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第七話:ここから

一応、双子編は十話までよていしています。

七、

 それは幻影、それは残像。

 見えない影におびえ

 見えている恐怖におびえない

 矛盾する状況に彼は………

―――――

 気がついたら午後だった。

「…………」

 遅刻だ。それ以外のなんでもない………ことだ。無断欠席。

「頭………いてぇ」

 昨夜のドンチャン騒ぎが確実に俺を苦しめているのがよくわかる頭痛。二日酔いってのはつらいもんだ。何故、未成年の俺が苦しみを知っているのだろうか?

「おや、やっと起きたかい?」

 部屋の中にはばあちゃんがニュースを見ながら座っていた。じーちゃんも近くに座ってお茶をすすっている。

「学校には休むって伝えておいたからね」

「………ごめん、ありがとう………」

 ふらっとなる体を足で支えておきると、じーちゃんが指差したところに置かれていたおかゆをじっと見る。

「遅すぎる朝食が体にいいかは分からないけど食べておくんだぞ」

「うん、分かってる」

 じーちゃんとばあちゃんは何も言わずに俺の部屋から出て行った。きっと、何か用があったのだろうが、俺が二日酔いであることに気がついていて今話しても無駄だと悟ったのだろう。じーちゃんばあちゃんが話そうとしたことはなんだろうか?今の俺の脳みそでは考え付くことなど出来ない。

「屋上にでも、行くか」

 誰に言うでもなく………しいて言うなら漠然とした不安を持っている自分に言い聞かせたのかもしれない。

――――

 屋上にはすばらしいほどのそよ風が吹いていた。そろそろ夕飯の買い物時の今に俺は寝ぼけ眼でここまできた。なんだか、自分が何を言っているのかわからなくなってきたが、そんな自分の思考を切り替えるためでもある。

「…………」

 夕日を見つめることもなく、道行く人を眺めることもなく………俺はただ、空と大地の狭間を見ていた。

母さんと父さんの命日まで………後、三日。

毎年毎年考えているのだが、父さんは………本当に母さんを殺したのだろうか?時がたっていくたびに俺の中での父さんと母さんは消えていっている様な気がするのだ。

いつか、殆ど思い出せないという日が来てしまうかもしれないという不安がある。

そんなことはないだろうが。

母さんを殺したことに間違いはないはずだ。

警察官だって言っていたし、遺書にも自分が殺したと………震える字で書かれていた。ただ、ただ………おかしいと思うことは子どもながらにあった。母さんは父さんの家系で家宝と言われていた日本刀で刺されていたのだ。心臓を貫かれていた母さんの顔は………微笑んでいたと俺の記憶は言っている。人は死ぬとき、微笑むことが出来るのか?

 瞬間的に強めの風が吹き、俺の短めの髪は若干風を感じた。

 俺はこれからどうするべきなのだろうか?ただ、ただこのままずっと平凡な一日を積み重ねていき、あの頃はああして笑っていたなぁと思い出すだけでいいのだろうか?それだけではいけない気がする。俺がするべきことはそれではない。そんな気がするのだ。俺の人生を変えたのはやはり、あの事件………もう一度詳しく思い出す必要があるのではないのだろうか?双子のことを考えるのではない、あの日の出来事を客観的に考えるべきなのだろう。

 だが、俺にとってあのことは既に終わったことなのだ。いまさら思い出しても………

『あの日から僕らはあの双子に辛酸をなめさせられてきたんだろう?』

「違う、あいつら二人は関係ないだろ?ただの………お隣だ」

『そうなのかな?僕はそうは思わない。大体、不幸を呼ぶ少年なんておかしすぎる。今考えてみてくれよ。成長した君にならわかるはず』

「関係ないっていってるだろ!!!!!」


がたんっ!!


