第5話 ヴァンデウス王国 王都アルティナ
ヴァンデウス王国 王都アルティナ 王城内
「ティアナ姉様、私トータスの森で狩りをしてみたいですわ。」
「狩りをするのは構わないけどお父様の許可を頂かないといけないわ。」
その日の出来事の発端はそんな会話だった。
ティアナ・ヴァンデウスは妹セフィリア・ヴァンデウスの言葉に乗り、狩りをするために父親であり現国王でもあるライオネル・ヴァンデウスの下に向かった。
「お父様。ティアナ姉様とトータスの森に狩りに行きたいですわ。」
「それは構わぬがさすがに二人きりでという訳にもいかぬ。アルディは今日はそんなに忙しくなかったはずだからギルバートを連れて行きなさい。」
「分かりましたわ。」
ギルバートは兄アルディの親友で騎士学校を卒業したばかりの新米騎士だ。成績は優秀で兄の付き人をやっている。気さくだが女性の機微に疎い人である。
私達はギルバートを見つけるため兄の部屋に向かう。途中、兄様とギルバートを見つけた。
ティアナ「ちょうどいいとこにいましたわ。兄様、トータスの森に狩りに行きたいのですけどギルバートを貸してもらえませんか?」
アルディ「私の方は急ぎの用はないがギルは大丈夫かい?」
ギルバート「俺もこれといった用はないがトータスの森は最近様子がおかしいらしいが大丈夫かい?」
アルディ「その話は初耳だがどういうことだ?あそこは初心者冒険者の腕慣らしに適した場所だと聞いたが?」
ギルバート「それがここ2、3日魔物がほとんど見当たらないらしい。」
アルディ「それは調査するべきではないか?」
ギルバート「俺もそう思うんだがまだ許可が降りなくてな。」
ティアナ「ならついでに調査すればいいのでは?」
ギルバート「それもそうだな。トータスの森に魔物がいなければ狩りにもならないからな。」
セフィリア「なら早く行きますわ!」
アルディ「気をつけて行ってくるんだよ。ギルも気をつけて。何かあったら…」
ギルバート「ああ。分かってる。」
それから、装備を整えてトータスの森に向かった。
ギルバートはトータスの森に近づくにつれて魔物の気配を感じ自分の心配事が杞憂であったと思い直した。
それから普通に狩りが始まった。
ティアナはレイピアを両手に持ち攻撃を受け流しながら隙をみて突きを放ち確実に敵の急所を突いていく。時折魔法を放ち一体一体確実に狩る。
セフィリアは杖を両手で持ち広範囲の魔法を放って数を減らし、近づいてきた敵には杖で叩いたり突いたりと臨機応変に対処している。
ギルバートは背中に大剣を背負っており、二人の保護者なのであまり戦闘には参加せず気配を消しながら見守っている。
しばらく狩りをして休憩をとることにした。
トータスの森には川が流れていて見渡しはいいし、奇襲される心配がなく休憩に適している。
川に着いて休憩しているとギルバートが微かな気配に気づいた。あまりにも小さすぎて全く気づけなかったのだ。
油断したと思った。見渡しがいいから奇襲して来ないと思っていたが気配があまりにも近かった。
何故ならティアナが身体を預けている岩のすぐ後ろにいたのだから。
「ティアナ!!そこから離れろ。」
その声に反射的に離れたティアナとは逆にセフィリアは近づいてく。だが何も起こらない。ギルバートも襲って来ないことに疑問を持ち、岩に近づく。
そこには大きさ60cmくらいの小さな銀竜が寝ていた。あまりにも無防備な姿だった。
「こんな魔物見たことないわね。」
「私も見たことありませんわ。」
「俺も見るのは初めてだな。」
この大きさの銀竜はプチメタルドラゴンと呼ばれ、弱いのに倒せば経験値が多くもらえるため大昔に狩りすぎて警戒心を強くし滅多に姿を見せなくなった希少な存在だ。
ギルバートも図鑑に載ってたのを見ただけで実物を見るのは初めてである。
「この子可愛いわね。」
セフィリアが無警戒にそんなことを言いながら頭を撫でている。
ティアナはそんなセフィリアが羨ましいのか撫でたいけど警戒する必要がありそれができずソワソワしている。
「この場で狩って経験値にすることもできるし、このまま捕まえて売ることもできるがどうする?」
「従魔にできませんか?」
従魔とは人と契約した魔物であり、その契約を結ぶためには実力を示す必要がある。魔物は基本的に強いものに従うのだ。
「会話が出来るわけでもなく弱いのに必要あるのか?」
「可愛いは正義です。」
「そうですか。」
持ち帰るにしても縛らないと逃げられるとティアナは持ち上げようとするも出来なかった。見た目以上に重かったのだ。
「ギルバート、この子重いわ。」
「分かった。俺が代わろう。」
ギルバートが銀竜を持ち上げる。持ち上がっているが少し震えてる。
「大丈夫?」
「少し重いが大丈夫だ。」
明らかに強がりだ。でもティアナとセフィリアでは持てないので仕方ない。
そのまま縛って持ち帰る途中、ギルバートは考えていた。あの川で無防備に寝ていたのに他に一匹も魔物が現れなかったことと現在魔物の気配が自分達から離れていくこと。この銀竜が普通でないことに薄々気付いていた。
そして彼女等は王都へ帰還するのだった。