第 五 話
「あら、二人仲良く帰ってきたの?珍しい」
スーパーに寄って具材を買った後、二人ともお腹が減ってたのか、早歩きで家に帰ってきた。買い物袋を、リビングにいるお母さんに渡せば、私と春ちゃんを見て微笑みながらそう言った。
「たまたま帰りが一緒で」
お母さんはなんだか嬉しそうにキッチンへ向かっていった。春ちゃんは自室へと行ってしまった。私も着替えに行こうとしたらお母さんに引き止められた。
「春はきっと、空に照れてるだけよ、思春期ってのもあると思うけど」
お母さんは優しい声でそう言った。
「うん、分かってるよ」
私も優しく答える。
「ふふ、空はお父さんか、真夏さんに似て、優しい子ね」
真夏さんとは亡き母のことだ。
「優しいだなんて、そんなことないよ、春ちゃんとちゃんと向き合いたいだけだよ、もっと仲良くなりたいし」
「そう、春のことよろしくね、お姉ちゃん」
お母さんはちょっと意地悪そうな顔で言うもんだから、なんだか恥ずかしくなって「もう部屋行くね」と、話を切り上げてリビングを出た。
着替え終えてリビングに行けば、キッチンに立つ二人。お母さんと…春ちゃんだ。
「春ちゃんも作ってるの?」
そう春ちゃんの華奢な背中に問えば、振り向かないまま、「そーだけど、なんかまずい?」と、またまた不機嫌な声で答える。でも、もう、この程度でめげない私になっていた。
「ううん、まったく。春ちゃんの料理楽しみにしてる」
「…うん、待ってて」
随分と素直な返事。春ちゃんも少しずつ私に心を開き始めてくれている。レポートをこれから取り組む予定で、テンションが下がっていたところ、その事実が嬉しくて、私は気分良くマグカップにコーヒーを注いで、自室に戻った。
お母さんの呼びかけが聞こえて、リビングに降りたら、食卓を囲む父とお母さん、そして春ちゃん。
「空、久々だな、なんか」
父は新聞から目線を私に移してそう言った。私も父に会うのはなんだか久々。変だな、一緒に住んでいるのに。
「お父さんも久々」
席は春ちゃんの隣。前には父が座り、その隣はお母さん。目の前には
「お、今夜はナポリタンか」
「そうよー、春と二人で作ったのよ、ね」
お母さんの問いかけにこくんと頷く春ちゃんはなんだか幼く見えた。
「そーなのか、おし、食べるぞ〜」
父が食べ始めると私もフォークをとって食べ始める。
すると横から視線が。春ちゃんが私の横顔を見つめてくる。きっと味はどーだって聞きたいんだろう。一口食べて春ちゃんに「美味しいよ、春ちゃん、料理上手いね」って言えば俯き、頬を赤くして
「あ、りがとう」
と小さい声で言った。
「美味いなー、なんか懐かしい味だ、さすが母さんと春ちゃんだね」
父はニッコリ笑顔。にしても食べるのが早すぎる。もうほとんど食べてしまった父はお母さんにおかわりを聞いている。
父の言う通り、そのナポリタンは懐かしい味がした。いつの日か、母が作ってくれた、あの味に似ているからだろうか…
「私もおかわり」
「はいはい」
「あたしも」
「え、春ちゃん結構食べるね」
「だって、好きだもん」
「みんなおかわりなんて、ナポリタン大人気ね、ふふ」