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●序章-13.トカゲの雑貨店

ナビゲーターの物語は都市案内。

序章が終わったら別のシリーズで戦闘バリバリのやつを並行しようかなと画策しております。


※前回のあらすじ

 見事な一軒家です。

 神話食らいは迫害されているっぽい。

 好感度が上がった。

 -fate アキヒト-




 ふと外を見れば日が傾き始めていた。

 時間を確かめると、もうすぐ18時になろうとしている。

 なおこの世界、一年が365日で一日は24時間とのこと。季候も日の傾き方も日本に近いらしく、何度目かの『俺の見ている夢』説が脳裏を過る。


「日が暮れる前にやっておきたいことがあるんだけど、外出しないか?」

「はい」


 お互い身一つだ。準備する物なんてない。二人して玄関から外へ。

 傾き始めたと言っても6の月、まだ空は十分に明るいようだ。


「どこへ行くのですか?」

「スポットって言われる場所だよ。まずはそこだ」


 大通りに出ると先ほどよりも多い人の流れに直面する。こうして数が増えると人間型が多い事がわかる。角が有ったり子供にしか見えなかったり身長が3m近くあったりする者も散見されるが、そういうのをひっくるめても『人間』ぽい種族が大多数を占めるようだ。

 ちなみにこの街では『言語の加護』を受けられた者を『人』と称するらしい。というのも、例えば見た目は四本足で歩く『犬』でも言語の加護を受けるものと受けない者が居るのだそうだ。元々有していた知性の差というのが有力な説なのだが例外もあって定かではないとのこと。


 それからもう一つ、道を行き交う多くの人が武装していることだ。剣や槍といったファンタジックな近接武器から銃、砲、パワードスーツなどなど、様々。彼らが『探索者』という類の来訪者で、町の外での仕事を終えて町に戻ってきたのだろう。


 しばしその光景をぼうと見ていたが、我に返ってPBのナビゲーションを受ける。先ほどの場所から十数メートル歩いた先に目的のスポットはあった。

 見た目は銀行ATM。そして機能もそれに近い。俺は血塗れの財布を取り出し、なけなしの二千円と小銭をその機械へと放り込んだ。

 数秒の間。付属する画面に表示される『2403CRC』の文字。このCRCというのがこの町の通貨単位でクロスロードチップの略とのこと。普段は『100C』と省略される。俺の認識する限り、発音は『シー』、或いは『チップ』。

 つまりこれは両替機だ。了承のボタンを押すと、脳裏に『2403CRCを受け取りました』とのアナウンスが流れる。


「……両替ができるのですね」

「手数料は取られるらしいけどね。これで今日の飯代くらいは何とかなればいいんだけど」

「私も交換しておきます」


 彼女は袖からきんちゃく袋のようなものを出す。中に入ってたのは長方形の金属。一つ一つは指先に乗る程度の大きさだ。


「それがシノのところのお金?」

「はい」


 くすんでいるが金や銀なのだろうか。それらを機械にざらりと投入すると10万Cほどの金額が表示された。

 え? なにこれ、凄い敗北感。


「アキヒト。アキヒトのPBに登録しておいてもらえませんか?」

「え? いや、シノの金だろ?」

「アキヒトの方がこの町に慣れているようなので。

 それに私たちは離れられませんから」


 確かにこの街のシステムそのものは俺の知る世界に近いと思う。さっきの家だって水道やコンロ、トイレ、風呂なんてのは見ただけである程度使い方は分かった。


「PBに聞けばある程度の事は分かるんだし、俺の慣れなんて大した差じゃないよ。

 それに金の事はしっかり分別を付けるべきだ」


 じいちゃんの教訓。くれてやる覚悟が無いなら金を貸すな。若干現状とは違うが、預けるって事はそういう事だと俺も思う。


「……そういうことを言われたのは初めてです」

「俺も人に言ったのは初めてだよ。とりあえずシノの方が色々と物入りだろうから、今はそのままにしておいてくれ」


 若干借りるかも、という言葉は飲み込む。流石にこの流れで口にできる言葉ではない。

 明日の仕事次第になるかもだけど。


「まずは物価を確認しておこう。明日の事にも関係するし」


 生活できる程度の賃金を頂けない事には先が無い。

 心もとない金を手に、もとい腕輪に大通りに並ぶ店を覗き見ていく。

 店は思った以上に多種多様で基本的には専門店のようだ。そんな中で商品数の豊富な雑貨屋を見つけたので値段を確認する。タオルやせっけんの類は200C程度。思ったよりもかなり安いが今の俺には十二分に痛い額だ。

