第10話 王族の夕食
セフィリアに付いてきて大きな扉の前に着いた。
「失礼しますわ。」
ノックしてから扉を開けて入っていく。
「お父様。ティアナ姉様の容態はどうですの?」
最初に姉の容態を気にするのだから仲が悪い訳ではないようだ。
「先程目を覚ましたようだが特に異常は診られなかったそうだ。銀竜に負けて悔しがっていたようだがな。」
王様も結構あっけらかんとした様子である。
「それならそんなに心配することもありませんわね。それよりもこの子と一緒に夕食を摂りたいのですが宜しいかしら?」
ド直球に聞いてくる。
「そうだな。娘の怪我も治してもらったからな。いいだろう。一緒に夕食としよう。」
「この子いっぱい食べるみたいなので料理長に多めに作ってもらうように言って参りますわ。」
「うむ。分かった。」
あっさり夕食の参加が決まってしまったようだ。ただ王様が許可した後のセフィリアの面白いものを見つけたというような表情が妙に気になった。
再び厨房に来た。いい臭いがする。
(嗅覚強化LV1のスキルを取得しました。)
いい臭いがはっきりするならいいが臭いのは勘弁だな。
(残念ですがそういうスキルです。)
ナビィの返事に少し溜め息がでる。
もうすでに料理を作り始めているようだ。
「料理長。お父様の許可が下りましたのでこの子の夕食の用意もお願いしますわ。」
「はぁ。畏まりました。」
「それと・・・」
料理長も溜め息をついてしまっている。その後のセフィリアの小声に料理長が目を見開いていた。
彼女の小声が少々気になる。料理長には申し訳ないがこんないい臭いを嗅いでしまっては食事が楽しみだ。生まれてまだ4日ぐらいだが今までほとんど味気ない食事だったからな。
俺は彼女に連れられて食堂に入った。広い食堂には長いテーブルが中央に置かれており、一つ一つ間隔をおかれた椅子にはすでに何人かが座って食事が運ばれるのを待っていた。その中には今日戦ったティアナの姿もあった。
無事で何よりだ。若干不機嫌な気がするが。
ここにいるということは皆王族ということだろう。セフィリアが入り、続いて俺が入った時に皆一様に驚いた表情で俺を見た。俺もこんなことになって驚いてるよ。
驚いてはいるものの声を荒らげることはしない。さすがだと思う。
「貴方はこっちよ。」
セフィリアは俺を自分が座る椅子の隣に連れていく。椅子が少し高めにしてあるから俺のためにセフィリアが用意させたのだろう。
俺は椅子に座った。続いてセフィリアも椅子に座る。
「セフィリア。その子が例の?」
「はい。マリア姉様。お父様に許可をもらって来ましたわ。」
「そう。なら私からは何もありません。」
「姉さん。セフィリアに甘いんじゃないか。父上もそうだが、魔物と食事を共にするのはさすがにどうかと思うんだが。」
「兄様の言う通りだと私も思うわセフィリア。」
「私もティアナ姉様を負かしただけの普通の魔物ならここまでしませんわ。でもこの子、ティアナ姉様と戦った後私を引っ張って図書館まで連れて来たのよ。」
セフィリアの言葉に首を傾げる。ティアナの額に青筋が浮かんで見えるが皆、俺が図書館まで連れて来た理由が分からないのだろう。
「すまんな皆。待たせたようだな。」
そんな中王様がやって来て椅子に座った。
「いいえ貴方。丁度良いところだったかもしれません。」
「ふむ、そうか。して、話の内容は?」
「ティアナと戦った後、セフィリアを図書館に連れていった理由についてですね。」
「そうか。あの後図書館に行ったのか。して、理由は?」
「この子、図書館から取った本を返しに行ったのですわ。」
「つまり、取ったところをきちんと把握する能力がその子にあると言いたいのですか?セフィリア?」
「いえ、そんなのは序の口ですわ。この子、文字と言葉を覚えようとしていたのですわ。」
「それはどういう?」
「図書館にある絵がついてる本を私に見せて、絵に対応する文字と言葉の発音を私から教わろうとしていたのですわ。」
「それは本当?セフィリア」
セフィリアの言葉に思わずティアナは聞き返していた。
「ええ、本当ですわ。この子、途中で一辺に覚えられないと思ったのか本を持ってティアナ姉様の部屋に行ってペンとインクで紙に絵と文字を書き始めたのですわ。この学習能力の高さというよりは知識の高さはただの魔物にはない素晴らしいものだと思いますの。」
段々ヒートアップしているセフィリアに皆驚きつつも若干引いてるように見えた。
「そして暗くなって勉強を中断したらこの子、私に『ありがとう』って言ってくださいましたの。私は感動しましたわ。」
その言葉にはさすがに皆懐疑的な表情をする。
そこにタイミングよく食事が運ばれてきた。
「取り敢えず皆食事にしよう。」
王様が言うが皆手をつけずこちらを見ている。俺はその視線にいたたまれず用意されたフォークとナイフを手に持ち、出された肉を切って口に運ぶ。
セフィリアを除く皆が驚いている。
俺、食事の作法間違えたか?
