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檻《CAGE》〜警視庁超心理現象犯罪特別捜査班〜  作者: kinoe
FILE.0「警視庁超心理現象犯罪特別捜査班」
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二人だけの特別捜査班3

「ようこそ超心理現象犯罪特別捜査班チョウシンへ。野守影鏡部長殿?」


ピ○○君の中から現れた女が、俺に向かって話しかけていた。


「あんたは一体?」

「「何でーー」」

「何で俺の名を、かな?」


質問を、言葉を目の前の女に盗まれる。

それだけで、その場の主導権を握られてしまった。


「うむ、その質問は尤もだ。想定していたよ。」


女が話を続ける。


「見知らぬ部署に左遷とばされて、見知らぬ部屋で、名も知らぬ女に考えを読まれ、そいつが自分の名前を知っているんだ。居心地が悪いだろう?」


そう問いかけながら、女はモゾモゾとピ○○君からの脱出を試みている。

そして、俺の回答を待たずに、話を一方的に展開する。


「知らない」

「分らない」

「判らない」

「解らない」

「人間は自分がワカラナイことをどうにかして理解しようとする生き物だ。何故?そう……怖いからさ、恐怖心が生存本能に訴えて来るんだ。目の前の怪を解き明かせとね。だから今の現状を把握しようとして、目の前の人物が何者なのかを特定する質問が出るんだ。そうだろう?」

「な……」

「ん〜野守君、君は幽霊、超能力という存在を信じるか?」


……


少し間があく。

どうやら目の前の女は、今回は回答を求めているようだった。


「いや、俺はそういうオカルトみたいなのは……」

「信じていない……か?」

「ああ、自分で見たものしか信じない主義でね。」

「ふむ、可笑しい……いや、奇怪しいな。」

「何が?」


少しイラついているのが、自分でも分かった。

女は相変わらずモゾモゾとしているが、一向に脱出出来ていない。

何なんだこいつは?

何が言いたい?


「君は、先程の現象に恐怖を抱いただろう?」

「ッ!?」

「図星のようだね。ああ、気を悪くしたのであれば謝るよ。」

「あれは、目の前で起こる奇怪な現象に、君がどう対応するか確認するためのものだ。」


女がピ○○君の腕を俺の目の前に持ってくる。

着ぐるみの中で指でも指しているのだろうか?


「君は、まず正面玄関で下駄箱の様子を確認した。靴があれば誰かいるかもしれないからね。靴が一足もないことを確認すると、ある程度君の中で『この建物には誰もいないのではないか?』という仮説が立てられる。そして、一通り一階の状況を確認して、人気がないことを確認すると、君は二階に足を向けた。」

「そこで、これだ。」


何処から出したのか、女がそう言いながらピ○○君の右手に載せられたスイッチ盤の赤いボタンを押下する。


”クスクス”


すると、部屋中に笑い声が響いた。


あの笑い声の正体はこれかよ……


「笑い声が聞こえた君は、後ろを振り返るが、特に何も無いのを確認すると、二階の様子を確認して、この部屋に来る訳だ。」

「部屋を開ける。挨拶に応答はない。これでさらに君の中で『誰もいない』という仮説が確証を得ていく。」

「まず部屋の状況を客観的に観察する。素晴らしいね。警察官の鏡だよ。右側はパーテーションで区切られて容易に確認できないから君はまず、中央と左側を確認する。そして、不自然に設置されたこの着ぐるみを確認した。」

「そうだ。あの時は誰も居なかったはずだ。あんたいつの間に……」


俺の言葉を遮るように女はチッチッチと着ぐるみの腕を振った。


「本当に確認したかい?君は頭の部分を確認したに過ぎない。私はその時からこの中にいたさ。」


そう言われれば、確かに俺は頭を外しただけだ。

中まで覗いてはいない。

何も無いとたかをくくっていた。


「その後。君はパーテーションの向こう側を確認する。事務机には荷物がない。つまり、まだ自分以外の人物が出勤していないという確証を得る訳だ。」

「その間に私はソファーを移動する。音を立てないようするのに苦労したよ。これで準備完了さ。後は『誰もいないはず』という君の考えをぶち壊してやればいい。」

「何で?どうして?と君の脳は混乱を起こす。」


女はスイッチ盤を再度持ち出す、


「さもない仕掛けも」

部屋の小物が鳴る。


「ちょっとした振動も」

窓枠や備品が揺れる。


「ただのワイヤーアクションだって」

見るとピ○○君と天井が細いワイヤーで繋がれていた。


「怪奇現象を演出する材料になり得るんだ。今見れば何でもない事に、君は恐怖を抱き、身構えたんだ。」

「それは、君が目の前で起こる奇怪で、不思議な現象を認めたという事じゃないかな?」


……


「はぁ……」

俺は頭を片手で押さえ、溜息をついた。


「ええ、ええ、そうですとも。確かに俺は気味が悪いなと思いました!そういうやつかなという疑いも持ちました!」

「でしょ〜?」


女は嬉しそうにニヤついた。

見ると、着ぐるみを着ていたせいか、髪がボサついて人相はよくわからない。


「それで、あんたは何者なの?」

近くのソファーに腰を落ち着け、目の前の女に問いかけた。

雰囲気からして、まだ二十代前半といったところだろうか?

新人か?