 他の商品を見ても、生活用品については比較的安価のように思える。時々正体不明の何かがやたら高額な値段で置かれているのだが、今は見なかったことにしておこう。


「ふむ。1Cが1円くらいの換算で考えて良さそうかな……」


 正直百円均一が恋しい懐具合だが、まずは今日をしのぐべく、タオルを購入しておこう。下着は風呂に入った時に洗って、夜中干しておくしかないか。

 シノに下着やらなにやらと話すのはセクハラっぽいので「必要な物があれば買っておいた方が良い」とだけ言っておく。

 しかし彼女はうろうろと商品に視線を彷徨わせるだけで最後には困ったように俺を見上げた。


「ええと、シノさん? 買い物の経験はおありで?」

「……村で食料を分けてもらうくらいでした……」

「いやでも、随分お金持ってたじゃないか」

「あれは……」


 口ごもり、俯いてしまう。

 盗んだ金です、ということはなさそうだが……


「あー。すみません」

「なんだい?」


 空気を換えよう。そしてこういう時はお店の人にお任せだと店の奥に座っていた人影がに声を掛けると、ぎょろりとした目がこちらを睨み付けた。

 「Theおばあちゃん」風の浅黄色の服に割烹着を着ているのだが、その下には深緑色の鱗がぬらりと輝いている。

 リザードマン、と言うヤツだろうか。二足歩行するトカゲがゆったりとこちらに近づいてくる。


「あー……俺たち、今日、この世界に来たばかりなんですけど

 生活雑貨が全くないんです。とりあえずこの子が今日をしのげる程度に見繕ってくれませんか?」

「おや、それはそれは。大変だったねぇ。

 あんたら、この近くに住居があるのかい?」

「ええ。ここからだと歩いて10分程度ですね」

「なら、サービスしないとねえ」


 笑った気配はあるのだが、ぎょろぎょろと動く目が気になって表情が分からない。若干耳の下まで避けている口が笑みの形になったようには見える。

 リザードマンの老婆? は紙袋に石鹸やタオルを無造作に入れると、シノへと差し出す。


「引っ越し祝いって事にしておこうかね。次からは御贔屓にしておくれ」

「え? 良いんですか?」

「あまり金が無いんだろ? 次来た時に甲斐性見せないならちいと考えるがね?」


 見透かされたらしい。あるいは『彼女の』と言って自分を除外したから悟られたのかもしれない。


 差し出された紙袋に戸惑いまくったシノだが、やがておずおずとそれを受け取り、胸に抱きしめる。


「ありがとう……ございます」

「ふふ。お嬢ちゃんも御贔屓にしておくれよ」

「……はい」


 と、不意に「くぅううぅ」と小さな音が店内に響く。


 なんだろうと周囲を見渡せば、色白の頬を真っ赤にして俯くシノが目に入った。

 そういえばお腹すいたよなぁ……どこからともなく、おいしそうな香りもしてきているし。確かにこの香りは空腹を自覚させるなぁ……


「ケッケッケ。ここから四件右に良いお店があるから行ってみるといい。

 あんたの懐具合でもなんとかなると思うよ」

「何から何までありがとうございます。また来させてもらいます」

「なんだい、良いとこのぼっちゃんみたいな言葉遣いだね。

 まぁ、礼儀正しい事ははいいことさ。はいはい。またねぇ」


 羞恥からか、目の端に涙をにじませて小さくなっているシノの手を取り、立ち上がらせる。


「ほら、シノ。行くぞ」

「……うぅ……」


 俺を見上げ、それから恐る恐るリザードマンのおばあちゃんに視線を向ける。相変わらず爬虫類特有のぎょろりとした目だが、今となっては慈しみ的な物を感じる眼差しだ。 

 これ以上店の真ん中に陣取り続けているのも迷惑だし、行くかと足を踏み出そうとしたらシノがちょんと引っ張って止めた。


「あ、ありがとうございました」


 何とか絞り出した感謝におばあちゃんの口の端の上がりが一段増す。


「はい。またね」


 メイン雑貨屋決定。次来た時に頭から齧られないようにしなければと決意をしつつ、俺たちはその店を後にするのだった。

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