第20話 毒の驚異 VSヴェノムスパイダー
「セフィリア、悪いがちょっと行ってくる。」
俺はティアナがギルバートに悲鳴の元に行くのを止められて理由を聞いた辺りで悲鳴の元に走って行った。
(気配遮断がLV4に上がりました。)
開けた場所の入口にたどり着き、その先で俺が見たものは6体の魔物と7人の冒険者の死体だった。どの死体も切り傷、刺し傷があるがあるがそれほど多くない。受けた傷は致命傷も多くあるが毒の影響が大きいようだ。
周りを見る限り死体しかないが気配感知がさっきからずっと俺の近くで生物の生命反応があるのにそれ以外何も見当たらないのだ。
おかしいとは思うがすぐに空間の広さを考えて思い直す。
でかくても蜘蛛なら天井に張り付けるよな。
性別―雄
種族―蜘蛛種
種類―ヴェノムスパイダー
LV 43/60
HP 479/485
MP 283/283
STR 406
VIT 389
AGI 384
DEX 376
INT 293
MND 327
LUK 239
スキル
操糸LV7
爪技LV5
毒爪LV5
毒牙LV6
毒液LV6
毒耐性LV6
捕食LV3
気配感知LV3
気配遮断LV3
魔法 なし
見上げればヴェノムスパイダーが巣を張って冒険者の死体を糸で巻いていた。冒険者は8人だったようだ。蜘蛛の習性で餌を保存するためだろう。気配遮断のレベルが高いためか幸いにも奴はこちらに気付いていない
糸が邪魔だなぁ。
こちらから届く攻撃がなく上から一方的に毒液や糸を使われるのは面倒だ。
そう思うが火の息じゃ届かなさそうだ。火を糸まで届くようにするのに口から吐く必要はないが火がいきなり出たら奴に気付かれてしまう。一撃で仕留めるのは無理でも糸も一緒に焼き払いたい。
イメージとしてはドラゴンの熱光線が一番近いな。
火の息を使うように息を吸う。だが火の息と違い魔力操作で密度を限界まで高める。吐く時も漫然したものではなく直線的で威力を分散させないようイメージする。
魔力を溜め込んで天井の手前から奴に向かって吐き出す。
(ドラゴンブレスLV1の魔法を取得しました。)
ナビィのアナウンスと共に熱光線がヴェノムスパイダーに迫るも当たる前に気付き、右前足2本と右爪は付け根から、左爪も少し焼け切れた。熱光線が触れた糸は燃え広がり、触れた天井は小規模ながら爆発し、天井から岩が落下していく。
ヴェノムスパイダーは突然の攻撃に対応しきれず天井から落下し地面にぶつかる。落下のダメージはあまり期待出来ないが落ちてきた岩が幾つかぶつかっていた。MPを100使っただけあって良い一撃だった。
なんじゃこりゃ~!!