確かに厄介そうな人物だ。

こいつも飛ばされてきたんだろうな。


「私は雨谷あまたによもぎ、年齢は23歳、独身だ。ここ超心理現象犯罪特別捜査班の捜査員でもある。」

「よっ、ほっ、ていっ」


雨谷蓬と名乗った女は、そう言って、ようやっと着ぐるみから脱出する。


上衣は白のTシャツ

下衣は布製のショートパンツでインナーが薄っすらとって…


「っておい!めちゃくちゃ薄着じゃねぇかよ!?」

慌てて目を背ける。


「ん?何を言ってるんだ君は。着ぐるみの中で厚着する人間がいたら、どうかしてるだろう?」

「いや、確かにそうだが……」

衣擦れの音が背後から聞こえた。

少しは恥じらいってもんをだなぁ……


「よしっ!もう大丈夫だ。こっちを向きたまえ。」

言われて振り返ると、雨谷蓬が腰に手を当て仁王立ちしていた。


頭髪はボサボサのミディアムヘアー

相変わらず人相はハッキリしないが、先程と違い、赤縁の眼鏡をかけている。

身長は女性にしては高めの165センチくらいだろうか?

体型は……わからない。

いや見えないといった方が正しいだろうか?

先程とはうって変わって、足元まである白衣で身体がすっぽり覆われている。


何故に白衣?

という疑問が浮かんだが、また返されそうなので黙っておく。


「で、お嬢さん以外の他の方々は?」

「ん?」

「いやいや、ん?じゃなくて……ここの部署のトップの人とか、他の階級の人とかいるでしょ?」

「ああ!?そう言えば言ってなかったな。」

「そうだろう?そもそも、俺も一応巡査部長だから君の上ーー」

「私が君の上司になる超心理現象犯罪特別捜査班の班長だ。」

雨谷蓬は、えっへんといった感じで胸を張った。

は?今、此奴は何て言ったんだ?

俺の聞き間違いかも知れない……そうだ!そうに違いない!



「えっ?いやいや、また騙くらかそうとしてるだろう?そんな若いのに俺の上司のはずが……」

「全く、君は本当に自分で見たもの、聞いたものしか信じないんだな。ちょっと待ってくれ」

雨谷蓬は、そう言うと、一番上座に位置する事務机の引き出しを開け、ガサゴソと漁り始める。


「えーと、何処にしまったかな?」

はにわ

水晶

わら人形…

引き出しから次々とガラクタを引っ張り出し、放り投げてくる。

ドラ○もんかお前の引き出しは。


「おいあんまり散らかすなよって、あ痛っ」

頭に何かが当たる。


「いつつ……一体何だって、うわっ!?」

思わず飛び退く。

頭蓋骨だった。

人間のではなさそうだが…


「あーあったあった!」

ようやく目的のものを見つけたのか、ソレを持って雨谷蓬はこちらに近づく。


「ホイッ」

そして、こちらに茶色い長方形の革ケースを投げて寄越した。


おいおい、嘘だろう?


その形状だけで、おおよその見当がつく。

いや間違いない、これは…


俺は、恐る恐る二つ折りの革ケースを開いた。


金色に光る真性の警察紋章

蓋側には、見たこともない絶世の美女の写真。

その下に階級と使命が記されていた。


警視庁警部

雨谷蓬


「まじか……」

「まじデス。」

「本当に?」

「本当の本当デス。」

俺は写真の人物と目の前の人物を見比べる。


「この人は?」

「何を、目の前にいるじゃないか?」

雨谷蓬は自分を指差す。

二度見、三度見するが、出てきた答えは――

全然別人じゃねぇか……


「ま、そう言うことで…」

雨谷蓬がソファーに座ったまま呆然とする俺に近づく。


「これからヨロシク〜」

俺の肩にポンっと手を置いて出入り口に向かって行った。


パタンッ


俺は雨谷蓬が扉から出て行くのを依然呆然としたまま見送っていた。



……




キィ…

呆然と扉に視線を向けていたところ、再度扉が開かれ蓬が顔を覗かせた。


「あ、そうそう言い忘れてたけど、ここの部署、私達二人だけだから、そこんとこもヨロシク〜」


パタンッ



「……了解です。」

俺は力なく扉に敬礼をしていたのであった。

次回予告!


警察手帳の写真を見た後、野守は、雨谷が着ぐるみから出てくる時、何故、目を逸らしてしまったのだと後から後悔した。

そして、彼は気づいてしまう。

「あれ、着ぐるみは脱ぎたてなんじゃね?」と

入ろうか?

辞めようか?

そんな思いが彼の頭を巡る。

そして、着ぐるみに手をかけた時ーー


ガチャ


「おや?まだそこにいたのか。ん?着ぐるみに興味でも?」


雨谷が戻って来た。


「うおーっチィ、と、そうなんだよねー、このスイッチ盤とかどうなってんだろうって気になってサー」

「ふむ、それは各ボタンがそれぞれの仕掛けに対応してるんだ。」

「これを押せば、こう、それを押せば、そう、という風にね。」

「あーこれで、『ねぇ…ワタシハココニイル』って音声を出した訳ね!」

「ん?何だいその台詞は?」

「えっ?何って…俺が椅子に座った時に流しただろう?」

「そんな具体的な台詞は流してないよ。あらかじめそんな具体的に設定したら、シーンが限定されてしまうじゃないか。」

「疲れてるんじゃないかい?いや…もしかしたら幽霊かも…」

「あっ、野守選手の腕の鳥肌立ってる。」

「寒いならキャンプファイヤーでもやろうか?ぷぷぷっ」


雨谷が右手を口に当てて笑いをこらえていた。


俺はその日…一人でトイレに行けない人の気持ちが分かったのであった。

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