●一章-1.エンジェルウィングス
序章一通り修正しました。
未熟者ですが宜しければ引き続きよろしくお願いします。
※前回のあらすじ
死にかけた かーらーのー 異世界生活一日目終了。
この世界には神様が住んでいる!
この世界の創造神は元日本人なのか?
-fate アキヒト-
「採用です。今日からでも良ければお願いします」
「え?」
さて翌日。
寝坊と焦った朝の一幕はさておき、身支度を整えてエンジェルウィングスなる郵便会社の営業店を訪ねていた。
内装の雰囲気は小さな郵便局そのもの。入口すぐに応対窓口があり、その奥に事務机が並んでいる。街の小さな郵便局の内装そのままだ。
用件を告げた俺たちはカウンター脇を通され、仕切りで覆われた応接用のスペースで営業所の人と向かい合っていた。PBに入れてもらっていた紹介状を渡して1分。目の前の穏やかそうな壮年の男性は微笑みながら俺に採用を告げたというのがダイジェスト。
「猫の手でも借りたい状況でしてね。地球世界の、日本の人というなら説明も容易い。歓迎ですよ」
「そんなもんですか……?」
目の前の人はトミナカ タダフミと名乗った。ネームプレートには冨中忠文の漢字。この人も日本人だろうか?
「君は自分ではそうと思っていないが、他人からはよく真面目だと言われますね?」
「……え、ええ。まぁ」
適当にやっているだけ。本気度が足りないという悪口やお叱りも受けますが。
「そのくらいで結構。配達物を横領されたり廃棄されたりするのは困りものですが、責任感が強すぎて潰れてもらっても困るのです。
この世界の郵政は、いえ、この街の経済活動はまだ始まったばかり。柔軟さこそが必要な時期ですからね」
朗らかに笑ってはいるが、なんとなく食えなさそうな雰囲気がある。
「おい、トミナカ。ちょっと良いか!」
事務所の奥から、やや荒っぽい声がかかる。どうやら営業所の奥に勝手口があるようだ。そこから何者かが近づいてくる足音がする。
「来客中ですよ」
「客? じゃあそいつかもしれないな」
しかし声はすれども姿は見えず。トミナカさんの視線から追えば、机よりも低い位置。膝丈よりもほんの少し高い程度の、ホビットとかそういう感じのおっちゃんが鼻を鳴らし俺をじろじろと見る。
「何のことですか?」
「アレが反応を見せたんだよ」
「……。
で、愛宕さん、うちに登録されますか?」
今の流れから向けられる確認っていうのはちょっと意味深すぎやしませんかね……
トミナカさんも半ば冗談のつもりだったらしく、苦笑を浮かべて「こちらにどうぞ」と告げて奥へと向かう。ついてこいと言うことらしい。
逆らう理由も無いので従うと、営業所の裏手にある駐車場に出た。流石にこの広くて人口密度の薄いクロスロードを徒歩で配達ということは無いらしい。白でカラーリングされた自転車や自動車が数台停められていた。
奥には車3台ほど止められそうな車庫。そこが二人の目的地らしい。一つ空いたシャッターの奥にぽつんと一台のバイクが置かれている。スポーツタイプと言うんだっけか、ツーリングに使ったりレース場を走っていそうなデザインのバイクだ。他の車両と違い、赤を基調としたカラーリングがなされている。
「お、反応が強くなったな。やはりこいつらか」
「どちらでしょうね……」
「そろそろどういう意味か教えてもらいたのですけど……」
反応反応と言うが、バイクはエンジンも動いておらず、静かなままだ。
「おい、お前。こいつに乗ってみろ」
「え? 俺、バイクはスクーターしか乗れないんですけど」
実家が交通機関の少ない地域故か、高校卒業と共に自動車免許は取らせてもらった。その時のおまけで原付の免許は付いていたのだが、このサイズだと中型免許が必要なはずだ。
「こいつが動くならテメエの技術はどうでも良い。とりあえず乗れ」
