ノスタルジックな文章ください
星のない夜。
丘の上に少年が立っている。節くれだった幹をした大樹の陰から、彼は赤く輝く街を眺めている。
街は温泉街、歓楽の街だ。中心にはひときわ背のたかい旅館がある。道はどれも黄金の鉱脈のように光っている。街のあちらこちらからあがる煙もあかあかとしている。
通りへとせり出すけばけばしい色の軒、軒、軒・・・浴衣姿の人の波がゆっくりと動いている、そして路地からそこに合流する者もいれば、小路へと離れていくものもいる。どの道にも発光する看板と燃える提灯の群れがある・・・。
月のある夜。
煙突の上に少女が座っている。廃棄され錆びついた巨大な円筒の上で、彼女は青い平原を眺めている。
平原は砂丘、砂の海だ。ところどころ申し訳程度の緑が生い茂っている。だが一面は月光に照らされて青く息づき、水平線の先はその青さが限りなく薄れ、しらじらと光っている。
ぼんやりと影になって見えるのは、工場やクレーンのたぐい、それが廃墟なのか操業されているのかまでは目視できないが、しかし遠くに本物の海原があることを感じさせる影・・・海辺の街の空気は軽く、ガラス窓が船の汽笛にふるえ、カーテンは潮風にはためいている・・・。
夜が明けると二人の見た光景は消え去っていた。労働のため視線は近くのものにそそがれ、触れ合ったはずの視線は忘れ去られた。