プロローグ 拳王の最後の日
はじめまして鳴神です。文章力が足りず、仕事の都合上時間の空いた時にしか書けないので投稿は不定期になってしまいますが妄想の限りを尽くすので気に入っていただければ気長にお待ちください。
俺は拳王と呼ばれた日本人の男だ。
実家が古武術の道場を経営していたため、幼い頃から武術の世界に身を投じていた。
テレビで見た戦隊モノ、ライダーシリーズなど[悪に負けない強さ]を求めて始めた空手からムエタイ、サンボ、サバットなど格闘技も身に付け、強くなる事に喜びを感じていた。
成長するにつれて格闘技の他、趣味を見つけたりもしたが社会と世の中を知り、理不尽に抗うためにより強さを求めるようになった。
色々な大会に参加したり、武術家からルール無用の勝負を挑んだり挑まれたり、暗殺者をけしかけられたり、終いには戦争にも密かに参加したこともあった。
それらすべてに素手で常勝。何時しか拳王と呼ばれるようになっていた。
何故[呼ばれた]なのか?
俺はもう死んでいる。26歳独身で結婚願望有り。今まで忙しく恋にかまける時間がなかったのも事実だが残念である。
何故そんなことが分かるのか?
今の俺の意志によって動かせる視界を下に向ければ草木などの緑と近くに落ちている白く厚い欠片、それから爬虫類によく見られる爪と鱗がついた手が写るからだ。しかも手は自分で動かせ、現在明らかに人間でないことが分かる。
「何故こんな状況になっているか?」と言えば、その説明には少し時間を遡る。
俺が死んだ日、その日は、とある王族の周辺警護の依頼を受けて海外にいた。
昼間から明らかに俺に見せつけるような怪しい行動をする連中を仕事の関係上無視する訳にもいかず、罠であることを分かっていながらその後をついて行った。
少し離れた森までついて行くと案の定、待ち伏せしていたようで連中が姿を消した後に現れた男が「我は拳聖‼拳王たるそなたの命もらい受ける」とずいぶん古めかしい物言いを叫びながら襲いかかってきた。
俺は、自称拳聖なる男を返り討ちにしたが、こちらも後遺症に残らない程度であるがそれなりの怪我と出血、疲労が残っている。敵も暗殺紛いのことをする拳聖らしからぬ拳聖であったが自称するだけあってそれなりに強く戦いが終わってみれば辺りは暗い夜に差し掛かっていた。
俺が死んだのはその後の出来事である。依頼主の元へ戻る途中のことであった。人がほとんど寄り付かない森で軽い足音とそれを追う足音がかなりの速さで近づいて来ることに気付いた。
その音のする方向に目を向けるとその先から[出るところ出て引っ込んでるところは引っ込んでいる]を体現し、腰が高く、均整のとれた顔。まさにこの世の者とは思えない程整った容姿を持つ身長165㎝くらいの長い金髪の美少女が荒い呼吸と所々衣服が破れていて大変眼福─もとい危険な状態で現れた。
俺は彼女の姿を視界に捉えると心臓が一際大きく昂り、思考が一瞬止まった。完全な一目惚れだ。
だが、すぐにその後ろから迫る人物を視界に捉える。
短い黒髪で容姿が整った身長180㎝くらいの男、ガチムチではなく程よく筋肉が隆起している男、所謂世間一般でイケメンと呼ばれる男だ。
「何故追われているんだ?」などと言う疑問を思い浮かべるもそれ以上にかなりの速度で走る二人を見て、条件反射で二人の間に割り込んだ。後ろのイケメンに走る勢いを利用したカウンターの左肘打ちを顔面目掛けて放った。
美少女にとって明らかに敵対しているイケメンを倒し、少しでも気を向けてくれれば良し。そんな想いで放った渾身の肘打ちであったがイケメンは左手でそれ受け止め─きれず左手越しであったが顔面─正確には左頬に掠った。
イケメンは少し驚いた表情をしていたが反対の右手は貫手の形で既に俺の左脇腹から肋骨を折り心臓を貫いていた。
いくら俺の状態が悪いとはいえその攻撃に反応出来ないとは思わなかった。
それほどまでに速く鋭い攻撃をするイケメンに、俺は拳王と呼ばれる程に強くなったが「上には上がいる」という言葉を思いだし初めての敗北と迫る死の感覚に今更ながらもっと強くなりたいと後悔するのだった。
心臓を貫かれた俺であるがすぐに死んだ訳ではない。口元と左脇腹から出血しながらも俺が視界に捉えたのは先ほどの美少女の左手がイケメンの右頬にビンタを食らわせる所であった。
俺の背中から伸びた美少女の左手がイケメンに触れた直後イケメンの姿は影も形もなく消え、その場には美少女と死に向かう俺が残されるのであった
