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檻《CAGE》〜警視庁超心理現象犯罪特別捜査班〜  作者: kinoe
FILE.1「紅蓮の業火と彼岸花の涙」
9/13

種火3

火災が起きる前、アパートの一室に男達が集まっていた。

最初は些細な出来事だった。

だが、それが全ての始まりでもあった。

「オメェ…マジで言ってんのか?」

間取り1Kのアパートに、わざとドスを効かせた安っぽい言葉が響く。

声の主は、アパートの窓側に置かれた二人がけのソファーに腰を据え、目の前の人物を睨んだ。

二人共まだ若い…二十代前半か、ひょっとするとまだ十代のようにも見受けられる。


「ああ、俺は抜けるよ。クスリやるなんて話聞いてねぇしな…」

部屋の真ん中に立ちつくした人物が、ソファーに座る男と対峙していた。

感情をむき出しにした相手に相反し、落ち着いてるように見える。


「あぁっ!?かおる、お前今更カッコつけてんじゃねぇよ!」

「ぎゃーぎゃー騒ぐな。ガキじゃあるまいし、俺一人グループから抜けたところで何の問題もないだろうが。」

「何ィッ!?」

「じゃあな、まぁせいぜい捕まらねぇように気をつけるんだな。」

馨と呼ばれた人物は、そう言うと、アパートの玄関へ向けて歩いていく。


ーーが、


「お待たせぇ〜」

馨が玄関を開ける前に扉が開き、ぞろぞろと3人の男が入ってくる。


「おう、おせぇーぞ!お前らぁ。」

「ゴメンゴメン、例のヤツ持ってくるのに手間取ってさぁ」

「そうそう、危なくマッポに職質されるところだったんだぜ?」

「ギャハハッ!今更『マッポ』とか言うか?フツー。」

「…あれ?馨、お前何処行くつもりなの?」

部屋に入って来た3人のうち、1人が玄関へ向かっていた馨に気付き声を掛ける。


「チッ、帰るんだよ!そこ退け。」

馨の表情が一転、眉間に皺を寄せ曇る。

一対一の状況から、前後を挟まれ四対一となった途端に、部屋の空気が変わったのを感じる。


「カッチーン、俺、怒っちゃったー。何?その反抗的な態度。」

ふざけた調子で口を動かしていた男が、馨を睨む。


「馨の奴、抜けるんだとよぉ!」

ソファーの男が、全員に聞こえるように大きな声で叫んだ。


「マジで?馨く〜ん、抜けられると思ってんの?」

「そりゃないよー、今まで一緒にやってきたジャーン。」

残りの男が矢継ぎ早に語りかける。


「最近のお前ら、やり過ぎなんだよ。」馨が続ける。

「どうしちまったんだよ…昔はただ馬鹿やって騒いでただけなのに、最近…俺の知らないところで、変な奴らと一緒に犯罪まがいの事やってんだろ!?」

「…何勘違いしてんだよ?」

馨の背後からリーダー格の男が呼び掛ける。


「何が違うんだ?」

呼びかけに応えるように、馨は振り返りソファーの男を睨んだ。


「さっき自分で言ってただろう?俺たちはガキじゃねぇんだ。いつまでもしょうもない遊びやっても仕方ねぇだろう?」

「はぁ?」

「やるなら、こう刺激的でよぉ、非日常を味わえる事をヤンなきゃなぁ?」

「おい!アレこっちに寄越せ!」

ソファーの男が玄関にたむろしていた男達に呼び掛ける。


「はいよー」

応じた1人が何かを投げる。

それを、ソファーの男が受け取り、馨に見せつけるようにゆっくりと持ち上げた。


「それが新しい遊びかよ?」

馨が見ると小さい赤い半透明のビニール袋…いわゆるパケットに入れられた錠剤だった。

誰がどう見ても、適法な錠剤でない事は明らかだった。


「Heaven's Gate」

「何?」

