●序章-14.純白の酒場
序章が一通り終わったら 表現等を修正する予定です。(しました)
内容を変えるつもりはありません。(変わってないはず)
本格的に書こうとすると自分の表現の拙さにぐぎぎな日々です。
※前回のあらすじ
現地通貨をゲット。
リザードマンのおばあちゃんに感謝
-fate アキヒト-
「……すげ……」
思わず声が漏れる。というのも、先ほど雑貨店に入った時には気付かなかったが、店を出て右を見ればいくつものテーブルが道まで広がり、多くの人たちが飲み食いを始めていた。
流石にあの状況に気付かないはずもないので今しがた設置されたのだろう。
道まで広がれば文句の一つも出ようものだが、誰も彼も受け入れているように見える。
ニュートラルロードは幅30メートルもあるらしいのでこの程度では通行の邪魔にはならないのも一因だろう。
「あら? お客さんですか。見ない顔ですね」
エプロン姿の女の子が立ち尽くす俺たちに声を掛けてくる。高校生くらいの年齢の、赤毛の穏やかそうな人だ。イメージで言うと赤毛のアン。
重そうな円テーブルを器用に転がし、空いているスペースに設置している。
「ええ。雑貨屋のおばちゃんに勧められて」
「ああ、クゥイラさんですか。ありがたいですね。
お二人なら、カウンターにどうぞ」
外のテーブルを囲んでいるのは主に探索者のようだ。同じチームでテーブルを囲み、酒を酌み交わしている。
入口には『純白の酒場』という看板が掲げられていた。この店の名前らしい。それを確認しつつ店内に入れば、熱気と雑音、それから様々な料理の香りとアルコールの臭気が一気に押し寄せ抜けていく。
「アルっち、15番、17番あがったにゃよ!」
「はい! お二人カウンターへ!」
「ほいほい! こっち空いてるから座って!」
やたら幼い声に「にゃ」という語尾。
カウンターの向こう側に小学生くらいにしか見えない赤い猫耳をつけた少女が、自分を覆い隠せそうなサイズの中華鍋を豪快に奮っている姿がある。
その前に二人分の席が横並びに空いていた。そこの事だろう。
「おら、立ち止まるな」
後ろから来た客に急かされカウンター席へ。
空いている席に腰かけると、猫耳さんが手を止めることなくこちらを見ている。
「見ない顔にゃね。新規さん?」
「ええ、まぁ」
「ほむ。人間種に、そっちの子は使徒系かにゃ。
メニューは壁に掛かってるから見て。食材の情報はPBで調べて、食べられないものは自分で避けてね」
PBで?
そんな情報まで入っているのかと首を傾げれば、この店に設置された端末とのやり取りで確認ができる仕組みらしい。便利だな、ホント。
「……って、かつ丼とか親子丼とかあるのか……」
「地球世界のレシピ数は頭おかしいレベルと思うにゃ」
壁にびっしりと掛けられた料理名を刻まれた札。その数は軽く300は超えているように見える。いくつかは裏返って空白になっているものの、これだけの種類に対応できると言うのだろうか。
そしてその多くに見知った料理名がある。
「ふわっ!?」
不意にシノが驚きの声を挙げる。何事かと正面を向けば猫耳さんがいつの間にか串を持っており、それが何故か炎に包まれていた。
「ちょっと、アルカ! 魔法で焼かないの!」
「焼き台がもう一杯にゃよ! ほい、ヴィナちん、これ!」
奥からの叱咤の声に悪びれることなく言い返した猫耳さんことアルカさん? が店内に呼びかけると「はぁーい」と元気な返事。猫耳さんよりも幼い、小学校低学年くらいの黒髪の少女が現れ、串焼きの皿を受け取ってまあ店内に消えていく。
「もう、変なところに油が落ちるじゃないの」
「気にしてるのそこなの? 風で受けるにゃよ」
「ならいいわ」
三度カウンターを見れば、寸胴を置きながらブロンドの女性が猫耳さんにジト目を向けていた。こちらも高校生ぐらいだろうか。エプロンの上からでも分かる主張の激しい胸からは視線を逸らしておく。
だが彼女はこちらの視線に気づいたらしいが、幸い営業スマイルを浮かべてくれた。
「注文は決まったかしら?」
「え? あ、すみません」
色々目移りしてそれどころではありませんでした。
「別に謝る必要はないわよ。
……魔法の無い世界の出身者かしら? だったらこちらこそごめんね。
この子、たまに横着するから」
「この子って、あたしフィルっちよりも年上なんだけどー?」
「だったらそういう態度しなさいよ」
「えっ?」
つい声に出てしまった。
慌てて口を塞ぐが、ブロンドの女性は吹出し、猫耳さんはむすっとした顔をする。思いっきり聞かれています。
「アルカは妖怪種だから外見年齢変わらないのよ」
「ちゃんと旦那も居るんだから惚れちゃだめにゃよ?