だが自分で吐いといて驚いた。確かに熱光線のようなものを吐いたが何故か黒い。糸に燃え広がった火も黒かった。
(ドラゴンブレスは適性によって色が異なります。シルバー様の適性は多くありますが最も高いのが闇なのでドラゴンブレスが黒く変化しました。)
ナビィの返答に納得したが……
俺の適性は闇だったのか。
ともあれ今はヴェノムスパイダーの状態が気掛かりだ。
ヴェノムスパイダー
HP 379/485
MP 283/283
見てみるとダメージは丁度100与えられたようだ。右爪と右足1本は無く、左爪ともう1本の右足は半ばから焼き切れている。
俺はすぐさま縮地で大きく横に移動すると俺がいた場所にヴェノムスパイダーが半ば折れた左爪を降り下ろしていた。
右足の欠損でこちらに突っ込んでくる初動が丸分かりの上、足に力が伝わらなかったから避けられたが万全の状態だったら初動は分かっても避けられなかっただろう。
いやぁ~危なかった。
俺はすぐに落ちてきた岩に背を預けて隠れるが左から爪が襲い掛かる。足に身体強化を使い岩を蹴り反動で毒爪を避け、空中で振り返ると尻尾が見えた。
息を吸い込み、奴が糸を吐くのと同時に火を吐く。糸は俺の火で燃え、ヴェノムスパイダーの尻尾に引火する前に意図的に糸の繋りを絶つ。
着地するとヴェノムスパイダーから放物線を描いて毒液が飛んでくる。バックステップで避けて氣を腕に集中させ後ろの岩を上に投げる。
(投技がLV2になりました。)
糸が鞭のように横から迫る。前の毒液を飛び越えると後ろから糸が追いかけてくる。着地と同時にヴェノムスパイダーが岩の上から飛び込んで毒牙が俺を襲う。糸が来るのは想定外だが狙い通りに俺の所に来た。
毒爪攻撃を予想していたんだが毒牙で来たか。好都合ではあるな。
全身に身体強化をかけ、両腕に氣を巡らせ左右から迫る牙を素手で受け止める。力がほんの少し劣る俺は勢いを止めきれず身体に牙が食い込む。
そんな事はお構い無しに俺は雷纏を使う。牙は頭から最も近いので電気がよく通るだろう。
その証拠に雷纏を喰らったヴェノムスパイダーの牙に力が入っていない。牙を抜き、左爪の根元を爪で全力で斬る。
(爪技がLV4に上がりました。)
麻痺して糸の操作が出来ず自身の顔に諸にかかる。
すぐ後に俺が投げた岩がヴェノムスパイダーの頭上に落下する。無防備に岩に潰され息はあるが岩を退かさないと身動きがとれないだろう。
(苦痛耐性がLV6に、毒耐性がLV5に上がりました。)
ヒールで傷を塞ぐが毒が回ってきたようだ。耐性があるとはいえ動きが鈍っている。いや鈍っているどころか殆ど動けない。何とか歩けるが走り回れないといったところか。
不味いな。
ヴェノムスパイダーは麻痺さえ治まればまだ動ける。岩で潰れてるとはいえ俺よりSTRが高いのだから岩くらいは退かせるだろう。
それに比べて俺はろくに動けず満身創痍だ。HPの回復にMPを回して毒に対抗している現状、MPを消費したくないがもう一押しだけしておく。
火の息を糸にかけ、糸をたどり顔と尻尾に引火する。火の熱にもがき岩を退かしてしまう。地面に何度も擦り付けて火も消されてしまった。
引火させたのは失敗だったかな。火事場の馬鹿力で岩を退かされてしまうとは。そこまで火が嫌いなのか。
麻痺が解けヴェノムスパイダーが立ち上りだした。目は明らかに俺を捉え、足に力を込めている。俺は殆ど動けずこの場で迎え撃つしかない。
爪を切っといて良かった。
毒牙で来ると思ったが俺の期待は裏切られ、ヴェノムスパイダーは毒液を吐き出した。
俺は殆ど動けない身体に鞭打って足に身体強化をかけて横に避けるが、まともに動けず右肩から地面に着地する。
ろくに動けない所に更に毒液で確認するのかよ。糸を使わないのは引火を恐れての事だろうが、接近しないのは雷纏を警戒しているからか?。
俺がゆっくり立ち上るとヴェノムスパイダーがもう一度毒液を吐き出す。また足に身体強化を使い前にある岩に飛び、盾にするように岩に背を預ける。
近づいて来ないと打つ手がないんだが。
(ヒールがLV7に、並列思考がLV2に上がりました。)
ヒールのレベルが上がり毒によるHP減少速度が下がり少しだけ余裕ができた。並列思考も上がったことで同時に使う魔法のMP消費も軽減できるだろう。
