第1話 銀竜の始まり
目が覚めれても周りは真っ暗であった。
だけど今は身体の感覚があるみたいだ。
「転生体は人じゃないわよ。」と言ってたくらいだから動物か何かなのだろう。でも感覚が人間の時と同じ手足と頭の感覚がはっきりしてる。
少し動かそうと思ったが、身体のあちこちから何か硬い壁に触れるような感覚がある。
そのことから考えて今俺は卵の中にいるようだ。これでは身体もろくに伸ばせない。
俺は拳を握りしめ、窮屈な態勢から卵を─軽く殴った。
卵の殻が厚くて壊れなかったら怪我してしまうからね。始めこそ慎重に。
だが予想に反して殻をあっさりと突き抜ける。
空けた穴から外を覗くと草木などの緑と木々の間から零れる日差し、それから先ほど打ち抜いたと思われる殻が2m位先に落ちていた。白く厚さ5cm位はありそうだ。
思った以上に殻が厚かったのには驚いたが打ち抜けるし外は何もなくて大丈夫そうだ。
卵の殻を打ち抜いて外に出て改めて現状を考える。
首を下に向けると五本の指が目に写る。
手前に視線を移すと腕はあるし、足も手と同様五本の指がある。
ただ肌が人間のものではなく、爬虫類に見られる鱗である。鱗はメタリックな銀色であり、指先の爪は尖った黒色である。
手を顔に触れてみると人間の時と明らかに感覚に違いがあり、瞼の上から眼に触れると顔の三分の一位を占めているように感じた。
最もそれ以上の感覚の違いは背中の肩甲骨辺りと後ろ腰の少し下にある感覚だ。翼と尻尾が生えているのだ。
まだ自分の姿を見たわけではないが地球では空想の生物でしかない竜やドラゴンといったものに転生したようだ。
一通り動きを確認した。
手足の指は人間の時程ではないが結構器用に動かせる。
翼と尻尾の感覚にはまだ慣れないが、人間の赤ん坊と似た感覚なのだろうか。二足歩行できないわけではないが四足歩行の方が楽に動ける。
女神改めソフィさんはステータスやスキルを確認できると言ったがどう見るんだ?
と思ったがすぐ眼の前に浮かび上がった。
名前─無し
性別─雄
職業─格闘家
種族─竜種(希少種)
種類─プチメタルドラゴン(異常個体)
LV 1/20
HP 26/26
MP 20/20
STR 104
VIT 24
AGI 18
DEX 32
INT 27
MND 21
LUK 3(+256)
スキル 竜の眼Lv1
竜鱗Lv1
ユニークスキル
神の先導
英雄の卵Lv1
成長補正
極運
魔法 無し
装備 無し
他の生物のステータスを見てないから能力の高低は分からないけど、STR(筋力)が異常なことだけは分かる。
もっと詳しく知りたいなぁ。
(呼びましたか?)
頭の中で声が聞こえる。ソフィの声だ。
連絡取れないんじゃなかったのか?
(私はソフィであってソフィではありません。)
何その禅問答は…
(いえ、実際にはただのユニークスキル効果です。)
ユニークスキルって神の先導のことか?
(はい。何も知らない貴方を異世界に只転生させるというのも後味が悪いので本体の力で別意識をこの世界〔エヴァン〕のナビゲーションという形で貴方をサポートできるようにしました。)
話し方が本体と若干違うがこれはこれでありかもしれない。
ナビゲーションということは詳細を説明してくれるのか?
(はい。貴方の気になっていることから説明します。)
武術家である俺をなぜ魔法の存在するこの世界に送ったんだ?
