第14話 会話
「遅いですわ!!」
王城に戻って来てセフィリアから真っ先に言われた言葉だ。ご立腹のようだ。
「すまない。シルバーが狩りに夢中になって遅くなってしまった。」
ギルバートめ!俺がまだ上手く喋れないことをいいことに人に擦り付けたな!
「シルバーとはどなたですの?」
「こいつだ。」
と言ってギルバートは俺の頭を撫でる。見た目はこんなでも中身は大人なので流石に恥ずかしいから俺は首を振って手を払う。
「名前を付けてしまいましたの!?私が名付け親になるつもりでしたのに!?」
それは良かった。流石に子供に名前を付けられるよりはギルバートの方が精神的にましだ。
「冒険者登録に必要だったからな。」
「特例の許可を貰うのにどうして冒険者登録になるんですの?」
セフィリアが憤慨して言う。
「マスターと話してノリと勢いで?」
この言葉にはセフィリアも流石にキレそうなので俺は彼女の裾を引っ張って
「ゴハン。」
と彼女の目を見ながら言う。その俺の仕草に彼女は一瞬硬直して
「可愛いですわ!!」
と俺に抱きつく。ギルバートから注意を逸らすためとはいえ俺は何をやってるんだか、と思わなくもない。
(あざといですね。)
仕方ないだろう面倒が増えるよりかはいいだろう。
それにしても何でこんなに懐かれたのだろうか?
「ギルバート!話は後で聞きますわ。今はこの子、シルバーでしたわよね。と一緒に夕食をいただきますわ。」
と言って食堂に向かう。
俺は後を付いてく前にギルバートに、
「カード」と言って手を差し出す。
「あぁ。ギルドカードね。無くすなよ。」
とギルドカードを渡してもらい、セフィリアの後を付いて行く。
食堂に着くとティアナが椅子に座って本を読んでいた。
「ティアナ姉様、お待たせしましたわ。夕食にいたしましょう。」
「そうね。お父様達は先に済ませてしまったし、後は私達だけですから。」
ティアナがようやくといったように本を閉じる。
「まったくですわ。ギルバートが付いていながらこんな時間になるまで迷宮にいるなんて。シルバーに夕食の時間になるくらい教えられたはずでづのに。」
セフィリアもまだギルバートに文句を言いながら席に座る。昨日はセフィリアの隣だったから今日はティアナの隣に座ることにした。
「シルバーってこの子の名前?」
「そうですわ。ギルバートが付けてしまったのですの。」
「それは本当に残念ね。私達で付けるつもりでしたのに。」
ティアナはクールな表情とは裏腹に心底残念そうな声で言う。
そんな会話も束の間、料理長達が料理を運んで来た。戻ってそれほど時間が経ってないのに温かい料理が出てくる。
そのことに驚いたが料理長に食料を渡さなくてはと思い、
「リョウ・リチョウ。ショクリョウ。」
と呼んで袋を渡す。
料理長も今朝の内容と分かっていたので
「確かにお預かりしました。」
と言って恭しく下がる。
食事中にセフィリアの怒りも収まってきたようだ。
「今日の味付けはなかなかですわね。」などと言って機嫌が良くなっている。
ティアナは食事中に俺のギルドカードに気付いたようだ。
「このカードは?」
「シルバーのギルドカードですわ。」
「まさかギルバートが従魔登録したのですか?」
凍てつくような冷たい声で静かな怒りの感情が読み取れる。
「いいえ違いますわ。シルバー自身のギルドカードですの。」
ティアナを宥めるようにセフィリアが訂正する。
「えっ!魔物は冒険者登録できないと思ったのだけど?」
「私もそういう風に聞いていたのですけど出来てしまったそうですわ。」
やはり魔物の冒険者登録はこの世界の常識ではないようだ。できた理由としては職業が関係あるかもしれないな。そういえばギルドでも『ジュウマトウロク』って言葉を聞いたが『ジュウマ』って何だ?
(読んで字のごとく従えた魔物という意味です。貴方がティアナと最初に戦ったのはその為の伝統的な儀式で一対一の勝負の勝者に従う契約が成されるのです。)
じゃあティアナは俺の従魔になったのか?人だから従者なのかも知れないが?
(今はまだ違います。契約書の方は恐らく王様が持っていると思いますが?)
まぁそれは俺がもっと喋れるようになってから王様に聞けばいいか。
食事が終わるとティアナに
「今日は私の番よ。」と手招きされる。
後を付いて行くと浴室だった。迷宮に入って汚れてるだろうしちょうどいいか。
浴室に入ってバスチェアに座ると続いて入って来たティアナが桶と洗剤を持って近づいて来る。
「今日からは私が洗いますから。」
洗剤を渡すつもりなのかと思ったら俺を洗いたいのか。洗ってくれるのなら、まぁ多少恥ずかしいが構わないだろう。
俺は成されるがままに洗われた。隅々まで丁寧に洗ってくれるので本当に気持ち良かった。
「アリガトウ。」
とお礼を言って湯船に浸かる。今日もいい湯だな。
ティアナも後から入って昨日のセフィリアみたいに後ろから抱きついてくる。異性の人の身では出来ない幸せな状況だな。
ゆっくり浸かってから浴室を出る。
「今日は私の部屋よ。」と手招きする。
ティアナの部屋に入ると机を指差す。
「勉強よ。」
机でペンを走らせる。よくよく考えてみれば言葉を覚えるのが早い気がする。これも成長補正の効果だろう。深く考えるだけ無駄だ。早く覚えるに越したことはないからな。
集中して勉強していたせいか時間を忘れていた。ティアナも俺の勉強に付き合ってずっと起きていた。
気が付いた時には外は明るくなりはじめていた。今ならもう少し普通に話せそうだ。
「ティアナ。スマナイ。オレノ、ベンキョウ二、ツキアワセテ。」
「シルバー。貴方もうそこまで話せるの?」
「アア。ナゼカ、オボエルノガ、ハヤイヨウダ。ティアナト、セフィリアノ、オカゲダ。ベンキョウモ、キョウハ、ココマデダ。」
「えっ!どうし...あぁ、もうこんな時間でしたか。」
「ソウダ。ダカラ、ティアナハ、ヒトマズ、ネテクレ。キョウモ、ガッコウ、アルダロウ。」
「そうね、流石に少し眠いですね。」
「オレノコトハ、カエッテ、キテカラ、ハナスカラ。」
「そう、分かったわ。お休みシルバー。」
「オヤスミ、ティアナ。」
ティアナはベットに入るとすぐに寝息をたてた。
久しぶりにまともに会話らしい会話が出来た気がする。俺は集中してたからかそこまで眠くはない。これならもう少し勉強するか。
そう思い俺は再びペンを走らせるのだった。