「ヘヴンズゲェートォ、こいつの名前だよぉ…カカッ」

パケットを手にした途端、男は上機嫌になる。

その異常さに、馨は身震いした。


「あっそうだぁ!」

そう言うと、男は何かを思いついたのか、馨をその視線に見据え、下品に笑う。


「おいっ、押さえろ。」

男が命令すると、馨の背後から別の男達が羽交い締めにしてきた。


「!?」

「やめろッ!離せッこの野郎!!」

馨は力任せに身体を動かすが、その拘束を解ける気配は無かった。

馨は視線を前に向け、男を睨む。


「オメェが抜けたいとか抜かすから…」

言いながら男が馨に近づく。


「いけねぇん…だッよッ!!」

そして、馨の腹部にボディーブローを叩き込んだ。


「ゲェッ!?」

その衝撃に馨の身体がくの字に曲がる。

せり上がる吐き気、口に広がる酸味が胃液の逆流を知らせる。

悶絶した馨は、腹を両手で抱えながら床に倒れこんだ。


「ゲホッゲホッ…」

「だから〜、特別にこいつをやるよ。」

男達は、床に倒れた馨を仰向けにすると、頭を押さえ、無理やり口を広げる。

コンビニの袋からペットボトルが取り出された。


「はい、あーん」

「やめッ!」

白い錠剤が5粒、馨の口に放り込まれる。

馨は、鼻をつままれた状態で、ペットボトルの水を無理やり飲まされた。


息がッ…


馨は、反射的に口の異物を呑み込んでしまう。

その様子を見た男達は、馨を解放し、下卑た笑みを浮かべた。


「おーおー、馨君一番乗りじゃん?」

「どうだー味は?気分は?」

「最高だろうなぁ?」

「「ギャハハッ」」

笑い声が重なる。


ドクンッ


「ッ!?」

馨は心音が高く、激しくなるのを感じた。


かっ身体が…熱いッ!?


「ガァァッ!」

「おっ?馨の奴、チョー喜んでんじゃん。」

「あっ!?このクスリ…そう言えば一回一錠だった。」

1人が思い出したように言う。

「マジかよ〜過剰摂取じゃん?」

「何難しい言葉使ってんだよお前。」

「じゃあ俺たちは用法用量を正しく守りますかね〜」

男達はそんな会話を続けながら錠剤を一粒ずつ呑み込んだ。


「クゥッ…ウウッ」

馨が呻く。


「やっぱ飲み過ぎだったんじゃね?」

「それで、こんなにヨガってんのか?」

「お、そう言えば俺、そっち系に興味あんだよね〜」

別の男が、そんな事を言い出し、ベルトを緩め始めた。


「おいおい…マジかオメェ?」

「ギャハハッ!こいつ変態じゃねぇか!」

「いや、ほらこいつよく見ると顔可愛い系じゃねぇ?」

その男が、馨の上に覆い被さると、馨のズボンを脱がし始める。


ヤメろッ!

俺に触るなッ!


混濁する意識の中、馨は抗議の声を上げようとするが、言葉が上手く出せない。

代わりに、走馬灯のように今までの嫌な思い出が頭を駆け巡る。


何で…俺が、こんなッ!


「あれッ?おいおい…もしかして、馨ちゃん!マジかよ!?ラッキー!」

「嘘だろ!?マジかよー。」

「次俺!俺な!」

男達が何かに色めき立つ。

苦しむ馨に好色めいた視線を向ける。


馨が何度か見た…

一番嫌いな視線だった。



もう嫌だ…


全部…全部燃えてしまえばいいのに。


そうだ、そうだよ…


全部燃やしてしまえばいいんだ!


面倒くさい学校も、

理不尽な社会も、

俺を蔑む奴も、

哀れみの目で見る奴も、


全部、全部だ!


目の前の…此奴らもッ!!


燃えろ…


燃えろ…燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉぉーッ!!!