ちっさいおっさんが急かす。トミナカさんもどこか期待するような視線を向けるので恐る恐るハンドルに触れた。意外と大きい。普通に跨ってよいのだろうか? コケたりしないよな? 弁償とか言われても困るんだが。
『アぁ? なんだ、お前』
いよいよ勢いを付けようかと言う段になって、突如響き渡る声。びくりとし、周囲を見渡すが誰も居ない。
いや、この感覚は昨日散々体験した。
「え? PBがグレたわけじゃないよな?」
『こちらではありません』
PBの冷静な突っ込み。音ではないのだが、PBのアナウンスは中性的。一方のさっきの感覚はどことなく女性っぽい感じだった。
「声が聞こえたんだな?」
「……ミュスフェルか」
今度は音声で耳に届く。いつの間にかメーターなどの明かりが灯っており、バイクのどこから音を発しているのかはわからないが、確かに脳裏に響いたイメージ通りの声音だ。
「アヤカが、帰って来たのかい?」
「……いや、お前さん、その坊やに反応したんだ」
「……チ」
バイクが舌打ちし、計器類は沈黙。
「……やはり駄目ですかね」
「ウンともスンとも言わなかったのがここまで動いたんだ。ダメと言うことはあるめえよ」
完全に置いてけぼりの俺たちにトミナカさんが頭を掻きながら苦笑いを見せる。
「ああ、申し訳ない。このバイクは見ての通り知性を持っているのですが……
以前の乗り手が居なくなって以来ずっと沈黙していたのですよ」
「居なくなった、というのは?」
トミナカさんはすぐに答えず、バイクを見つめる。
ややあって、小さなため息を漏らすとぽつりと話し始めた。
「言葉通りの意味です。ある日消息不明になりましてね。こちらでも探したのですが……」
「見つからなかった、と。
自分の世界に戻ったとかではないのですか?」
「それが、彼女の世界への扉は『条件式』でして、何かしらのタイミング以外では開かないのです」
条件式?
PBに補足を求めると、扉には大きく分けて『常時開放型』『定期開放型』『閉鎖型』の3種類があるのだそうだ。『常時開放型』は名前の通り常に異世界と繋がり、いつでも使用可能。『閉鎖型』はどういう理由かは不明だが開かない、あるいは開かなくなってしまった扉。最後の『定期開放型』は定期的に開く、開かないを繰り返す扉だそうだ。
条件式は『定期開放型』の一種で例えば仕掛けを解けば開かれるとか、満月の夜のみ開くなど、何かしらの条件が一致すれば開く扉の事らしい。
「確かに丁度条件が合い、彼女が自分の世界に戻ったというならそれが一番幸いなのですが……
ヴェルメ、彼と一緒に町を巡るつもりはありませんか?」
ヴェルメというのはこのバイクの名前だろうか?
ほんの一部だが、再び機器が光を帯びる。
「お断り」
「あなたのその特性なら、彼女が近くに居るだけでもわかるはずです。
私たちとて彼女の安否を知りたいと願っているのです。彼ならあなたにそれをさせる事ができるのですよ?」
「……」
今度は計器の明かりは灯ったまま、葛藤しているのだろうか
「もう一度言います。私たちとて仲間である彼女の安否は確かめたいのです。
お願いできませんか?」
頭を下げるトミナカさん。その行為をどうやって見ているかはわからないが、長い葛藤の末にバイクは言葉を作る。
「……小僧、名前は?」
「俺? アタゴアキヒトだけど……?」
「アタゴ、ね。 お前、私に乗ってみなさい。テストするわ」
なんか少年漫画っぽい展開が来たのだが、少々待っていただきたい。
バイクで少し走れば100メートルなんて簡単に超えますよね?
「彼女と同乗しても良いですよね?」
あ、バイクさんの機嫌が急落したのをなんとなく感じる。
ただ、こちらとしても命に係る事だ。トミナカさんにもここで働くなら説明しておかねばならない。
さて、なんと言ったものか。