あと、そっちの子がお伺い立ててるにゃよ。早く決めたら?」
目の前のやり取りに圧倒されていたのだが、猫耳さんに言われて傍らを見れば、ちょっと切なそうな顔で俺を見上げるシノの姿がある。
「決まったなら注文していいぞ?」
「……アキヒトは何にするのですか?」
同じものが良いですの流れですねわかります。
際限なくワンコ化するシノだが、俺と会う前はどうしていたのか。元々誰かと暮らしていたが、俺と同じく事故でこちらに来たパターンなのだろうか? 買い物の時の感じといい、一人で生きていたとは思えない。
疑問を浮かべている間にも、不安そうな表情が滲みだしたので、慌ててメニューを確認し、無難そうなクリームパスタとパンを頼む。ご飯系の方が好みなのだが、案の定同じものと言い始めたシノには馴染みが無さそうだ。
するとPBからのアナウンス。400Cの支払い要求に対して許可をするかという問いかけ。先ほどの雑貨店ではリザードマン……
クゥイラさんですね。PBさんサポートありがとうございます。マッチョメンの時もお願いします。
彼女の行為で支払いが無かったが、このようにやり取りがなされるらしい。
応じるとPBからの残金アナウンス。
「ほい、お待たせ」
「え? 早っ!?」
支払いが終わるや否や差し出された皿から、馴染みのあるホワイトクリームの香りが鼻腔をくすぐった。肌色がかった白い麺も確かに見知ったパスタだ。
「これくらい回転上げないと追っつかないにゃよ」
切って焼いたフランスパンを出しながらウインク一つ。次から次に最初の子から飛んでくる注文に時々猫耳をピクリとさせながら料理を進めていく。
「じゃ、冷めないうちに食べるか。って食べ方、大丈夫だよな?」
「はい」
PBのサポートもあるだろうし、と自分の前の皿に向かう。いい加減空腹も限界だ。
流石に啜るのも憚られたのでフォークにきっちり巻き付けて口に運ぶ。
美味い。
期待通りに美味い。料理漫画にあるような長たらしい口上が必要なほどではないが、ホワイトクリームの風味が鼻を突き抜け、同時に胃に落ちると、充足感と共に安心感を覚える。
実は見た目だけで全く別物ではないかと、ほんの一瞬だけ疑ったが、間違いなくこれはクリームパスタだ。
「……ほぅ」
シノも幸せそうに吐息を漏らす。どうやらお気に召したらしい。
「うちはいろんな世界の料理をなるべく再現しようとしてるから、もう少ししたら相当混むにゃ。近くに住んでるならこのくらいの時間に来ることをお勧めするにゃよ。
お昼はカフェもやってるしね」
俺たちを楽しそうに見る猫耳さんの言葉にうなずきを返し、ザクリと音を立てるパンを齧る。こちらもしっかりと塗られたバターの塩気と甘みが満足をくれる。
周囲は相変わらずのリアル仮装パーティ状態だが、気にしなければ素敵な世界なのではないだろうか。
そんなお気楽な言葉を浮かばせながら、至福の時は過ぎていくのだった。




