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●序章-11. 街の歩み

前歴2~1年の事は別のシリーズで語ろうかなとか考えたり


※前回のあらすじ

 同居決定

 郵便屋さんの仕事を紹介されました。

-fate アキヒト-




 新居最寄りの駅で路面電車を降りる。

 日の光に前頭葉がズキリと痛み、思わず額を押さえて軽く頭を振った。

 電車に揺られている間、可能な限り確認しておこうと色々PBさんに聞いたところ、疑問が乗算で増えていく状況に陥っていた。頭の中で様々な言葉が躍っているように思える。

 とりあえず理解できたことを整理しよう。


 ・この世界は約二年半前に突然いろいろな世界と繋がった。

 ・その後、この世界の争奪戦があったが、『大襲撃』と呼ばれる事件で戦争は中断。

  取り合っていた三世界は大きな被害を受けて撤退した。

 ・残った者たちが管理組合を組織し、様々な技術を駆使してこの町を作り上げた。


 これがこの町の成立までの簡単な流れだ。

 

 現在はこの町の年号で『新暦』1年6の月。ちなみに管理組合の発足と町の開発の開始が新暦の始まりで新暦1年1の月となる。その前、この世界と数多の世界世界とが繋がった「開かれた日」と呼ばれるのが前歴2年1の月になる。

 なお、前歴は紀元前と同じ数え方で、前歴1年の12月の次が新暦1年の1の月となるとのこと。


 半年足らずでこんな大都市を組み上げる方法は全く想像が付かない。あらゆる世界の技術を駆使できるというチートの結果なのだろうけど、それにしたって常軌を逸している。

 そんな技術力と生産力を持ったクロスロードだが、直径三十キロの壁の外への拡張はほぼ行われていないという。その理由が先にも出た『大襲撃』という事件の影響だ。


 この世界には『怪物』と呼ばれる存在が居た。クロスロードと同じで全く統一性の無い、違う世界から現れたかのような多種多様な、しかし『言語の通じぬ』者たちが、破壊衝動と殺意だけを抱きこの地を目指して殺到したのだ。

 ────その数、計測不能。万の単位に至っていたことは間違いないらしい。

 この世界の所有権を巡り争った三つの世界に共闘を敷いてなお、その恐怖の津波は数多の命を脅かし、昼夜問わず飲み込み続けた。余りの犠牲に争っていたうちの二つの世界が撤退を決定。一気に戦力を減じ、死を覚悟した彼らの前に現れたのは「救世主」と呼ばれる凄い力の持ち主だった。

 あまりにもタイミングを見計らった登場だが生き残った来訪者達は確かに救われた。

 その後『救世主』と呼ばれた四人、或いは四体は何処かに消え、生き残りが力を結集して作り上げたのがこの街ということだ。

 だいぶ端折って聞いたので、時間がある時にでも再確認しておこう。


 凌ぎ切ったと言っても怪物は死滅したわけでなく、今もクロスロードを目指しやってくる。その為、管理組合は常時クロスロードの周辺を回り、怪物を迎撃するという防衛任務の求人を出しているそうだ。

 そりゃ戦闘能力の有無を聞かれるよ。戦える人間は一人でも欲しいだろうから。


 怪物───この世界の『災害』

 この街は決して異種族が仲良く暮らす楽園などではない。

 この地に暮らすと決めた者たちが手を取り合い生きる最前線都市だった。


「とんでもないところに来ちまったのかぁ……」


 いまでこそ十数メートルの高さを誇る防壁がこの町を囲っているが、大地を数日間埋め尽くし続けた怪物の群れにどこまで意味があるか、その光景を見ていない俺には正直わからない。

 帰れるなら尻尾を巻いて帰りたいところだが、許されない身の上だ。探索者の皆さんと町の防壁を信じて日々を生きるしかないのだろう。


「怪物のことですか?」


 シノも俺と同じくPBで調べ物をしていたらしい。やはりそのワードにぶち当たったようだ。


「まぁ、な。そういうバケモノが居ない世界なんで」

「平和な世界なのですね」


 その言葉には憧憬のようなものが滲んでいた。日本並みに平和な世界というのは希少なのかもしれない。地球だって先進国と呼ばれている国でも割と治安が悪いところは多いと聞くし。


「……ここと比べればね」

「帰りたいですか?」


 目的は家に向かう事。それを思い出して歩を進めた俺の背中にシノの言葉がぶつかる。

 女心に関わりの薄い俺でも「帰りたい」と答えるのはNGだと察した。正直に言うと、漫画とかで感情のままに「うん……」と返事をした結果が脳裏に浮かんだ。

 しかし、それなら何と答えるべきなのだろうか? 嘘は嘘で後で何かの問題に発展しそうな気がする。重ねて漫画知識で申し訳ないが。


「すぐに帰りたいと思うほどこの世界を知ったわけじゃないし、恩人のシノに不義理は働きたくないかな」


 PBによる確認作業で疲労困憊の脳がどこかの誰かが言ったような回答をひねり出す。

 すぐに自分の発言を反芻し、らしくないと顔が赤くなるのを必死に抑える。


 幸いシノに顔は見られない。気持ちを切り替えよう。


 シノの言動の端々には『神話食らい』という種族に対する忌避感、それから世界に対する拘りのようなものを感じる。最初は人見知りに見えたし、その後の懐き方は少々極端にも感じた。

 ……『食らい』なんてワード、悪いイメージしか抱かないし、もしかして迫害されていた種族なのだろうか。とすれば、使い魔という明確な仲間になった俺は人恋しさを紛らわす格好の相手なのかもしれない。いきなり名前呼び捨てだったし。


「この世界がヤバそうならシノがこっちの世界に来ればいいさ。

 この世界なら戸籍とか情報の改ざんくらいやってくれそうだし。

 ……というか、やってもらわないと俺も戻るに戻れそうにないんだよなぁ……」


 せめて親に連絡の一本も入れたいが、出来たら出来たで当然両親や警察は俺を探す事になるだろう。この世界が公になっても良いかといえば、先ほど調べた三世界の戦争が思い浮かぶ。三世界の一つ、ガイアスは俺の世界より少し発展した地球のようで、その再現が起きるのではないかという怖さがあった。

 しかし、魂の完治まで何日かかるか分からない。二月も行方不明となれば碌な言い訳では通用しないだろう。

 段々胃が痛くなってPBに問い合わせると、移住の補助をしてくれる業者がすでにあるらしい。記憶の改ざんや住民票の偽造と言われるとそれはそれで思う所もあるが、考えるのはその時にしよう。何とかなる方法があるというだけで今は安心しておく。


 っと、また自分の事に耽ってしまった。シノは沈黙のまま俺の後ろに付いてきている。


 ……。

 あれ? 疲れた脳がなんとか良さげな言葉を探そうとして妙な事……というか、どこかの漫画の引用のような、非常にアレな台詞を口にしていませんでしたかね、俺?

 そっと振り返ってみれば……シノさんのほんのり頬が高揚を示している気がする。傾いた日の加減でしょうか。……それとなんかぶんぶん振られている尻尾の幻が見えるのですが。ちょっと気軽な事言っちまった……?


「あー、まぁ、今はどうしようもないんだし。早いところ家に行こう。

 色々あって疲れたし」

「はい」


 機嫌良さげと感じるのは気のせいであるまいが、これから行動を共にするのだし、険悪な雰囲気よりはよっぽどいいか。


 ちなみに今日の夜、俺は自分の発言を思い出して発狂する事はきっと確定事項だろう。

 俺、実は何かに憑依されてたりしませんよね? 不思議パワー的な……

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