(貴方が倒そうと考える武神も魔法を使います。武神の戦闘スタイルはいわば魔法拳士ですので、魔法に対抗するには同じ魔法を使うのが一番いい方法です。状況がフェアではないですし。)
そうか。武神なんていうものだから武術のみで戦う奴だと思ったのに残念だ。武術のみで負けた俺が言うのもなんだが。
(地球が例外で他の世界は基本的に魔法が存在します。)
その環境に慣れないといけないのか。
それから色々と説明を聞いた。
まず、竜種の希少種ということだが竜は魔物に含まれ通常の竜種は赤、青、黄、緑の色の鱗を持って生まれるらしい。それぞれ火竜、水竜、地竜、風竜と呼ばれる種類の基本色なのだそうだ。
たまに蒼い火竜や、黄色い雷竜などが生まれるたり、さらに珍しいと白い光竜、黒い闇竜が生まれる。銀竜はそれらのなかでも最も希少な二種の一つだそうだ。
次に異常個体についてだが基本竜種は指の数が三本だそうだ。それを考えたら五本は確かに異常だ。
後、STRが高いのは英雄の卵による効果だっだ。
ただこのスキルは燃費が悪くSTRが大幅に上昇するが大量に食事を取らないとすぐに餓死してしまうそうだ。
そして地味に気になったのは職業についてだ。魔物に職業は付くのかというよりも、職業にはどういった効果があるのかが気になった。
この世界における職業は基本生活環境によって変わるらしい。剣を使って魔物退治をしたりすれば剣士になるし、魔法を使って魔物を倒せば魔術師になる。職業が付けば同系統による補正が掛かる。それだけでなくスキルも得やすいようだ。ただ中には生まれつき決まっている者もいてその補正は従来より大きく上回るものらしい。
ついでに魔物には本来職業は付かないみたいだ。
最後は運だ。スキルの補正で高いのは分かったが基礎値が極端に低いように思える。
(プチメタルドラゴンはそもそも狩り尽くされて数が少なく、今現在エヴァンに100匹程度しかいない絶滅危惧種です。足が遅く人にも魔物にも会ったら端から狩られて貴重な経験値と素材になる魔物が運がいいとは思えませんが。)
・・・理解した。俺は一刻も早く人の姿を手にしなければいけないようだ。
ということで今いる森を探索してみる。
今持っているスキル、竜の眼と竜鱗は竜種が皆持っているもので竜の眼は万物を見抜くことができ、竜鱗は物理と魔法の両方からのダメージを軽減することができるという。
現状ではレベルが低くあまり効果がないようだが。
歩きながら周りをよく見てみると地球にはない植物がある。詳しく聞こうと呼ぼうとしてこのナビゲーターに名前がないことに思い至った。神の先導なんて言いずらいし。
(呼びやすいように。)
などと本人?も言うので
安直だがナビィというのはどうだろうか?
(ナビゲーターだからナビィですか。確かに安直ですね。けどまあいいでしょう。)
呼びやすいようにといううものの若干不満げだが本人?の許可もいただいたのでそう呼ぶことにしよう。
そして目の前の緑色の花はなんなのか聞いてみた。
(これはエヴァンでも滅多に生えないリキュアル草ですね。地面から離れるとすぐに枯れてしまい、このまま花を食べると治癒魔法の適正を得る代わりにしばらく魔物が寄ってくるというはた迷惑な効果のあるアイテムです。)
ちなみにプチメタルドラゴンは適正があるのか?
(ありません。)
ナビィ。森にいる魔物の強さはどれくらいだ?
(ここはトータスの森。初心者の冒険者が腕ならしに使う森で、スライムやゴブリンなどの比較的弱い魔物が多く生息する森です。貴方のステータスでも苦労せず倒せるはずです。)
一番重要なことを聞くのを忘れてた。魔物は食べられるのか?
(あまり美味しくはありませんが魔物である貴方なら生でも食べられます。オーク、アースウルフ辺りなら焼けばそれなりに美味しく食べられます。)
スキルのこともあるし、食べられるのならちょうどいい。
どのみち強くなるために魔物を狩るしかないんだ。適正も得られるならやってみるか。いただきます。
食べてみるとものすごく苦い。身体の方も特に変化はない。少し五感が研ぎ澄まされてる感じがする。
そんなことを考えていると背後から気配を感じて振り返る。初めての魔物との遭遇だ。