第 四 話
「じゃ〜春ちゃんの好きな食べ物は?」
「…ナポリタン」
「へぇ、パスタ系好きなの?」
「うん」
「そーかぁ、私も好きだなぁ、あ、じゃあ今度お母さんに晩御飯ナポリタンにしてもらおっか」
帰り道、春ちゃんに色々質問しながら歩く。夕日に照らされた春ちゃんの横顔が大人っぽく見えて少し緊張してしまう。
「…いいよ、別に」
「え、なんで」
「だって…あんた食べれないじゃん」
「?」
「っだから、あんたバイトで帰ってこないじゃん、晩御飯の時間に!あたし別に食べたくないし、いいって言ってんの」
「あ、ちょ…」
春ちゃんは声を張り上げながらそう言い放った。その顔は真っ赤で、たぶん苛立ちとか恥ずかしさが混じったような感情からそうなっているのか。春ちゃんの歩調はグンと速くなり、呆気にとられた私と距離が空いていく。
そういえば最近は、家族で晩御飯を囲む席に私が居ない日が多い。春ちゃんは多少なりともそれを気にしてくれていた。でも私的には一緒にナポリタンを食べたい。あ、そうだ、今日ナポリタンにしてもらったらいいんじゃ…
そう思ったら春ちゃんにまた追いつくように走り出す。
春ちゃんの腕を軽く掴み、
「まって、じゃあ今日ナポリタンにしてもらお?私が一緒に食べたいんだ、みんなで…」
そう言った。
春ちゃんは私を見つめた後、そっぽを向いた。
「…でも、お母さんもう晩御飯作り始めてるよ、きっと」
「あ、かもしんない」
私は慌てながらケータイを取りお母さんに電話をかけた。
「あ、お母さん?…うん、そう、あのさ、晩御飯…本当?じゃあさ、急なんだけど、今日ナポリタンがいいなぁ〜って…え、そうか〜…あ、じゃあ買ってくるよ、うん、分かった、急いで買ってくるー、うん、じゃ」
話し終えた私は肩をチョンと触って振り向いた春ちゃんに電話での内容を話す。
「まだ作ってなかったみたい、でもナポリタンの材料が足んないから、これからスーパーに行って買いに行くんだけど、春ちゃんも一緒に行く?」
どうやら家にはパスタはあるが、いくつか材料が足らないみたいで、お母さんに近所のスーパーに買いに行ってくると話した。
「行く…あたしもやっぱり食べたいもん…」
春ちゃんはモジモジとしながら小さな声でそう言った。いつになく素直な返事にちょっと驚きながら、でも、答えてくれたことが嬉しくて、
「じゃあ行こっか」
笑顔で言えばこくんと頷く。
「ねえ、春ちゃん、私のこと呼び捨てでも構わないよ(あんた呼びはキツイ…)」
「え、あ、うん、分かった」
「呼んでみてよ」
「やだ」
「(即答かよ)…でも呼んでみなきゃ慣れないと思うし…」
「…空…」
「…」
「っちょっと、呼んでるんだけど!空!」
「っはい!ご、ごめっ(ドキッとし過ぎて反応できなかった…)」
「無視するとかもうしないで、二回呼ぶのめんどくさい」
「う、うん、分かった」
春ちゃんの顔も真っ赤で、私の顔も真っ赤だった。にしても呼び捨てってなかなかの破壊力だ。自分でお願いしといてだが。跳ねる心臓を落ち着かせようと必死な私だった。