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ワンライ投稿作品

ALL IN BLUE

作者: yokosa

第115回フリーワンライ

お題:

4つの青


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 マーク42は人間くさい仕草でアイ・センサーを擦りながら、分署の廊下を歩いていた。四本指のアームを近付けたり離したりして、焦点を合わせる。どうにも朝から調子が良くなかった。

(これは良くない兆候だ)

 先刻、無線通信で近頃この街を騒がせていた、連続爆弾魔を逮捕、自白させることに成功したと言ってきた。もしも件の犯人が逮捕前に爆弾を仕掛けていたとすると――まあ間違いなくしているだろうが――爆発物処理(EOD)ロボットに出動がかかる。

 つまりマーク42にだ。

『マーク42! おい、ポンコツ! 聞こえてるか! 今すぐすっ飛んでこい!』

 ほら来た。

 直属の上司であるランバート――マーク42は「主任」と呼んでいる――のだみ声。人間なら聞きたくないことは耳を塞げば良いが、ロボットの場合は通信が直接思考に介入してくるから、どんなに嫌でも無視することが出来ない。勿論、勤務中に通信回線を自閉モードにするなどもってのほかだが。

 マーク42がデスクに“出頭”すると、ランバートは露骨に不機嫌そうな顔をした。

 要件はわかっている。ランバートの性格を知り尽くしているマーク42は、挨拶もそこそこに話を切り出した。先に不調を訴えなければ恐らく聞く耳を持たないだろう。

「あの主任、実は今日なんですが」

「爆弾犯を捉えて自白させたという話はもう聞いているだろう」

“主任”は一方的に捲し立てた。

「勿論聞いています。ですがRGB」

「あの野郎、街中に仕掛けやがった。マーク63まで出動させたが」

「いや、あのセンサーがですね」

「まだ手が足りん。不本意だがポンコツにも現場に行ってもらうぞ」

「不調(Disorder)なんですが」

「この命令(This Order)もあの命令もあるか。命令は一つっきりだ。さっさと行けポンコツ」

「……わかりました」


 *


 幸いにも、現場は何が狙いかわからないほど、人気のない街外れの空き地だった。

 その中心に、これ見よがしにドラム缶が置かれている。

「マーク42、現着。あー……対象を発見」

 ドラム缶の天辺は乱雑に開かれた缶詰にように切り取られていて、中には一辺が二十センチほどの箱状物体が入っていた。

「解除方法は?」

『喜べポンコツ。自白させた。お前の窮屈な脳みそが解析でパンクしないで済むぞ』

「それは結構」

 慎重に取り出す。縦長の箱の四面にはスイッチや機器が剥き出しになっている。小さい二つの面のうち、片方にデジタル式のカウントダウン・タイマーがあった。

 晴れだから良かったようなものの、雨が降ったらどうするつもりだったのか。覆いがなければ雨粒で回路がショートしたのではないだろうか。

『丁重に扱えよ。最初に上を向いていた面がわかるな? そこに配線があるはずだ』

「あります。配線ケーブルが四本」

『よしよし。奴さん、仕事を抱えすぎて作りが雑になったらしいな。青い線を切れば止まるらしい』

 マーク42は一瞬戸惑ったが、見たままを伝えることにした。主任の反応は予想出来た。

「青しかありません」

『……何ぃ?』

「ですから四本とも青です」

『論理回路がイカれたかポンコツ?』

「今朝からRGBフィルターが不調だと言ったでしょう」

『そんなことは聞いてないぞ……くそ! 今から言っても始まらんか。じゃあ次だ』

「次とは?」

『ポンコツ、お前ツイてるぞ。爆弾魔殿は俺たちに爆弾を解除して欲しくて仕方なかったらしいな。解除法は他にもある。右に回転させろ。ランプとスイッチが四組セットになっていて――』

 マーク42は、ランバートが次に言う言葉がなぜかわかった。

「全て青です」

『……四種類の図形が――』

「どうせそれも青なんでしょう?」

『……お前、この一件が片付いたら下取りに出してやるからな。

 くそ。なら最後だ。四つのキーが張り付いてるな? キートップに単語が印字してある。BLUEのキーを押せ』

「全部青です」

『色じゃなくて単語だと言っただろう、ポンコツめ!』

「ですから、四つあるキーの全部がBLUEなんですよ」

『……………………』

 無線の向こうでランバートが絶句してる。削り出しの岩のような顔が青ざめているのを想像した。それはそれで愉快な心持ちではあったが、爆弾処理現場では笑うことも出来ない。

 爆弾処理にロボットが使われるようになってから半世紀ほど経つ。爆破しても人的損害が出ないのが強みだが、未然に爆破を防げるならそれに越したことはない。爆弾解除にはある種の閃きが必要で、だから旧型のマーク42の限定された思考も人間の脳を模した構造になっていて、そのために人間くさい所作や所感が滲み出るのである。

 マーク42は生卵を扱うよりも丁寧に爆弾を調べた。

「主任」

『……なんだよ。爆発予定時刻までならロボットの愚痴ぐらい聞いてやるぞ』

「この爆弾解除に使われてる青色なんですが、私の高性能解析機能を使用したところ」

『高性能ポンコツ解析か』

「……使用したところ、色味に差がないことが判明しました。恐らくですが、私のRGBセンサー不調に関わらず、これらは全て青です」

『――は?』

「担がれたんじゃないですか? その連続爆弾犯に」

『ふざけやがってあの野郎、とっちめてやる!』

「犯人を締め上げるのも結構ですが、もう時間がありません。青の配線切りますよ。

 なに、悪くてもこの無人の空き地が吹き飛ぶ程度で済みます」


 *


 マーク42は無事、無傷で分署に帰還した。

 爆弾処理ロボットが任務を成功させても褒められることはないが、犯人に一泡吹かせられたランバートの仏頂面をまた見られたのは、マーク42にとっては愉快なことだった。



『ALL IN BLUE』了

『Keep Talking and Nobody Explodes』っていうインディーズゲームがあるんですが、それをちょっとイメージしながら書きました。やったことないけど。たぶん面白い。やったことないけど。

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