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●序章-12. 新居と不安と

流れで毎日投稿してますけど、明日明後日は動画作成を優先するつもりです


※前回のあらすじ

 この街は怪物の脅威に晒されている!

-fate アキヒト-




 さて、PBのナビゲートに従って歩く事 五分。

 建売住宅地で見られる同じ建物がずらりと並ぶ光景が続く。しかも数区画に渡ってだ。その区画も京都のような綺麗な碁盤目で起伏も無いため、自分が何区画歩いたのかわからなくなってくる。

 追い討ちをかけるように家のデザインも長方形を組み合わせたようなシンプルなものだ。流石にここまでくると作った側もまずいと思ったのか庭に植えられた木の種類や外壁の色でアレンジを付けたようだが、PBのナビゲーションでなく、紙の地図を渡されていたら迷子になっていたかもしれない。


「それにしても……日本のお父さんが拳の骨が砕けるまで壁殴りそうな家だなぁ……」


 最低でも4LDKありそうな二階建てで庭付き。

 これが無償で貸し出されているだなんて贅沢すぎる……。


「どうしてですか?」

「俺の国は土地が狭いくせに一都市に人口が集中しているから、家を手に入れるのに物凄い金が掛かるんだよ」


 手に入れたら手に入れたで税金が山のように掛かるから賃貸が一番と、親父がお袋に言い訳していたワンシーンを思い出す。世知辛いものだよなぁ


「王都にはそういう場所があると聞きました。同じような理由でしょうか」

「しょうか、と言われてもな。でも多分似たような理由だろうよ。

 ここか……うーん。やはり一戸建て」


 ずらりと並ぶ同じ家の途中、一つだけ違うということもなく、新築にしか見えない一戸建がゴール地点だった。見える範囲の周囲では一軒だけ人が住んでいるらしく、物干しロープと洗濯物が見えたが、他の家は空き家のようだ。


「……入るか。

 流石に疲れたし」


 門扉を開けて玄関へ。玄関にはノブが付いているが鍵穴は無い。


「PBがカギって言ってたっけ?」


 開け、と念じてみるとロックが外れる音がした。本当に便利すぎる。

 戸を開ければ玄関と廊下、左右の部屋に繋がる扉、そして二階への階段が視界に入る。

 違和感としては玄関に段差がない事。……あ、これ、靴のままってことか。


「シノ、家に上がる時に靴を脱いだりするか?」

「しません。ここはそうなのですか?」


 ですよね。そういえば日本はどうして靴を玄関で脱ぐんだろうな……畳を傷つけるからか?


「いや、違うみたいだ」

「……? アキヒトの世界の風習ですか?」

「世界っていうか、うちの国の文化だな。理由はわからないけど。

 ここはそんな事無いみたいだから勝手が分からなくて」


 PBに問い合わせてみても回答は無し。変な使い方して物を壊すと修繕を求めることがあるのでという定型的な注意がある位だ。ご自由にということだろう。


「ベッドに上がる時くらいですね。靴を脱ぐのは。

 貴族などは室内用の靴に履き替えると聞いたことはあります」

「スリッパかぁ……個人的には欲しいな」


 靴のままというのは蒸れるし落ち着かない。しかし先立つものが無いという現実が肩を重くする。

 先ほどPBで確認した情報に数日は凌げるかもしれない話があったので、後で試そうとは思っている。

ともあれ今は目の前の事だ。家の中を確認することにしよう。


 そして十数分後。


 俺たち二人はキッチンが隣接しているリビングで顔を突き合わせていた。

 テーブルと椅子が四脚。そう、家具も付いているのですよ、ここには。後ろにソファーもあるし。


「貴族の御屋敷みたいです」


 興奮の滲む声。ちょっとだけ頬も上気している。

 貴族の御屋敷と評するには手狭だろうが、モデルハウスなどに感じる「お高いんでしょ?」と言いたくなる雰囲気がある。

 そういえばテレビは無いけど……もしかして100メートルの壁とやらに影響されるのか?


『電話、電波、念話、転移の類は100メートルの壁の影響を受け、使用できません』


 PBの回答は予想通りのもの。って、これだけ広い町なのに通信手段がないのか。

 あと転移なんて単語が出てくるあたりファンタジーだなぁ……。SFかもしれないけど。


『音と光に関しては大きな影響が無い事を確認されているため、それらを駆使した連絡手段を展開中です』


 そういえば100メートルより向こう側が見えない、と言うことは無かった。音も同じってことは、糸電話とか伝声管は通用するのだろうか?


『伝声管は使用可能ですが、糸電話は100メートルを超えて使用できません』


 どういうことだ?


『調査中です』


 さいですか。


「広いし、俺も驚いた」

「……でもアキヒト。本当に一部屋使っても良いのでしょうか?」

「本当にって、二階には三部屋あったんだから問題ないだろ」

「ですが……」


 贅沢に対しての遠慮、というより、自分が良い目を見て良いのかという不安が垣間見える。

 

 先ほどまでの興奮は引っ込み、うつ向いて、こちらを伺う小動物。放っておくと俺のメンタルにダメージが蓄積していきそうだ。……後々にも引っ張りそうだし。

 こういうのに踏み込む甲斐性は無いので胃がきりきりする。空腹もあって胃酸が出過ぎているのかもしれない。


「シノ、もしかして『神話食らい』って種族は迫害されていたりするのか?」


 びくりと、可哀想なくらいシノが跳ねた。やはりそこだよなぁ。


「責めてるんじゃないからな?

 ここじゃそんなの関係ないから、って言いたいだけだ」

「え……?」


 目を真ん丸にするほど予想外だったのだろうか。


「シノは俺の命の恩人。ここじゃそれが全てだよ。

 だからって何かできる事もないのは申し訳ないんだが」

「それは……!」


 何かを言い募ろうとして、しかしその言葉はぐっと飲み込まれてしまった。


「一緒に居たら衰弱して死ぬとかなら対策取らないといけないけど、そういうわけじゃないんだろ?」


 そうならマッチョメンが何かしら言っているはずだろうし。

 ……もうマッチョメンの名前思い出せないんだが、今度検診に行くまでに覚えておかないと命が危ない気がする。


 迷いと驚き、それから期待、だろうか。それらの感情をミキサーでかき混ぜている少女に不安が募る。

 傷付けまいと選んだ無難な言葉なのに過剰なくらい好感度が上がっているのはそれほどに彼女が酷な環境に居た証だろう。


「難しい話だし、知らないヤツが適当言うなって思うかもしれないけど、それじゃだめか?」

「……はい。ありがとうございます。アキヒト」


 弱弱しくも浮かんだ笑みを見て、ホッとしつつも内心の不安を顔に出さないように抑え込む。

 目の前の少女が悲しそうにしているのは心が痛い。だから何とかしたいとは思う。


 でもなんか、俺の今後、進退窮まってませんかね?

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