「巻き込んでしまってごめんなさい」
視界が霞んでいく中俺が初めて聞いた美少女の第一声がこれだ。その声も整った顔と相まって美しく俺は聞き惚れていた。
美少女に抱えられ、感触が分からないのが残念だと思いながらも危険はもうないと分かった俺は「大丈夫だ」と掠れた声で言うものの美少女には聞こえないだろうということも分かっていた。
「でも、助けくれてありがとう。貴方のお陰で追手を追い払えたし、お礼をすることもできる。」
と少し表情を緩め慈愛に満ちたような微笑みで言った。その姿はまるで女神のようであった。
その後にも何か言っていたようだが俺は最後に女神の顔を覚えておきたいと思い、彼女の顔を見ながら息を引き取った。
目が覚めた時には辺りは真っ暗であった。というよりは目が開いているのかも分からない。ただ自分の意識だけが存在する。そんな場所にいることだけしか分からなかった。
しかし、
「気が付いたみたいね」
一筋の光が現れるとともにその光から声が聞こえた。
「はじめましてというのも変だけど出会ったのがあんな状況じゃねぇ…」
よく聞くと先ほどまで聞いていた女神の声であった。
死んでまで彼女の声が聞けるなんて天国に連れて行ってくれるのかな。と思うも彼女の話を聞く。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前はソフィ。一応神様をやってるわ。」
女神みたいだと思ったものの本物だったとは。というか神様に名前があるのか。
「改めて先ほどは助けてくれてありがとう。貴方が割って入ったお陰で武神の隙を突けて追い払えたわ。」
あのイケメンが武神だとはさすがに驚いた。どこから見ても同年代か少し下の男にしか見えなかったし。まぁ、彼女が助かったならそれは良かった。
「ただ、地球人である貴方を死なせてしまった。地球人の生命力では心臓を再生出来なかった。」
俺が地球人?まるで他の世界があるみたい言い方だ。
「えぇ、地球以外にも世界はあるわ。」
俺の心が読まれているのか!!
「それはそうよ。今は貴方の魂と繋がっている状態なのだから。」
魂が繋がっている状態?何故?
「貴方にお礼をするためよ。具体的には貴方を異世界に転生させる準備をしているの。魂を繋げてるのは貴方の望みを正確に聞くためね。」
転生とはファンタジーでよくあるテンプレな展開だ。しかし、俺の望みか。あの武神よりも強くなること以外あまり思い浮かばないな。それに転生先が異世界なのも気になる。
「それはいくら神の加護のない地球とはいえ武神と対峙して死ぬのはさすがに気の毒すぎるとおもったのよ。まだ26歳だし。それにさっきの肘打ちは地球人のものとは思えない程鋭く重い一撃だったわ。言ってしまえば貴方のことが気に入ったのよ。」
俺の技を誉められたのは嬉しいけど、神の加護のない地球とはどういうことだ?
「神の加護のある世界では地球とは違い魔力というものがあるのよ。もちろん魔法もね。他にも自分の力をステータスやスキルという形で見ることができるのよ。これから転生させる世界は人以外にも色々な種族がいるし、人を襲うこともある魔物という危険な存在もいるのよ。まぁ中には人に飼われる魔物なんかもいて一応共存している社会になっているわ。人も魔物も進化することもあるし、魔物なんかはその過程で人型の形をとることもあるのよ。倒した魔物の素材は高く売れるから命をかけて狩りに行く者も多いわ。魔物の核となる魔石なんかは魔道具を作るのに必要で、相手のステータスを見る物もあるわ。人の死が身近になるけど安全の線引きをすることもできるし、貴方の望みである武神より強くなる可能性がある世界だと思うわ。」
転生ってことは生まれると記憶がなくなるのか?
「記憶もないのに自分の望みが分かる訳がないでしょうに。」
それもそうだな。いやよかった。成長期の身体づくりは重要だからな。となると後聞くことは…
「恋人もいないし好きな人もいないわ。連絡も居場所がバレてしまうからほとんど出来ないし、でも代わりに色々おまけを付けてあげるわ……恋人は強くなったら考えてあげる。もう時間があまりないから最後に…期待してるわ。」
先回りしないで欲しいが期待されるのならばそれに答えねばなるまい。二度目の人生を一から始めるとしますか。
「転生体は人じゃないわよ。」
え!?
そして俺は異世界に転生するのであった。