(いえ、食事の作法を知っていることに驚いているのだと思います。)
俺も緊張しているのか。そんな単純なことに気が付かないなんて。
「この子、面白いんですの。」
「確かに普通じゃあり得ませんね。」
マリアと呼ばれた女性は同意し、皆頷くしかなかった。
その後恙無く食事を終えた。俺を除いて。
皆俺に視線を向ける。当たり前だ。俺はもうすでにここにいる全員の食事の2倍以上の量を食べている。明らかに自分の体積以上の量を食べてもまだ腹は満たされない。
皆驚かずにはいられないだろう。
「いっぱい食べるとは聞いたがこれ程とは。」
「さすがに私も驚きましたわ。」
王様の言葉にセフィリアも思わず同意する。
料理長もこれには困惑気味だ。料理をここまで食べてくれるのは嬉しいが、出来た料理が次から次へと消えていく厨房を任される身としては困ることだろう。
俺が食事の最中、王様達は俺の今後の対応について話していた。
「これからあの銀竜をどうするか?連れて来たのはティアナとセフィリアだったな?」
王様が会話のはじめに聞く。
「はい。ギルバートに手伝ってもらいましたが。」
「従魔ではないがあの銀竜は賢いから二人で面倒診られるか?」
「負けた相手の面倒を診るというのも変だけど大丈夫ですね。」
「えぇ。問題ありませんわ。むしろ私だけで面倒診てもいいくらいですわ。言葉を覚えさせて色々お話しを聞いてみたいですわ。」
ティアナは溜め息をつき、セフィリアは嬉々として了承する。
「私も時間が合った時はお世話してもいいのかしら?」
マリアが少し興味を持ったみたいで世話に加わりたいとお願いする。
「勿論です。」
「私は仕事があるから代わりに暫くギルバートを世話と監視につける。」
「何故ですのアルディ兄様?」
「あの銀竜が普通じゃないのは明らかだ。」
「そういえばティアナ。銀竜に鑑定水晶を使ったら壊れたようだがどうしたんだ?」
「はい。鑑定水晶はユニークスキルを除いて正常に起動していました。」
「竜種の希少種でプチメタルドラゴン。ただし異常個体でした。」
「異常個体?どこが異常なんだ?」
「目を覚ました後図書館で調べてみたのですが、ドラゴンは基本的に3本指だそうです。」
皆一度俺に視線を向ける。
「確かに5本だな。」
「5本ですね。」
「5本ですわね。」
王様、王妃様、マリアが呟く。
「それに格闘家の職業が付いていました。」
「魔物に職業だと?」
「今まで見たことないな。」
「そういうものですか?」
アルディが驚き、王様、王妃様が呟く。
「ユニークスキルはどうしたんだ?」
「数は分かったのですが、魔力を込めて視ようとしたらあのように。」
砕けてしまったことに少し落ち込んで言う。
「それで数は?」
「4つでした。」
「まさか!?それほど強かったのか?」
強くなる過程で手に入れる後天性のユニークスキル持ちだと思ったのだろう。
「いいえ。確かにステータスは私よりかは高かったです。特にSTRは私の2倍はありました。それでも、HPは私より低かったうえ、それ以外のステータスも私より少し高い程度でした。」
「それにしては圧倒的だった感じがするが?」
「スキルが異常に多かったです。私の約3倍でした。」
ティアナは一つ一つ俺の持つスキルを挙げていく
「多いな。どれ程の修羅場を潜り抜けたのか。」
「だがそれでもティアナより少し高いくらいなのでしょう?可哀想だわ。」
実際はそんなことはないんだがそんな予想をされていた。
「貴方たち、しっかり面倒を見るんですよ。」
「はい。分かりました」
「えぇ。分かってますわ。」
「ところで父上。ティアナとセフィリアは明日から学校ですがその間はどうするのですか?」
「あっ!」
浮かれていて忘れていたようだ。
そして俺がようやく食べ終えた時には料理長も給仕をする人も安堵の表情を浮かべていた。
(味覚強化がLV3に上がりました。)
美味しいものを食べられたうえ、スキルまで得られるとは食事はいいことずくめだ。
皆が少し生暖かい眼で見ているが、気にしないことにした。
「今度は私の部屋に行きますわよ。」
セフィリアが俺の手を引っ張るので付いていく。ティアナも後を追うのだが、俺は訓練所が目に入り、逆にセフィリアを引っ張って行く。ティアナも慌てて付いていく。
訓練所に着いて、まず魔力を溜める。ティアナが使ってた身体強化の練習だ。
俺の突然の行動に魔力感知を持つセフィリアは警戒をした。
