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第 十二 話






















奈緒が無事レポートを提出して、私も課題が落ち着いた頃、まだ奈緒への気持ちはハッキリとしないままだった。奈緒が泊まったあの日、朝起きたら目の前に奈緒の顔があって焦った。意識しないようにすればするほど、存在が大きくなるのは何故だろうか。それから頑張って平然を装って奈緒を叩き起こし、学校へ向かったことが、昨日のように覚えていた。


1人で勝手に悩んでいるのが馬鹿らしくなって、午前中で授業が終わった今日は、「El」に行ってシンさんに相談というか、シンさんの一言でこんなに悩んでいるんだ、という文句を言ってやろうと思い、歩き出した。


初夏と言っていいほど、日差しは日に日に強くなり、じんわり汗ばむ。大学から「EI」までの道のりが、今日は長く感じる。大通りを横切って、路地に入って行くと見えてくる。お昼時で少し混んでいるが、気にせず入店し、シンさんの声が一番に耳に届く。


「あ、いらっしゃい、空ちゃん」



ああ、なんて完璧なスマイルなんだろうか。なんか光って見える。



「こんにちはー」



「ちょっと待ってて、今案内するからー」



「はーい」





入り口近くのレジの前に置かれたパイプ椅子に座って、店内を見渡す。サラリーマン、主婦、私と同い年くらいの学生、OLっぽい綺麗な女性、みんな優雅なランチタイムを過ごしている。カウンターには…あ、たしかシンさんの彼氏さん。来てたのか〜なんて思ってたらシンさんが近づいてきた。



「お待たせ、カウンターでもいいかな?」


「はい、大丈夫です」




案内された先は、シンさんの彼氏さんから一個開けた席。彼氏さんと目が合い、思わずお互い会釈。あっちも薄っすら私のことを覚えていたのだろう。



「君が噂の空ちゃん?」



これまた爽やかスマイルで声をかけてくれた彼氏さん。



「噂のかは分かりませんが、空です。初めまして、シンさんの…」



「恋人のタクローです。よろしく」



「よろしくです」



「2人ともなんか固くない?」



タクローさんに挨拶をしていたらシンさんがつっこんできた。そタクローさんはモデルみたいだった。細身で、眼鏡をかけていて、いかにも仕事のできそうな秀才感が漂っている。スーツ姿からみて、仕事の合間をぬってシンさんに会いに来たのだろう。



「初対面ならこんなもんでしょ。シンがフランクすぎるんだよ」



タクローさんが優しくシンさんに言った。雰囲気だけで、こっちはお腹いっぱいだ。



「あ、空ちゃん、何食べる?」



「じゃ、ミートパスタのランチセットで」


「はいよ、ドリンクは?」


「アイスコーヒーで」


「オッケー、ちょっと待っててね」



シンさんは注文をとって、厨房へと向かった。



「空ちゃんって僕も呼んでいいかな?」


「どーぞ、どーぞ」


「ありがとう、空ちゃんの話をよくシンから聞くんだ」



タクローさんはこちらに体を向けて頬杖をつきながら私に言う。



「え、どんな話ですか?」



「んー例えば、空ちゃんはいじられキャラだとか」


「それただ単にシンさんが意地悪なだけですよ」



ちょっと迷惑そうに言ったらタクローさんは笑っていた。


「確かに、シンはおちゃらけたり、弄ったりするの好きだからな〜。空ちゃんは特に妹みたいな感じで、意地悪したくなるんだよ、きっと」



ふと、奈緒にシンさんと私が兄妹のように見える、と言われたことを思い出した。



「ええーシンさんみたいなお兄ちゃんは遠慮しときます」



「なんで!冷たいなー空ちゃん」



タイミングよくシンさんが厨房から戻ってきてつっこんできた。



「シン、残念だったな」



「なんでよ、理由だけでも知りたい」



少し切なそうな声で言うシンさんは大型犬が落ち込んでいるように見えた。これがギャップというやつか。なんて冷静に思った。



「あのー私、筋肉がムキムキの人ダメなんですよ、家にいたら絶対見るだろうし、無理だなって。それ以外ならシンさんは良いお兄ちゃんですよ」



「なんで筋肉ダメなの!それなりに役に立つと思うよ」



まだまだ喰い下がらないシンさんと拒否する私のやり取りを見てタクローさんはずっと笑っていた。

バイトの子が料理を運んできてくれた後、タクローさんは仕事に戻るとシンさんに告げて店を出て行った。





















「シンさん、タクローさん素敵な人ですね、タクローさんみたいなお兄ちゃん欲しいな」


「空ちゃんにはもったいない」


「失礼ですね、それ」


「てへっ」


「なんか殺気湧きました」


「最近空ちゃん怖いよね」


「はい?」


「いえ」









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