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冬をむかえたてんとう虫

作者: ∠PA真理子

とある町の、

とある公園に、

1匹のてんとう虫が

住んでいました。


彼はあたたかい春の朝に生まれ、

それから

花だんの黄色い菜の花についた

小さな甘い虫を食べながら、

大きくなりました。


そうしてお腹がいっぱいの時は、

同じ花だんの中に咲いたバラの

赤や白や紫の花や、

トゲトゲのついたくきの上で

アリと追いかけっこをして遊び、


夏になって暑くなると、

ひまわりの葉に浮いた朝つゆで、

水遊びをして過ごしました。


それは何不自由のない、

楽しい暮らしでした。

けれど。


それからしばらくたった、

ある日のことでした。


てんとう虫はいつの間にか、

ずいぶん辺りが寒くなってきた

ことに気がつきました。

様子もだいぶ違ってきています。


見上げると、

今まで緑色だったメタセコイアの

まっすぐ背をのばした

大きな木にしげった葉は茶色く、

そして人間の子どもの

手のひらのような形の

カエデの葉は赤く、

色が変わっていたのです。


他の草木についても

そのほとんどが同じように、

緑色が失われていました。


不思議に思ったてんとう虫は、

公園の真ん中にある池に浮かんで

羽づくろいをしている

カモの群れに声をかけました。


「カモさん、

いったいどうしてこの公園は、

こんなに寒くなったんでしょう?


それにどうして木の葉は緑色じゃ

なくなったんでしょう?」


するとカモは答えました。


「冬が来るからだよ。」


「ふゆ?」


「そう。冬。何もかも白っぽく、

冷たくしちゃう奴さ。


私達はちょうどこれから

その冬から逃げて、

もっとあたたかい南の川に

行くところ。」


「それはどこですか?」


カモは首をふって、

そちらを示すと続けました。


「あのお日さまのある方の、

うんと先。じゃあね。」


そして翼を広げると羽ばたき、

飛んでいってしまいました。


「待って。」

と、

てんとう虫は思わずさけびました。


「ぼくも一緒に行く。」

と、

カモの後を追おうと、

黒い7つの水玉もようの入った

赤い羽を広げ、


さらにその下にある

金色の羽もはためかせ、

飛び立ちました。

けれど。


てんとう虫はすぐに

力がつきてしまい、

水辺に生えているあしの葉の上に

落ちてしまいました。


てんとう虫は息をきらし、

がっかりしながら言いました。


「ああ、つかれた。

ぼくの羽はカモさんたちのように

南の川まで飛んでいけるほど

強くはないみたいだ。」


それからてんとう虫は仕方なく

カモの後を追うのはあきらめて、

その場で

一休みをすることにしました。


と。

もぞり、と、

体の下が急に動きました。


「わ。」


てんとう虫はびっくりして

何ごとかと足の下を見ました。


「わあ。」


そしてさらに

もう一度びっくりすると、

こわさのあまり、

固まってしまいました。


なぜならてんとう虫が

一休みしようとしていた、

すらっと細長い形をした

あしの葉だと思っていたのは、

実はあしの葉にそっくりな

カマキリだったからです。


(カマキリは、

他の虫をつかまえて食べる。

ぼくももうだめだ、食べられる。)


てんとう虫はかん念して、

思わず目をつむりました。

けれど。


カマキリは

低いうなり声を上げただけで、

その両手の2本のかまで

てんとう虫をつかまえることなく

ほうったままにしておきました。


いつまでも何もされないので、

てんとう虫は

おそるおそる目を開けると、

カマキリにたずねました。


「どうしたんですか?

具合が悪いんですか?

ぼくをつかまえて食べようと

しないんですか?」


「悪いといえば悪い。」


カマキリはうなるように

低い声で答えました。


「食欲もない。

もう寒くて体が動かない。」


てんとう虫はその言葉に

思いあたることがあって、

さらにたずねました。


「それは冬のせいですか?」


「そうだ。」


カマキリがうなずいたので、

てんとう虫はさらにたずねました。


「池のカモさんたちは

その冬から逃げて、

あたたかい南の川に向かって

飛んでいってしまいました。


カマキリさんはこれから

どうするんですか?」


「どうもしない。俺は

これからこごえて死ぬだろう。」


「え?しぬ?」


「そうだ。死ぬ。だが。」


そう答えるとカマキリは、

上を見ました。


そこはあしの葉の根元で、

そこにくっつくような形をした、

うすい茶色のボールのような、

丸いかたまりがありました。


カマキリは言いました。


「これは俺の卵のあつまり。

子供たちだ。」


「子供たち?」


「そうだ。俺が死んでも、

その代わりにこの俺の子供たちが

また次の春が来て

あたたかくなったら生まれてくる。

俺のようなカマキリはそうやって

毎年命をつないでいくのだ。」


そう言うとカマキリは

もう一度その場にうずくまり、

そのまま

動かなくなってしまいました。

どうやら

死んでしまったみたいでした。


てんとう虫は

ショックを受けました。


(このままだと

僕も寒さでこごえて、

カマキリさんのように体が

動かなくなって死んでしまう。)


てんとう虫は

何とかそうならないですむ方法は

ないものかと、

それを探しに再び飛び立ちました。


と。

すっかり茶色に変わった葉を、

ほとんど落としてしまった桜の

木のえだの先で、

動く小さな黒っぽい何かを

見つけました。


(桜の花の芽かな。

でも動くなんて変だ。)


