第 十一 話
「ガチャッ」
私が喋ろうとした時、部屋の扉が開いた。扉の方を見れば、そこには春ちゃんがいた。
「空、アイスティー。お母さんから」
春ちゃんはお盆にグラスを二個乗せて入り口に立っていた。私が春ちゃんに反応せず、ボーッとしてる間に、奈緒が春ちゃんからアイスティーを受け取り、お礼を言っていた。ハッとした頃には春ちゃんは不思議そうな顔で私を見た後、部屋を出て行ってしまっていた。
「空?大丈夫?」
「…あ、うん、大丈夫。ちょっとトイレ行ってくるね」
奈緒とこの部屋にいるのがなんだか緊張してしまって私は部屋を出ることにした。奈緒はわかったと言って、何事も無かったように作業を再開し始めた。
全てシンさんの所為だ。なんて、子供じみた言葉を心の中で呟く。なんでこんに奈緒を意識しなきゃならないのだ。誰かに言われたから好きになったとか、自分的には不純いうか、なんというか…
ぼんやりしながらトイレを済ませ、また部屋に戻ろうとする手前、また変な気を起こさないように深呼吸をした。
「何自分の部屋入るのに緊張してんの」
「え」
後ろから言われて振り向けば春ちゃんがいた。
「いや、ちょっと…」
パッとしない答えに春ちゃんはしかめっ面。まあいいや、なんて言って自室に戻った。なんとまあ、情けないと思いながら部屋の扉をゆっくり開けた。
奈緒は相変わらずパソコンと格闘中。邪魔はできないと、私は「寝るね」と奈緒に告げてベッドに転がり込んだ。
「空、寝た?」
ベッドに入って30分くらいした頃、奈緒がパソコンに向かったまま私に喋りかけた。もう少しで眠りの世界に入りそうだったところを起こされ、若干不機嫌な声で答えた。
「何さ?」
「あ、寝そうだった?ごめん」
「いいよ、で、なんかあった?」
「なんかあったのは、空の方じゃないの?」
ああ、もうさっきの話は終わったのかと思っていたが、奈緒が振り出しに戻した。私はどうしようと悩んでいると、
「まあ、隠し事の一つや二つあるよね、追求するのは好きじゃないんだけど…でも、なんだろ、空って隠し事とかそんなのしないタイプだって、あたし、どこかで決めつけてたみたいでさ、だから気になっちゃって。ごめん」
奈緒はパソコンに向かっていた体をこちらに向けて、前髪から覗く眉をハの字にして、しょぼんとした様子で俯いていた。
「奈緒…いや、こっちこそ黙ったまんまでごめん、隠し事…というか、なんか色々考え込んじゃってさ、でも、喋れないというか、自分の中の問題だから、しっかり自分で考えないとって思ってて、ごめんね」
起き上がってそう言い、まだ落ち込んだままの奈緒の頭に手を置いて、とりあえず撫でておいた。奈緒にそんなふうに考えさせてしまって申し訳なかった。そんな気持ちで頭を撫でた。
「ふは、空って女子の落とし方知ってるでしょ、絶対」
奈緒はそう言って照れ笑いした顔を上げて、私の手首を掴んみやんわり払った。
「何それ、意味わかんない」
「わかんなくていーよ、空はそのまんまで十分、相談ならいつでものるからね」
「うん、ありがと」
奈緒は私の返事に満足したようでパソコンに再び向き合った。
奈緒の背中を見つめながら、友情と恋愛の違いをまた考え始めた。けど、奈緒は私にとって大切な存在であることには変わりない。「好き」だもの。でも、この「好き」はどういう意味なのか、まだ曖昧なのだ。奈緒の背中に穴が開くんじゃないかと言うほど見つめて、瞼が落ちてきて、
いつの間にか横に倒れて、
いつの間にか寝ていた。
「…あ、空寝ちゃった。やばっもう3時過ぎてんじゃん!」
「グゥー」
「はぁ、あたしも寝たいよ〜」