馨の魂の叫びが自身の体の中に響く。

まるで、自分の力を、想いを…


心の檻《CAGE》


から解き放つように…。



「…燃えてしまえ。」

ボソッと馨が言葉を放つ。


「あっ?何か言ーーアヒッ!?」

そこまで言って、馨に覆い被さっていた男は、意識を失う。

いや、正確には頭部が炎に覆われていた。

急激に酸素を奪われ、脳へ酸素が届かなくなったのだろう。

とはいえ、それを認識するまでもなく、男は直ぐに絶命していた。


「うわっ!?何だよ!?コレぇ?」

「み、水をーーぎゃあいああッ!?」

一人、二人と炎につつまれる。


「に、逃げ…グワァァッ!?あぁ……」

後から入ってきた男達が次々と炎につつまれ、一瞬のうちに消し炭と化した。


「何なんだよッ!?」

驚愕する男が、思わず後ろに歩みを進める。


「!?」

すると、最初に座っていたソファーに足を取られ、またそこに腰を落としてしまった。

喉が急に乾き出す。

両腕は指先まで震え、両脚は力が入らなくなっていた。

視線を上げると、さっきまで悶絶し倒れていた馨が立ち尽くしていた。


「ああっ!?スマン!謝る。謝るから、な?」

「お前らみたいな…社会のゴミは全て燃やせばいい…」

馨が静かに言葉を紡ぎ出す。

何かに操られる様に。


「ヒィッな、何を…ッ!?」


馨の頭に直接語りかけるように何者かの声が響いていた。


心ヲ解放シロ…


天使ツカイリル

現世ウツシヨ幽世カクリヨ狭間ハザマ二…


ソノムサボリ、

ソノササゲ、

ワレモトメヨ…

シュは、タネハラミ、

ケイジヒラカレル。


「力が欲しい…全てが憎い…何もかもがッ!」

馨が歯軋りを立て、心の声に応じる。


ソラヘノミチシメサレタ。


其方ソナタハ、カミ代弁者ダイベンシャ…。

チカラハ、憤怒フンヌホノオナリ…。


紅蓮グレン業火ゴウカマトイテ、


スベテヲ…ヤセッ


「俺の炎は、紅蓮の業火…」


心が俺に訴える。

燃やせ…燃やし尽くせとッ!


馨の右眼が、ブラウンから濃い鮮紅色に変わる。

部屋が軋み、壁紙が燃え始める。

部屋を照らしていた電球は悲鳴をあげ、容易に融解するが、アパートの一室は、それまで以上に明るく熱い光を放っていた。


「!?」

「い、嫌だ…」

男は自分の指がボコボコと水膨れていくのを認識すると、弱々しく声を発する。

身体の水分が沸騰し始めていた。


「嫌だッ!まだ死にたくーー」

「お前が犯した罪を、業を、その身に受けろぉッ!!」

馨の叫びとともに、炎が膨れ上がる。

男はその全身を真っ赤な炎に呑み込まれ、物言わぬ炭の塊となった…。



※※※※※※


気がつくと、馨はいつの間にか、屋外に出ていた。

ふらふらと酷い頭痛に悩まされながら…。


「クッ、さっきのは…一体?」

何があったのか?はっきりと思い出せない。

アパートを見ると、2階から炎があがっている。


綺麗だな


と思った。


そして、薄れゆく意識の中、

「おいっ!にいちゃん大丈夫かっ!?」

自身に駆け寄る中年男性を認めると、馨はそのまま力尽きた。


「誰かッ!救急車ーー」

次回予告!


病院に向かう車内、助手席で蓬が寝ていた。

野守は思う。

「あれ?もしかしてチャンスなんじゃ?」

先刻、チラリと見えた蓬の素顔、それを確認する絶好のチャンスであった。


( @ω@)スヤァ ...


ゴクリッ

野守は喉を鳴らし、恐る恐る蓬の眼鏡を外した。


( 3з3)スヤァ ...


って、目も口も3じゃねぇかよッ!


そんなこんなで病院に到着した野守と蓬。

看護師と一悶着あった後、なんとかお目当ての部屋にたどり着く。

そこにいたのは…

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