てんとう虫はそれを

もっとよく見ようと、

そばにおりました。

すると。


「何かご用かい?」


花の芽のような

それの先の部分から、

1匹のイモムシが黒い顔を

のぞかせました。


そう。

花の芽に見えたのは、

実はミノムシだったのです。

てんとう虫はたずねました。


「ミノムシさん、

何をしてるんですか?」


「もっと風が来ないところに

移動してるところだよ。」


「これは何ですか?」


てんとう虫は

ミノムシが入っていた、

花の芽に似たそれについて

たずねました。

ミノムシは答えました。


「ねぶくろだよ。

ミノムシのミノの部分さ。

桜の木の葉で作ったの。

これから寒い冬が来ても、

このあったかいねぶくろがあれば

こごえないで過ごせるから。」


てんとう虫はそれを聞くと、

あわててお願いしてみました。


「ミノムシさん、

僕も中に入れて下さい。」


「ごめんね、ひとり分なんだ。」


ミノムシは

そう言って首を横にふると、

ねぶくろの中に

引っ込んでしまいました。


てんとう虫は途方にくれました。


「僕はカモさんのように

遠くまで飛べる羽もなくて、

ミノムシさんのようにあたたかい

ねぶくろも持っていない。


やっぱり僕も、

カマキリさんのようにこごえて

死んでしまうんだろうか。

子供を残してはいないけれど。」


すると。


「何をしてるの?

ナナホシテントウさん。」


急に声をかけられて、

てんとう虫はびっくりしながら

顔を上げました。


見るとそこには

赤い2つの水玉もようのある、

黒い羽のてんとう虫がいました。


「君は?」


「私はフタホシテントウ。

ちょっとお出かけの途中だったの

だけれど、

あなたの様子がおかしかったから

気になって声をかけちゃった。」


ナナホシのてんとう虫は

それに答えて言いました。


「実はもうすぐこの公園に、

カマキリさんを死なせてしまう

くらい寒い冬が来る。


ぼくもこのまま何もしなければ

きっと死んでしまうのに、

どうしたらいいかわからなくて

困っているんだ。


ぼくにはカモさんのように

遠くまで飛べる羽もなくて、

ミノムシさんのようにあたたかい

ねぶくろもないから。」


「そんなことだったの。」


フタホシテントウは

うなずきました。


「なら私と一緒に来ればいいわ。

ちょうど私も、

そのことでお出かけしたところ

だったから。」


「そうなの?」


「ええ。こっちよ。」


ナナホシのてんとう虫は

フタホシテントウにうながされ、

彼女の後をついて

桜の木の幹を下りていきました。

すると。


その根元には厚く積もった

落ち葉がじゅうたんのように

広がっていました。


そして、

木の幹と落ち葉の境にはちょうど

てんとう虫が出入りできるくらいのすき間がありました。


「ここはひなん所よ。」


フタホシテントウは前足で

そのすき間を示して続けました。


「入りなさいな。

そしてここでひと眠りするの。

起きる頃にはまた春が来て

あたたかくなっているから。」


「僕も一緒でいいの?」


「もちろん、

たくさん仲間がいた方が

あたたかいもの。」


そこでナナホシのてんとう虫は、

フタホシテントウの後について、

桜の木の幹と落ち葉のすき間に、

彼女がひなん所と言った入り口に

入っていきました。

すると。


「こんにちは。」


フタホシテントウが

あいさつをした先を見て、

ナナホシのてんとう虫は

驚きました。


その、ひなん所の中にいて、

フタホシテントウのあいさつに

いっせいにふり向いたのは、

何十何百という数の、

たくさんの

てんとう虫たちだったのです。


彼らは赤、黄、黒と背中の色も

水玉の数も様々なてんとう虫たち

でしたが、

仲良く身を寄せ合って、

とても

あたたかそうにしていました。

そして。


「こんにちは。」


と新しい仲間に、

フタホシテントウと

ナナホシのてんとう虫に

いっせいにあいさつを返しました。


ナナホシのてんとう虫は、

驚きながらも思いました。


(こんなに仲間がいたなんて。

でも。

ひとりではどうしたらいいか

わからなくてつらい時には、

こんなふうに

みんなで一緒にいるといいんだな。


実際ここは集まった大勢の体温で

とてもあたたかいけれど、

つらい時でも

もうひとりじゃないんだと思うと、

心まであたたかくなってくる

ようだな。)


そして。


「こんにちは。」


同じようにあいさつを返すと、

フタホシテントウと一緒に、

その様々なてんとう虫たちの

集まりの中に入っていきました。

そうして。


ナナホシのてんとう虫は

フタホシテントウや

大勢の仲間たちと一緒に

次の春が来るまで、

仲良く寄りそい合ってあたたかく

過ごすことができたのでした。


(おしまい)

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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛い物好きなので、てんとう虫にハアハアしました(笑) 色のない冬から色彩豊富な春へと移る場面は、爽やかな感じがしました。 心暖まる童話ですね。
2016/01/05 16:46 退会済み
管理
[良い点] すごく心が温まりました。このお話に出会えてよかったです。 [気になる点] 特にありませんでした。 [一言] まるで絵本を読んでいるかのような懐かしくて優しい気持ちになりました。たくさんの人…
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