普通じゃない!
欠伸をしたくなるような青空。地獄の門が開き、裂け目から古の悪魔たちが飛び出してくる。
「玄関の鍵は開けといたかいの?」
「ちゃんと開けてるよじいちゃん」
じいちゃんと縁側で日向ぼっこをしながら、そんな話をしていると、向いの通りで双頭の魔犬に体を押さえつけられ頭をもがれる男子高校生を見てしまう。
「見たのか?」
「うん。見ちゃった」
「えんがちょしてやる」
私は両手の人差し指をくっつけてじいちゃんの前に差し出す。
「え~んがちょッ!」
じいちゃんは私がくっつけた人差し指の間を手刀でスパンと切ってくれる。これで死んじゃった男子高校生の幽霊が私にまとわりつくこともない。
「ありがとうじいちゃん」
「孫のためじゃもの」
広げた両翼でカツカツヒールを鳴らしながら逃げまどうOLをヴァンパイアが捕獲する。でもヴァンパイアはOLの首筋に牙を突き立てる前にOLを解放してしまう。OLはアラフォーだったのだ。
「かわいそうにの」
「高齢化進んでるからしょうがないよじいちゃん」
「そろそろかの?」
「うん。そろそろだね」
私はプレイステーションを取り出しホラーゲームの傑作『バイオハザード』をセットする。同時に、ガラガラガラと玄関が開かれる。
「来たみたい!」
「そうじゃの」
ずるずるぴちゃぴちゃとナニか濡れたものを引き摺るような音が近づいてくる。私とじいちゃんはそれだけでもうわくわくしてしまう。
「お邪魔します」
「うわー! 久しぶりー!」
「久しぶりじゃの」
「お久しぶりです」
「早く早く! 時間ないんだから!」
「ええ」
私はぐっちょりとした感触も気にせず彼女の手を取りテレビの前に座らせる。
「確か前回は……」
「ウェスカーが裏切ったところからだよ!」
「そうでしたね」
「がんばるんじゃよ。ショットガンの弾は補充しておいたからの」
「ありがとうございます」
酸っぱい臭いが鼻を衝くけど、私もじいちゃんも気にしない。気象庁によれば「地獄門閉門予定時刻は17:00」。彼女と過ごせる時間は限られているんだから。