第16話 依頼と硬貨
ペンを走らせているとドアをノックする音が聞こえた。もう少し寝かせてやりたいが仕方ない。
俺はベットで寝ているティアナを揺する。
徹夜に近かったから睡眠が深いのか、彼女自身寝起きが悪いのか、なかなか起きない。
「ティアナ様失礼します。」
反応がないからか侍女が入って来た。
「ティアナ様、もうそろそろ朝食の時間になりますので...」
侍女の言葉が止まる。俺がいるからだろう。
「オハヨウ、ティアナガ、オキナイ。」
とりあえず侍女に挨拶と状況の説明をする。
「そうですね、ティアナ様は寝起きがそこまでよい訳ではありませんが今日は特に悪いようです。」
「ソウカ、ネオキガワルイノカ。」
何とも言えない空気が流れる。侍女は咄嗟に俺の会話に対応したが次の話に繋がらない。
「おはようシルバー」
そんな中ティアナが起きて挨拶した。
良かった。場の空気が持たなかったからな。
「オハヨウ、ティアナ。アマリ、ネレナカッタダロウ。キブンハ、ドウダ?」
「大丈夫よ。それに昨夜のことは私がしたくてしたことだから気にしなくていいですよ。」
「ワカッタ。チョウショクノ、ジカンラシイカラ、キガエテ、ショクドウ二イコウ。」
「そうね。メアリーもおはよう。着替えて行くから朝食の準備の方はお願いします。」
「か、畏まりました。」
メアリーと呼ばれた侍女は頭を下げて部屋を出る。
「オレハ、ヘヤノソトデ、マッテルカラ。」
裸を見たことがあるとはいえ着替えをみるのは気が引けるからな。
「分かったわ。学校から帰ったらちゃんと聞かせてね。それまで皆に話してはダメですよ。」
「ワカッタ。」
俺は部屋の外でティアナを待ち、合流して食堂に向かった。
「オハヨウゴザイマス、オウサマ、キサキサマ。オハヨウ、マリア、アルディ、セフィリア。」
食堂に入ってそこにいたティアナ以外に挨拶する。皆驚きつつも挨拶を返してくれる。
すぐに料理が運ばれ食事にはいる。食事は進んでいるが視線は先程から俺に向けられている。
少しぎこちないが会話できる程に喋ったから理由が気になるのだろう。だが今は話すつもりはない。
食事が終わると食堂入口でギルバートが待っていた。
「おはようシルバーすぐ迷宮に行くか?」
「オハヨウ、ギルバート。メイキュウニ、イクマエ二、チュウボウ二、イキタイ。」
「おぉ?」
ギルバートが俺の応対に戸惑っている。俺は厨房に向かい、ギルバートが後を付いてくる。
「リョウリチョウ、イマスカ。」
厨房に入って第一声にそう言った。
厨房にいる人達皆がポカンと呆けている。その中料理長が顔を出してくれる。
「どうしましたかシルバー君?」
もう俺に慣れたのだろうか普通に対応してくれる。この人はなかなかの大物だと思う。
「アイテムボックス、モライニキマシタ。」
「昨日預かった物でしたらギルバート様に渡しましたよ。」
「ギルバート。」
「あぁ、悪い。貰ってたの言うの忘れてた。」
「ジャア、メイキュウイク。」
外に出ると昨日と同様馬車が止まっていた。
馬車に乗り込み迷宮に向かう途中
「随分早く応対できる程に話せるようになったな。ユニークスキルのおかげか?」
とギルバートが推測して聞いてくる。
「ユニークスキルノ、コウカカドウカハ、ワカラナイガ、ベンキョウシテタラ、シャベレルヨウナ、キガシテ、シャベッテミタラ、ココマデシャベレルヨウ二、ナッテタ。」
ギルバートは俺の答えにどこか納得してない表情をしていたが、俺自身理由が分からないのでこう答えるしかない。
「冒険者ギルドで依頼は受けないのか?」
考えてもしょうがないと思ったのか話題を変える。
「メイキュウデ、マモノカル、ヤツナラヤル。」
何時までも世話になるわけにはいかないから、お金が稼げるなら依頼を受けた方がいいし、迷宮で食料も取れるなら尚更だ。
「すまないが、冒険者ギルドに向かってくれ。」
ギルバートが御者に行き先の指示を出してくれる。
冒険者ギルドに着いて入口を潜ると昨日と同様視線が集まる。だけど今日は受付ではなく掲示板に向かう。掲示板に群がっている冒険者達の足元を避けて1番前まで躍り出て2足で立ち腕を組む。
掲示板を見ると薬草類の採取、特定の魔物の討伐、魔物の素材集めなど色々な種類の依頼がある。
「ギルバート、イマデキソウナ、イライアルカ?」
「3つぐらいあるがどうする?」
「ゼンブ。」
ギルバートは依頼書を3つ取る。
ポイズンスパイダー討伐
1体につき銅貨8枚
ホーンラビット素材買取
角1つにつき基本銅貨4枚
皮1体につき基本銅貨6枚
ミノタウロス素材買取
角1つにつき基本銀貨1枚
掲示板から少し離れて俺に依頼内容を見せてくれる。最初の2つは昨日遭遇しているから分かるが最後の魔物は見たことない。
