70:Ⅷ騎士-11-
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
黒い火の塊がその姿を徐々に姿を現す。
「あん、あいつ使ってるのは火なのかい? まさかね、ここは精霊世界だしあんな黒いのは……」
モロの頭を鷲掴みにしながらそんな事をいうプルム、だったか。
「プルム、あいつ本当にヤバイかもしれない」
「あん、あんなガキ一人なんとかしなさいよ」
モロを突き放し、モロは大きく後退してそのまま倒れ込む。
『今だな』
頭の中では怒りの感情が渦巻いているが、反して俺の行動は冷静である。目の前に生成した黒い火の塊に手を突っ込み、俺はソレを引き抜く。
ーー瞬間
「ファイアウォール」
俺はよく見知ったスペルを唱える。その詠唱が終わると同時にソレは発現する。
「うわっ、な、にこ、れ」
モロとプルムの間に生まれた空間に俺は火の壁を生成する、これは……。
「ファイアウォールさ、火力はないけどデバフが有効なんだよな」
解説を加えると、途端ソレは幅を増しプルムを包み込む。
「移動速度減少・更に継続ダメージ。また、突破は効果が消えるまで不可だ」
「う、ぐ」
更にファイアウォールに包まれたプルムが苦しそうに顔をゆがめる。
「ワズ、何とかしなさいっ」
「わかってる」
短く返答するワズは土の操作でプルムの体を丸々覆う倉を生み出すが、それならそれだ。
「ファイアピラー」
更にスペルを追加で唱える。と、同時に今度はワズの体に火柱が被さり包み込む。
「一点集中型の設置魔法だな、火力が高いが使い難いんだよな」
俺の言葉に反応してか、火柱の火力がゴウッと強さを増す。
「あ、ぅ」
土の操作に失敗したためか、プルムを覆った倉が瞬間的に砕け散り、再びファイアーウォールの中で身動きできず苦しみだすプルム。そしてワズというと……。
「高火力の設置魔法・対象は瞬間的に高ダメージとスタンの効果。スタンレベルは勿論マックスだ」
ファイアピラーに包まれたワズは土の精霊である、火との相性は抜群に良いはずの彼女がその場で膝をつく。ファイアピラーは一瞬でワズを包み込み、1秒もしないで霧散する。
「次は……」
俺が再び詠唱をしようと試みるも、ワズとプルムが反撃に転じる。
「このガキがぁ」
「痛い、です」
プルムが放った謎の液体がワズの体に降りかかり、ワズは瞬時に回復。未だにプルムは身動きが自由に取れないようでその場に止まるも、ワズが今度はプルムの足場に土柱を生み出しファイアウォールの範囲外へと移動させる。
刹那
二人のコンビネーションがあわさり、俺の背後に土壁が生成され、上空から謎の液体が入った瓶を投擲。俺は完全に回避コースを妨げられ、その液体を浴びるしかない状態となっていた。が、その時は決して訪れない。
「ファイアアロー」
俺はその飛来する瓶全てを対象に火矢を射出する。
「対象へのオートロック・貫通ダメージ」
俺の言葉が終わると同時に飛来する瓶の数だけファイアアローが生成され、その全てを貫き空中で爆散させる。
「ファイアストーム」
「敵全体へ火の小ダメージ。デバフは魔力抵抗減少」
火の粒が風に乗り相手の体をちりじりに炙っていく。勿論、高い位置に陣取ったプルムもである。
「ちっ、何なんだいあのガキは」
「だからよそうって……」
二人が何か喋っているが関係ない。排除するだけである。
「これで終わりな、クリムゾンフレア」
体がフワリと軽くなり、俺自身気づかず膝をついていたようだが関係ない。俺は言霊をのせる。
「ターゲットに超火力ダメージ。爆せよ」
小さな悲鳴が二つ聞こえるが、これで終わった。黒こげになった対象二人は沈黙、俺は急いでモロの元へ行こうとするが走れるだけの力が膝に入らない。
「モロ、待ってろ」
倒れる二人を無視して、俺はモロの元までたどり着くとそっと抱き起す。
「ゆう、た……」
虚ろな目から、モロが間違いなく重傷だと判断する。こういう時は……。
『癒しの方法がわからない、しかしこれなら』
俺は黒い火へ再び手を突っ込み、詠唱をする。
「フェニックス」
「癒しの力を、モロを助けてくれ」
俺の言霊が豪炎にのり、それは起こる。
「モーロー」
アクセサリーショップ『シャン』が爆散し、そら高く舞い上がる火の鳥。その名は……。
「はは、ははは」
俺は思わず渇き笑いが出る。それはほんの少しだけ、共に旅をした見知った姿だったのだから。
「今すぐ、助けるよ!」
その火の鳥、タマコは姿に似合わず知った声色で俺達全てを癒しの力で包み込むのだった。
癒しの力で包み込まれる少し前の話。
「タマコ、私はいいから……」
「センチ辛そう、私が守ってあげるから」
「……ふっ」
「何で笑うの!?」
「コカリリスに守られるなんて、何だか面白くて……」
「何でそんな事いうかなぁ、センチが一番今危ないんだから」
「そうね、もう意識もいつまで保てるか」
「あ、あ、あ、、あ、あ、、、、あ、、」
「え、タマコ? どうしたの」
「ど、どいてー!」
「えっ!? きゃっ」
タマコがセンチを突き放し、センチは机の角に後頭部をクリーンヒットさせ意識を失う。そして同時にタマコの体は燃え上がり、体の面積を広げ空高く舞い上がるのであった。
薄れゆく意識の中、センチは思う。
『ああ、頭痛い』