溜めた魔力を全身に流す。
(魔力操作LV1のスキルを取得しました。)
今の状態では身体強化ではないということか?ならば。
俺はイメージを明確にする。全身に魔力による薄く濃密な鎧を、体内を巡る魔力をより速く神経を通る電気信号をより強くイメージして。
(身体強化LV1の魔法を取得し、LV3に上がりました。魔力操作もLV3に上がりました。)
何でこんな一気にスキルアップしたんだ?嬉しいからいいけど。
体を動きを確かめる。
この身体強化は思ったよりいいものだ。体が軽くなったのが分かる。視界は速く動かせるし、体の反応が速い。
ティアナとセフィリアは俺が身体強化を解除すると警戒を解いた。
「今のは身体強化!!」
「今のは身体強化ですわね。」
自分でも使う魔法だから分かったのだろう。
「従魔の儀では使えなかったはずよ。」
「竜の眼があるのですからティアナ姉様が使ってたのを視て覚えたのでは?」
「それでもすぐに出来るものではないはず。」
「それなら見えなかったユニークスキルが関係しているのではありませんか?」
姉妹で俺について推測をしているが俺は次の魔法の練習を始める。
先程の身体強化で使った神経を通る電気信号の強化を魔力を変化させて全身に広げる。要は電気を纏うようにしたいのだ。
今日の戦闘では下手したら相手を殺してしまいかねない状況であった。諦めの悪い相手に気絶させるのに近づいて絞め落としては反撃が来る可能性もある。
地球のスタンガンのように当てるだけで気絶させる手段が必要なのだ。
電気が流れるイメージは簡単だった。小さい頃から祖父に痺れの耐性をつけるためスタンガンでよく落とされてたからな。嫌でも全身を駆け巡る電流がイメージ出来てしまう。
全身からバチバチ音がなり始めた。
(雷纏LV1の魔法を取得しました。)
魔力を徐々に込めていく。電気が強くなっていくがバチバチ音がうるさい。電気を圧縮し、体表にまで留める。
音が抑えられるうえ、電気が強くなるのだ。
魔力残量には気を付けないといけないがこれから頻繁に使う魔法だ。コントロールは完璧に近づけないとな。
全身を覆っていた雷纏を手に集める。この状態で威力がどれ程だか分からないので更に範囲と継続時間を短くする。人差し指と中指の指先に範囲を狭めて、指先の間に電気を一瞬流す。それを連続して行う。やってるうちに徐々に慣れていく。
(雷纏がLV2に上がりました。)
イメージ出来れば色々出来そうだが取り敢えずこんなものでいいだろう。
俺は満足してティアナの部屋に向かうが途中でセフィリアが我を取り戻して俺の手を引っ張って行き、ティアナも急いで後を追う。
セフィリアの部屋に着くと棚から本を引っ張ってきた。物こそ違うが言葉と文字の練習だろう。一緒にペンとインクと紙が付いてきた。ティアナも協力してくれるそうで隣から覗いている。
話せた方が今後の生活が楽になるだろう。早く覚えるに越したことはない。
しばらく勉強してるとセフィリアがおもむろにテーブルにあるベルを鳴らす。
俺は突然の音に手を止めてしまったが少しするとドアがノックされる。
「失礼します。入浴の準備が整いました。」
ドアを開けて入ったメイドが一礼して告げる。
「それでは参りますわよ。」
とセフィリアは言うもののほとんど俺を引っ張っている状態だ。
ティアナも文句なくついていく。というか嬉しそうだ。言葉の内容を知らない俺は仕方なくついていく
着いた場所を見て思わず眼を見開く。見えたのは洗面所だ。そしてその奥に扉が見えた。
風呂だ。生まれてからほとんど戦い続きで川で汚れを落としただけでまだ風呂に入ったことがない。
俺はすぐに扉を開けて中に入る。かなり広い風呂場だ。25Mプールと同じくらいの広さがある。
浴槽は大理石のような物で出来ていて、壁に付いてるライオンからお湯が出ている。日本人的には檜風呂でお湯に浸かりながら日本酒を一口といきたいところだがこれはこれでいい味をだしている。
すぐさま浴槽に浸かりたい気持ちではあるが、マナーとして汚れを落としてから入るべきだと自身に渇を入れる。
シャワーも20台くらい設置してある。バスチェアに座って髪を洗おうとして思い至る。今の俺には髪の毛がない。
少し項垂れて洗剤を探すが見つからない。基本的に持ち込みのようだ。
扉が開く音がする。振り替えると美少女が全裸で入って来た。
風呂場だから当たり前ではあるんだが一応俺は男なんだが気にしないのだろうか?