「ミノタウロスは10階層のボスだ。牛の顔に人の体が付いてるような魔物で、状態異常を引き起こすような攻撃はないが岩も砕く両手斧を振り回すうえに凄くタフな奴だ。時おり頭の角で突いて来ることもある。見た目よりも速く動くから注意しろよ。コイツは強いから危なくなったら俺も参戦する。俺一人では倒せないからな。」
俺の疑問にギルバートがミノタウロスについて説明してくれる。ギルバートが1人で倒せないと言うんだから俺よりも格上なのは明らかだ。
食料も大事だが良い修行になりそうだ。
3枚の依頼書を持って受付嬢に出す。
「ポイズンスパイダー討伐依頼を引き受けて頂きありがとうございます。」
「どういうことだ?」
受付嬢の言葉にギルバートが疑問を挟む。
「最近ポイズンスパイダーの集団出現数が多いようで初心者冒険者の被害が多いのです。迷宮の調査を行っているのですが、まだ原因が分からない状態なのでとにかく数を減らそうとギルドで依頼を出しているのです。」
「なるほど。」
ギルバートは納得したようだが。
「トウバツスウノ、ショウメイハ?」
俺は疑問をぶつけてみる。
「ギルドカードが自動で記録してくれるんだ。」
驚く受付嬢と違い慣れたギルバートが簡潔に答える。
それから依頼の承認を得て迷宮に向かう。
迷宮に向かう途中俺はギルバートに確認しておきたいことがあった。
「ホウシュウハ、ドレクライ、カチガアル?」
「金の概念は知ってても価値までは分からなかったのか?」
ギルバートが説明をする。
この世界エヴァンは銅貨が最も価値の低い硬貨であるらしい。
銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあり、一般的な宿で宿泊代が1日大銅貨2枚くらい、食事代が一般的な冒険者で1日大銅貨3枚くらい使うそうだ。
初心者の一般的な見積もりであるが大銅貨5枚で1日過ごせるらしい。
銅貨=100円
大銅貨=1,000円
銀貨=10,000円
金貨=100,000円
大金貨=1,000,000円
白金貨=10,000,000円
これが日本円で一番近い金額になると思う。何故大銀貨がないのかと思ったら銀は武器の生産に良く使われたが、金は武器にあまり適さないそうだ。
そのため大銀貨の生産まではできず、大金貨の生産が容易だったそうだ。それでも金の方が価値が高いのが不思議なのだが気にしても仕方がない。
迷宮に着いて騎士にギルドカードを見せてから中に入る。8階層までの道は覚えているので駆け足で進む。途中でポイズンスパイダーと4~5回遭遇して合計21匹討伐し、ホーンラビットも4匹遭遇したので皮の傷を最小限にするため雷纏でスタンガンのようにして気絶させてから首を切り落とす。
残酷だが金のためだ。悪く思わないでくれ。
他の魔物も倒しては食べ、食べ飽きた分はアイテムボックスに入れる。
8階層に着く。ここからが昨日の続きだ。といってもあまり変わり映えがない洞窟のような穴の通路が枝分かれしてるようなものだが。
とりあえず進んでいるとポイズンスパイダーがまた出てきた。今度は3匹だがすぐに片付けた。
進んで9階層、10階層と続き、石頭のバッタであるハンマーローカスト、鎌鼬を放つウィンドバットと新しい魔物と遭遇して少し苦戦した。
ハンマーローカストは脚力任せで突っ込んで来て速く初撃は腕で防御するしかなかったし、ウィンドバットは数が3匹だったので鎌鼬を避けきれなくて幾つか被弾したが威力自体は大したことがなかった。竜鱗がLV5、力持ちがLV7、物理耐性がLV3、魔法耐性がLV2、苦痛耐性がLV4に上がり新しく風耐性がLV2、丈夫がLV2、頑固がLV2で取得できた。
ポイズンスパイダーもさらに6匹倒して合計30匹討伐していた。
そして10階層の奥の方に大きな扉が見える。人も十何人かいる。順番待ちということか。
「ココガ、ボスノヘヤカ?」
「そうだ。この先にミノタウロスがいる。一筋縄じゃいかないが覚悟はできたか?」
「アタリマエダ。ムシロ、タノシミシカナイ。」
「お前1人でミノタウロスに挑むのか?」
同じく順番待ちの冒険者が声をかけてくる。
「いや、俺とシルバーの2人でだ。むしろ俺はおまけでコイツが1人でやる予定だ。」
「はぁ、その小さい従魔じゃあ無理だろう。」
「オレハ、ジュウマジャナイ。」
「喋れるのか。というか銀竜なんて図鑑でしか見たことないんだけど本物か。」
「アタリマエダ。ソレニ、オレハ、ツヨクナルタメ二、ココマデキタンダ。ニゲルツモリハナイ。」
「ほう、言ってくれるね。だが俺達が先だ。またな。」
冒険者達は順番が周り扉を開けて中に入る。
扉を押してみるがびくともしない。ギルバートの説明によると内側から開けるか倒さないと開かないらしい。
しばらくして扉から音が聞こえる。戦いが終わったようだ。
「じゃあいくか。」
「オウ。」
順番が周り、俺とギルバートは扉を開けて中に入る。