 屋上の扉に何かが当たる音がした。俺は静かにそちらへ視線を向ける。

「…………辰也君?」

「里香……か」

 そこにいたのはあの日となんら変わっていない………俺を恐がっている目があった。絶えられず、目をそらす。まぁ、考えてみればこの屋上に先ほどまでいたのは俺だけだった。心の中で叫んでいたつもりがきっと、口から出てしまったのだ。いきなり騒ぎ出したら誰だって………驚くだろう。

「…………」

「…………」

 先ほどまで吹いていたすばらしいそよ風はどこかに去ってしまい、重苦しいだけの沈黙がその場を支配していた。

 いたたまれなくなった俺は、部屋に戻るために里香の隣を通って階段に行こうとしたのだが………

「待って」

 俺の目の前に里香が立ちふさがる。その瞳にはもう先ほどまでのおびえたような色は見て取れなかった。

「何だよ?俺に何か用でもあるのか?」

 責めているつもりではないのだ。だが、口調は厳しいものに徐々になりつつある。ただ……ただそれだけで里香はおびえた瞳を俺に向ける。

「用って言うか………ちょっと、お話したくて」

 控えめでおしとやかな妹…………彼女は俺に対して真っ向からおびえた瞳を向けてくる。

『押し退けても部屋に戻っちゃいなよ。あの日のこと、思い出しちゃうよ?』

 あの日の俺はそう言っている。そして、里香はもうしゃべることもなく、ただ、俺の答えを待っているのだろう。

「………わかった、何だ?」

 結局、俺は昔でさえ明確な意思をあまり見せなかった里香のちょっとした一面にものめずらしさを覚えて里香の提案をのんだのだった。

―――――

 無風、ただ、二人の間に吹く風は重いものだったといっていい。話がしたいといった里香は一生懸命俺に話しかけてきてくれている。昔はあんまり話していなかったし、こちらが話しかけてもただ頷いたりするだけだった彼女は様々なことを話しかけてきてくれて入るのだが………

「あ、あのね、そのことについて辰也君はどう思う?」

「え、さ、さぁな………」

 俺のほうがどう答えたらいいのかさっぱりわからない。だから、重いものだ。会話のキャッチボールなんてものじゃない。ボーリングの玉を投げあっている気分である。

 そんな俺にとっては苦しい光景は十分ほど続いた。俺の中の時計では軽く一時間は越えていたと思ったんだがな。

「え〜と、じゃ、また明日………」

「ああ、また、明日な………」

 変貌してしまった里香に戸惑っていた自分が情けなく思いながらも、悪い気はしなかった。

「また、明日………屋上に来てくれるかな?」

「え?あ………さぁな」

「ふふ、出来たらでいいから」

 軽く笑ったその微笑にぎょっとしながらも、俺は逃げるようにして自室の扉を閉めた。形容しがたい感じが俺の心の中で暴れまわっている。

「……………」


 アルバムがみたい。切にそう思った。傷ついたっていい、笑顔を見ることができるなら。


 押入れの中を引っ掻き回すこと、十分。夕食も食べずにがんばっているとようやくそれは俺の目の前に顔を出してくれた。埃を被って、俺の手に乗ることをずっと、ずっと夢見ていたのかもしれない。それはずっと俺がそらし続けていたあの日の前の思い出、捨ててしまいたかった思い出だ。

 適当に開けると、写真の中の俺は確かに笑っていた。そう、心から笑っているといっていい。その左右にいるのはあの双子だろう。面影がきちんと残っている。これは………小学生になってすぐに皆で撮った写真だ。

「?」

 そこで、妙な感じがした。よく考えてみるとおかしな話だ。父さんたちが死んだのはもう、それこそ十年ほど前だ。物心つくかつかないぐらいの時期の隣の男のこのことなどおぼえているはずがないのではないか?


 こちらが覚えているからといって、あちらが覚えているという確証はない。


 許す、許さないの前に何か重要なことを俺だけが知っていない気がする。あの日の俺と今の俺はあの日の事件でつながっている。では、あの双子と俺は?俺側からは裏切りと失望があの双子とつながっている何よりの証拠だ。あちらはどうなのだろうか?一緒にいた時間は本当にちょっとだ。罪悪感なんて感じるものだろうか?

 こんなことを考えている間もアルバムをめくる手は止まらない………小1の頃の誕生日に向けてほぼ一週間ごとに撮られた写真は進んでいく。

「…………」

 ふと、一枚の写真のところで俺は手を止めた。それに双子は映っていない。親戚とかと一緒に撮った写真だ。

「………」

 皆、笑顔だったのだが………一人だけは笑っていなかった。

 俺は、その顔が誰か勿論知っていた。


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