打つ手ないことに変わりないがな。
(もう少しの辛抱です。時期に応援が駆けつけてきます。)
ナビィの言った通りに少し待つと気配感知に4つの反応が現れた。1つは少し後ろにいるヴェノムスパイダー、他の3つはこの広場の入口の方から近づいて来る。ギルバート、ティアナ、セフィリアの3人の気配だろう。
ヴェノムスパイダーの気配感知にもかかったらしい。岩から覗き見ると体を入口とこちらの両方が視界に収まるように向きを変えていた。
俺は足元にある石を拾う。このままでは3人が入口に来るのと同時にヴェノムスパイダーが毒液を吐き出し襲い掛かるだろう。
ちょっと賭けに出てみるか。
俺は3人が入口に着く直前に岩から石を入口とは反対側に放る。するとヴェノムスパイダーが毒液を石に向かって吐き出し、俺は身体強化を使い入口の方に縮地を使って走る込む。
(身体強化がLV5に上がりました。)
「セフィリア!アースウォール!!」
俺が叫ぶとセフィリアがすぐに対応する。
「アースウォール!!」
ヴェノムスパイダーが突っ込んでくるも俺に届く前に土の壁が現れ激突する。
俺はすぐに振り返り壁に向かって拳を振る。鎧通しにより衝撃が壁の向こう側のヴェノムスパイダーに伝わり体が吹っ飛ぶ。
同時にギルバートは壁の右、ティアナとセフィリアは壁の左から広場に飛び出す。
ここからは短期決戦だ。
「レイ!」
「フレイムランス!」
ティアナとセフィリアが飛び出すのと同時に魔法を発動し、吹っ飛んだヴェノムスパイダーに向けて放つ。避ける間もなく直撃し、光と火に焼かれのたうち回る。
俺は左から広場に飛び出し、近くにあった岩をヴェノムスパイダーに投げつける。
「ベチャ」
っと投げた岩に毒液がかかる。火に悶えながらも正確にこちらを狙ってきた。投げた岩も直撃し岩と一緒に地面に引きずられる。
ギルバートは背負った大剣を引抜き、身体強化を使い、走りながら放たれた毒液を躱していく。
「はあぁあああ」
岩と一緒に引きずられたヴェノムスパイダーに縮地で距離を詰め、大剣が燃え盛る炎を纏い上段に構えて気合いの入った叫びと共に降り下ろされる。
ヴェノムスパイダーは毒液を吐き出す前にギルバートの大剣で頭を斬られて気配感知から反応を消した。
(毒耐性がLV6に、大物喰いがLV5に、英雄の卵がLV3に上がりました。レベルが20に上がり、最大値になりましたので進化が可能ですがどうしますか?)
進化ってすぐ終わるものか?
(数分だけかかります。)
分かった。
「セフィリア、火を消してくれ。」
「分かりましたわ。アクアスプラッシュ」
息絶えた後も燃えているヴェノムスパイダーを消火する。
「俺はちょっと進化するからその間の警護を頼む。」
「「「えっ!!」」」
ナビィ頼む。
3人の視点
シルバーの身体が黒い光に包まれる。
「いきなり進化するからってもう少し説明があってもいいんじゃないか?」
「本当です。さっきは私達が来なければ死んでたかもしれないのに。」
「でも魔物の進化って初めて見ますわ。」
「黒く光るのは何故ですかね?」
「俺は一度だけ見たことあるがそのときは白い光だったから分からないな。」
などと目の前の現象について会話をしている。
「ギルバートが気配感知であらかじめヴェノムスパイダーのいる位置が分かってて良かったですわ。お陰でシルバーの指示に戸惑うこと無くアースウォールを張れましたわ。」
「それは良かったがシルバーが殆ど体力を削っていたからヴェノムスパイダーが強かったのか分からないな。」
ギルバートはヴェノムスパイダーの攻撃に正確さはあったが勢いがなかったため避けるのにあまり苦労しなかった。
「そうですわね。私もティアナ姉様も攻撃魔法を一回しか使ってませんし、ギルバートも大剣を一振りで終わってしまいましたものね。」
「私達に来た攻撃もシルバーが予測してたのか岩を射線上に被せて投げていたから届かなかったものね。」
先程の短い戦闘について話しているとシルバーを包んだ黒い光に変化が起きた。光が徐々に大きくなり、ティアナと同じくらいの大きさになると光が徐々に消えていく。
消えた光の後に残ったのは身体が大きくなり、背中から生えた翼が身体と比べても見劣りしない大きさになり、頭から2本の角を生やした銀竜であった。