(まだ12才と10才くらいの子どもに欲情でもしましたか?)
いやぁ将来は楽しみだが現時点では可愛い子どもだろ。
ナビィの言葉に大人の対応をするが視線は彼女たちを追う。ティアナは同年代の人間では成長が早いのだろう。12才くらいにしては胸がある方だと思う。背も高い方なのだろうが腰は綺麗に括れていて剣士なだけあって全体的に引き締まっている。
セフィリアは規格外なのだろう。身長は年相応なのだが、胸はティアナとほとんど変わらない。ティアナのように運動による引き締まった体ではなく普通の女子のように細く柔らかそうな体つきである。
本当に将来が楽しみな子達だ。
(ロリコンの変態ですね。)
ただのオヤジ思考と思ってくれ。一応生まれて4日だからな。
彼女たちは桶と洗剤を持って惜しげもなく肌をさらして寄ってくる。
「もう、いきなり走って行くなんて。」
「好奇心旺盛な子なんだろうね。」
「でも、バスチェアに座っているわ。」
「じゃあシャワーの扱い方も分かるかな?」
俺は二人の桶を指差す。
「これを使いたいのかしら?」
セフィリアが桶と洗剤を置いてくれた。
俺はシャワーのお湯を出して体に浴びる。それから洗剤の入ったビンを開けて手で体を擦っていく。あまり泡立っていないようだ。一端シャワーで泡を落としてから洗剤でまた体を洗う。
やっと汚れを綺麗に落とせてスッキリした。だけど背中が届かない。
「あら?背中が届かないようね。」
見かねたティアナは手に洗剤を付けて俺の背中を擦る。
「鱗の形をしているのにつるつるで思ったより柔らかいわね。私と戦った時はレイピアでほとんど刺さらなかったのに。」
洗いながら俺の鱗の感想を漏らす。シャワーで洗剤も洗い落としてくれる。
「やっぱり使い方が分かってたようですわね。」
「本当にこの子は何者かしら?」
二人も洗剤で髪と体を洗い始める。
俺は先に洗い終えて風呂に浸かる。入ったら体が沈んでいく。背が届かない。小さい翼を広げて浮力をあげる。
嗚呼、極楽極楽。
「随分と気持ち良さそうですね。」
気持ち良いからな。
「こんなに可愛いのに強い何て私も欲しいですわ。」
セフィリアが背中から抱きつく。胸の柔らかい感触が後頭部にあたって気持ち良いが増えた。
「私のものではありませんよ。」
ティアナは気にした様子もなく風呂に浸かる。
「従魔じゃなくていいから一緒にいてくれないかしら。」
「この子だって大きくなるでしょう。」
「でも可愛いと思いますわ。」
「そう思うけど、まずは会話ができないと始まらないわ。」
「普通の魔物は喋らないと思いますわ。」
「そうね。」と答えたティアナはセフィリアと他愛ない雑談をした。
皆一緒に風呂からあがる。
俺は洗面所に戻って近くにあった畳まれたタオルを手に取り水を拭う。汚れを落とせて風呂も堪能出来て満足だ。
彼女達が着替え終わるのを待ってからまたセフィリアに手を引かれる。セフィリアの部屋に戻ってまた勉強する。
セフィリアがうとうとと眠くなってきたようなのでベットまで引っ張って寝かしつける。
ティアナはセフィリアが寝たので自分の部屋に戻っていった。
俺も1日休んだとはいえ三日連続の徹夜だったので一緒に寝ることにした。
俺の食事のために明日からまた狩りにいかないとな。