたいだけのコメントだが、シノはきょとんとした顔で店員さんを見上げるだけだ。蜘蛛のお姉さんはその反応に「あら?」と声を漏らし、回答を求めるように俺を見る。

 俺が聞きたいくらいです。

 何故か以心伝心成立。俺に答えが無い事を察すると、店員さんは店の端に移動すると、ちょいちょいとシノへ手招きをする。


「……ちょっとシノちゃん、こっちに来て?」

「……はい?」


 俺に声の届かない場所でなにやら言葉を交わした後、こちらを見る店員さん。

 俺を責めて揶揄うような、或いは冷やかす態度は何故か消え去り、困ったような表情が垣間見せる。

 ものすごく居心地が悪い。


 それで終わりでなく、再び会話を開始。いくらかの会話の後、不意に口の端が吊り上がるのを見てしまい、背筋に冷たいものが走った。

 蜘蛛は捕食する生き物だと、強く認識する。


 更に2、3分ほど会話を続けた後、何やら満足して戻ってくる店員さんと、会話の意図を測りかねたままという感じのシノ。


「じゃ、着替えと部屋着、下着類を見繕ってあげるわ。

 その服は私からのお近づきのプレゼントよ。その代わりに時間があったらうちに来てね。創作意欲が湧くから」


 上機嫌で見繕いに行くお姉さんを見送るしかない。シノはお姉さんの話を理解しかねているようで、未だに小さく首を傾げている。


 現状把握に進展が無いうちに数分が経過。戻ってきたお姉さんにシノは頭を下げる。


「ありがとうございます」

「ふふ。その服は特別製だからここぞと言う時に着るのよ?

 一応そこらの刃や銃弾くらいじゃ傷もつかないから」

「何その装甲服?」


 つい突っ込んでしまうと、お姉さんは「ふふん」と得意げに鼻で笑い、豊満な胸を張る。


「アラクネの糸はそんじょそこらの金属繊維なんて目じゃないのよ?」


 ……ああ、その服、お姉さん製ですか。

 ふと、腕に抱いた紙袋の中身が気になったが、「その辺りは仕入れた量産品よ」とニヤニヤしながら言われる。

 ああ、ホント。この人、すっごく蜘蛛だ。


「フルオーダーで五十万Cくらいするんだから、彼氏君も買えるように頑張りなさい?」


 呆れるやら納得するやらの俺に囁きかける声。ぎょっとしてシノを見る。見た目は普通の布にしか見えない。これが彼女の言う通りのスペックだとするなら、この街では特に需要があるのだろう。


「はい、これくらいあればしばらく平気と思うわ」


 渡されたのは大きな手提げ袋2つ。流石にこれは……


「お金、足りるのか?」

「……足ります」


 請求金額を確認して頷く。足りていても素寒貧になっては困るのだが。


「ちゃんと予算を考慮しているわよ。

 うちの商品の大半は安い量産品よ。高いのはオーダーメイド品くらいね」


 確かに俺の分も五千C掛かっていない。価格としては同じようなものを見繕ってくれたのだろうか。

 聞けば二万Cほど。今となっては許容範囲内だが、流石に男のようにはいかないようだ。


「毎度どうも。またね」


 そうしてようやく支払いを済ませ、解放された。

 ああ、外の空気が清々しい。

 PBに確認するともう昼時を過ぎている。流石にお腹がすいた。


「……昼飯にするか」

「……昼食、ですか?」


 またまた不思議そうな顔をするシノ。


「食べない主義とか?」

「……いえ。昼食をとるのは兵士か貴族くらいと……」


 そういえば日本も江戸時代前後まで昼食って文化が無かったとか聞いたことがあるような?

 ファンタジーな文化だと一日二食が当たり前なのだろうか。


「まぁ、軽食程度なら入るだろ。

 確か昨日の酒場、昼はカフェをやっているって言ってたから行くか」


 帰り道だし、と歩き始めたその時────


 どごぉおおおおおおおん


 爆発音が大気を軋ませる。

 突然の音に思わずよろめきながらも音の方を確認すると、新たにバスケットボールサイズの炎の弾を生み出した赤い人影が、向かい合う何者かに放つ瞬間だった。


 再びの爆音。

 急な騒動に焦るが、周囲の人々は冷静だ。何事かと様子を伺いながら、適切に距離を取り始めている。もしかして珍しい事ではないのか?


「あら? 何の騒ぎ?」


 音に釣られたらしいアラクネのお姉さんが店から顔を出す。

 それから煙の上がる方に目を凝らすと、しばらくして


「……ああ、賞金首ね。なにも大通りでやらなくても」


 と、大して気にした様子も無く、むしろ呆れたように言い捨てた。


「賞金首?」


 まだ近くに居た事に気付いていなかったらしい。お姉さんは俺たちを見つけて先ほどと同じ営業スマイルを見せる。


「知らないのね。

 とはいえ、私が説明するよりもPBに聞いた方が正確だわ。

 それよりすぐ終わると思うけど巻き込まれないように注意しなさい。じゃあ、気を付けてね」


 言う事を言ってさっと店内に戻るお姉さん。周りの人も見物に回る者と、何食わぬ顔で歩き去る者に分かれていた。

 取り残された俺は一拍分考えると、


「……とりあえず、距離を取ろうか」


 お姉さんの忠告に従い、シノから荷物を受け取って早足に移動することにした。


 無法都市クロスロード。

 この街で生活するにあたって、もう少しPBさんにご教授頂いた方が良いようだ……

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