第7話 ティアナ・ヴァンデウス視点
小さな銀竜を持ち帰った後、私は従魔契約の準備をするため父様に報告と許可を申し出た。
「父様銀竜を捕まえたので従魔契約の許可を頂きたいのですが構いませんか?」
「銀竜とは珍しい。訓練所は空けておこう。私も銀竜を見てみたいからな。準備が出来たら呼んでくれ。」
「はい。分かりました。それと鑑定水晶を使いたいのですが?」
「ふむ。初めて見る銀竜だからな。ステータスの情報を入手できるか。訓練所に持ってこさせよう。」
「はい。ありがとうございます。それでは。」
書斎から出る。表情はあまり変わらないが従魔契約の儀が楽しみであることは分かっている。
私室に戻るとセフィリアがお菓子と紅茶を用意していた。
「お姉様ようやくいらしたのですね。」
「そんなに遅くなった覚えはないのですけど。」
セフィリアに促されてソファーに座る。
「それであの子を従魔にしようと思った理由はなんですの?あの子は確かに可愛いですけどそれだけではないのでしょう?」
全く、天真爛漫なのに恐ろしく勘がいい妹だ。
「ええ。この眼で未来を視たのよ。この子が大きく成長した姿のね。」
本当はもう一つ理由があるのだけどそれは見たくはなかった未来でした。今は話さずに後で父様に報告しておこう。
それから雑談をしながらティータイムを楽しんでいると
ダンッ!
とベットの方から音がした。
どうやら目覚めたようだ。
「ようやく目が覚めたようね。」
「大丈夫ですわ。危害を加えることはありませんよ。」
そうは言っても人間の言葉が通じてないことは分かっている。これだけ小さいのだ。生まれてからそれほど月日は経ってないだろう。
ドアも閉まっているし外に出られない。
そう思っていたがベットの脇にいた銀竜が一瞬でドアの前に現れて跳んでドアノブを回して開けてしまった。
今の移動は明らかに縮地だ。私はまだ使えないが団長クラスでしか使っている者を見たことがない。これにも驚いたが何より魔物なのに開け方が最初から分かっていた動きだった。
銀竜は開けたドアから廊下に出て走っていく。私も走るが差が少しずつ離れてく。
あの身体で私よりも重いのに速さで私の上をいく。あの子には関係ないことだろうけど少し腹が立つね。
「そこの銀竜を捕まえてください。」
銀竜を追いかけながら近くにいる警備兵に呼びかける。
その指示に従い兵士達は銀竜を追いかけたがあろうことか銀竜は正面から飛びついてきた兵士の腕を取りその場で勢いよく回転して後方の兵士に投げ飛ばした。明らかに力が常軌を逸してる。
その上、不満そうな表情をしていた様な気がする。
私はこの銀竜には知識と知恵があるものと判断した。
銀竜はそれから大きな扉を開けて中に入って行った。
私は廊下にいくつもの扉があったのに一切見向きもせずにこの扉を開けた理由が気になった。
遅れて入って見れば理由が一目瞭然だった。
銀竜は重要な本を抱えて口から火をちらつかせていた。
人質ならぬ物質であった。
「グァアアァ」
銀竜はそれ以上近づいたら燃やすぞとでも言うように吠えた。
よく回る頭だと思う。
私は兵士達を掻き分けて銀竜の前まで躍り出た。
隣にはいつの間にかセフィリアがいた。
「お姉様、従魔契約の儀の準備が出来ましたわ。」
「分かったわ。父様も呼んでおいて。」
「分かりましたわ。」
セフィリアは先に図書館を出る。
「従魔契約の儀の準備が出来たわ。悪いけど付いてきてもらえる?」
言葉は伝わらないけど行動を見せればこちらの意図を理解してくれるだろう。
私は銀竜を一瞥して訓練所に向かう。銀竜は尻尾で本を背中に乗せ付いてくる。やはり状況をしっかり理解しているようですね。
訓練所に着くと観客席に意外と兵士の姿がちらほら見える。訓練の予定を空けてもらったのだ感謝しないといけませんね。
父様が訓練所の客席中央から声をあげて宣言する。
「これより、ティアナ・ヴァンデウスによる従魔契約の儀を開始する。」
周りが盛り上がる中セフィリアが鑑定水晶を渡してくる。
「お姉様、御武運を。」
「なんとか従魔にしてみせるわ。」
そして鑑定水晶を通して銀竜を視る。
名前─無し
性別─雄
職業─格闘家
種族─竜種(希少種)
種類─プチメタルドラゴン(異常個体)
LV 14/20
HP 156/156
MP 137/137
STR 273(+60)
VIT 162
AGI 191(+10)
DEX 212
INT 175
MND 180
LUK 137(+393)
スキル
竜の眼LV3
竜鱗LV4
気配感知LV5
気配遮断LV3
見切りLV4
拳技LV5
脚技LV4
縮地LV3
練氣操作LV3
力持ちLV6
尾技LV3
爪技LV2
大物喰いLV1
速足LV1
思考加速LV1
ユニークスキル
****
****
****
**
魔法
火の息LV5
ヒールLV3
信じられないステータスだ。基本値がほとんど私よりも高いのもそうだがスキルの多さと高さも眼を見張るものがある。
何より魔物に職業が付いていることが信じられない。私以外にも従魔契約をした者はいる。皆従魔のステータスを視たことがあるが職業が付いている魔物は一匹もいなかった。
何故この魔物だけ?そんな疑問と一緒に不可解なことがあった。
ユニークスキルが見れないのだ。4つあることは分かるがそれ以上魔力を通して視ても分からないのだ。
パリン!!
するといきなり鑑定水晶が割れて砕けてしまった。
この事には私も含め皆が驚いた。今まで視れなかったことはなく、何度使っても効力を失わない貴重な鑑定水晶が砕けたのだから。
この異常に驚きましたがそれ以上に是が非でもこの銀竜を従魔にしたくなりましたね。
従魔契約の魔方陣が浮かび上がり消えて行く。対象は私と銀竜だ。
私は二本のレイピアを引き抜き構えた。
銀竜も私が剣を構えると背中に乗せた本をセフィリアに向かって投げ、四足で構える。
必ず従魔にしてみせるわ。