ある日の夕方
しつこいまでに陽の落ちない夏の午後。内申点目的で入部したコンピュータ部の涼しい部屋とは打って変わった赤光の熱気に当てられた俺は大きな溜め息を吐いた。
暑さが鬱陶しいのもあるが、やはりあの早朝の迷惑行為が心に来ている。めちゃくちゃ来ている。あれほどの野次馬が溜まっていたんだ、学校で噂が広がるのは考えなくても分かる話。
二次元では田中さんよりも人口密度が高いと自負している小鳥遊さんも三次元では田中さんの圧倒的な物量には完敗で、要するに男の小鳥遊さんなど俺の他にいなかった。犯人探しめいた大騒動も矛先は全て俺に向かい、果ては先生からも『朝は大変だったらしいな(笑)』と茶化される始末。
「やっぱり夏のアイスは格別ッスね、センパイ!」
これのせいで。
「おい、なんで我が物顔で隣を歩いてる、っていうかちゃっかりアイスを奢らせるな。俺は告白なんて受け入れた覚えはないぞ、死ねって思いっきり拒否しただろうが」
「え、『死』ぬまで一緒にいよう『ね』の略じゃなかったんスか!?」
ヤバい。次、背中を見せたら絶対刺される。
本気で驚いた顔をしている宮本は溶けたアイスが手に垂れた事で我に返り、残った氷塊を急いで口の中に放り込んだ。
「でもセンパイ、嫌だったとしてもあたしのこと受け入れてくれた方がいいと思うッス。センパイって大学行ったら自動的に彼女ができるとか考えてんじゃないスか? そういう人は三十路前になってから後悔するんスから早すぎるくらいに女の子を捕まえておかないと」
「やめろ、心が痛い」
リアルな忠告に上から目線なのを気にする余裕もない。なんでコイツの言動は人の心に土足で上がり込んで踏みにじる事に特化してるんだろう、絶対友達いないんじゃないか。
「じゃ、あたしこっちッスから」
また明日ー! と言いたいことだけ言ってさっさと歩いていく宮本。元気に手を振るのはいいが、住宅街で問答無用に叫ぶあいつはやっぱり若干痛いやつなんだと思う。
急に静けさを取り戻した住宅街、朝から色々と迷惑を被った俺からするとこの静けさはトイレの次くらいに安心する空間だ。
宮本と別れて数分、自宅の鍵を開けて扉をくぐる。自転車も自動車もなかったので両親はまだ帰ってきていないだろうけど、マナーというかエチケットというか一応ただいまとだけ言っておいた。