81:アレを使おう
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
俺達は西へ歩く事二時間、小さな地下空洞を見つけ休憩中である。
「はぁ、はぁ」
「遊多さん、ちょっと体力落ちてませんか」
「いや、砂漠を渡るのってこんなにキツイんだな」
砂漠の移動は川に流されるのが一度、後はタマコの背に乗って飛行移動のみだったので、初めて砂漠地帯を徒歩で移動したわけだがこれがキツイ。
温度調整の為に火の操作を維持する事は勿論、砂が口や目に入らないようにフードを深く被る必要があるのだ。視界が悪く、精神力もじりじり消費する中、この長時間の移動なのだ。正直砂漠をなめていた俺である。
「ぷはー、生き返るわー」
「そう、ですね」
地下空洞には飲み水があり、その水たまり場で俺とサーモは休憩をとっている。と、サーモが俺の膝の上に乗っかって背を向けたまま俺に話しかける。
「遊多さんは、す、すす、好きな人っているんですか……?」
「ん、突然どうしたよ」
「考える余裕がなかったな、そんな事……。サーモはいるのか?」
「いますよ」
年下の女の子は即答する。そういえば、出会った当初より口調が柔らかくなっているような。そしてこの場面でこの返答って事はもしや……。
「あぅ」
俺はそっと後ろからサーモの体を支えると、小さな恥じらいに似た声が漏れる。
「そ、その……遊多さん、モロを必ず助けましょうね」
「お、応。勿論だ」
「私も、危なくなったら最優先で守って?」
「はは、俺の方が守られてばかりだけどな」
少し間をあけ、俺は続ける。
「必ず守ってやる」
「うん」
俺はサーモに小声だが、十分にその言葉が届く距離で返答する。
『ああ、こういう時だからこそ思いつくのかな……』
「なぁ、こんな会話した直後で言うのもアレなんだが、少しの間俺を守っててくれないかな」
「遊多さん?」
「いや、そのあれだ。ギルド書庫に繋がってるツリィムに没入してこようと思う」
ほんの少しの間をあけて、サーモはクスリと笑いわかりました、と返答してくれた。
「早く戻ってきてくださいね」
「勿論だ。いってくる」
「はい」
サーモが俺の膝から退き、俺は書物に火の操作を注ぎ込む。
『没入』
俺の意識はここで途絶える。