62:Ⅷ騎士-4-
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
「ご馳走様でした」
俺が手を合わせ、完食するも先に食べだした皆は未だに口をもぐもぐさせていた。
『この世界っていただきますも、ご馳走様もないんだな』
ふとそんな事を思い、地球での生活が恋しくなってしまう。
「深浦さん食べるの早いですね、はむはむ」
サーモが赤くて小さな果実が詰まった宝石サンドを頬張り、頬に手をあてながらうっとりしつつ話す。
「この後は、このお店に行きたいんだけどどうかな?」
ガイドブックに記されたお店にはアクセサリーが置かれた店内が書き記されている。
「俺は別にいいけど、皆も良いかな?」
全員に確認すると、異論は特に出なかったのでそのお店へと向かう事にする。
「おーけーおーけ、俺も一人じゃそういう店入りにくいからなー」
そして一人、タマコの隣に座り合意する赤の他人さんが相槌をうつ。
「パリイさん? お仕事中ですよね」
「気にするなよ少年、実は今日暇なんだ。とっても暇なんだ。だから連れてけ、な?」
「パリイさんもアクセサリー好きなんですか?」
そんな会話をしていると、サーモが食いついてくる。
「ああ、俺もアクセサリーって好きなんだよな。輝きがたまらん」
「こんなところにも趣味の会う人がっ」
目を輝かせながら、残りのサンドを急いでかきこむサーモ。途中喉を詰まらせてタマコの注文した水を貰い流し込んでいた。
何故どうしてこうなった。パリイという男性と共にアクセサリーショップ『シャン』へと向かう事となる。
「そういや少年、名前を聞いてなかったよな。何て呼べばいい?」
センチがじっくりとタマゴサンドを味わっているので、その間に俺達は紹介を簡単にすます。
「そうかそうか、深浦か。宜しくな!」
「パリイさんって一体何者なんですか」
このお店で働いているのだろうが、この自由っぷりは何かあると察する俺。
「んー、お前たちが気になるんだよ余所者君」
「余所者に手厳しいなこの都は」
「それが俺の本当の仕事なんでな」
何か含みのある言葉を残して、俺達の会話は終わる。
「お待たせしました皆さん」
会話が終わってすぐに、センチも食事を終えたので店を後にする。サーモとパリイが先頭を、その後を俺とモロ、更に後ろをセンチとタマコがついてきている。
「パリイさんはどんな……」
サーモは宝石トークを展開し、パリイがしどろもどろに受け答えをしている。そして数分もしない内に目的の店に到着する。
「わぁ!」
ダッシュで店内に駆け込むサーモ。とても必死です。
「あのお嬢ちゃんは元気だねぇ」
パリイがやや顔が引きつらせて俺達の方へと向かってくる。
「さて、女性陣は店内にでも行った行った、俺達はここで待ってるからさ」
パリイはそういい、俺の肩に手をまわしモロとセンチ、タマコを店に誘導する。そして女性陣が皆店内に入るのを確認した瞬間から空気が凍り付く。
「さて深浦君、聞きたいことがあるんだがいいかな」
言葉通り、パリイの触れる俺の肩が氷漬けになっている。この熱い砂漠の大陸で、そして火の制御によって守られている体にも関わらず。
「あんた、本当に何者なんだよ……」
俺は火の制御により氷をレジストし、肩に触れている手を振り払う。
「おお、俺の氷制御を弾けるとは大したものだ。改めて自己紹介をしよう」
首にかけていた双剣のアクセサリーを手に取り、パリイは一礼をする。
「私は双剣のパリイ、Ⅷ騎士の一人だ。そして君はあのコカリリスの上にいた人物で間違いないよね深浦君」
握りしめたアクセサリーから氷の塊が生成され、そのままショートソードを形どる。パキッと音をたてたそれは、二つに割れ両手持ちとなる。
「君たちの目的が知りたい。まさか本当にアクセサリーを買いに来ただけではないのだろう?」
「待って、待ってって!」
俺は慌てる、Ⅷ騎士の一人が自分から会いに来てくれるとは。
「俺達の目的の一つに、貴方達に会う事があるんですよ!」
「ほう、俺達Ⅷ騎士に用事があると。俺はやさしいからな、聞いてやろう」
「その、この都に厄災が訪れるって神託を授かっているんです俺達。その厄災を防ぐために貴方達の力を借りたいのです。ギルドよりも頼れるってライラ様に教えられたので」
「はっはっ、面白い事をいう。厄災なんぞⅧ騎士がいるこの都には縁が無い話だな。それよりもよっぽどお前たちを排除したほうが安全だと俺は思うんだがな」
「そんな、俺達は」
パリイと会話をしていると、突如遠くで爆音が響く。
「うわっ今度は何だよっ」
俺は爆発音が聞こえた辺りを遠目に見ると、170cm程の中肉中背な黒服男が3人組に向かって火球を連射しているところであった。
「あのバカ、またやってやがる。深浦、ちょっと俺はあっちを先に解決してくる」
そういい、ダッシュで黒服男の元へと駆けるパリイ。が、せっかくⅧ騎士の一人と出会えたのである、俺もパリイの横につき一緒に駆ける。
「お前、何でついてくんだよ」
「いやパリイさんともうちょっとお話がしたくて」
「むしろ何でこの速度でついてこれんだよ」
「モロさんに鍛えられてますから」
「まぁついてくるならそれでいい、手伝え」
「りょーかいっ」
俺とパリイは駆けながら話を終え、火球を連射している男の背後へととびかかる。
「てめぇはバカかっ!」
そう叫びながら両手に発生させている氷の双剣を頭上から叩きつけるパリイ。
「あぶなーいっ」
俺はパリイが人殺しをするようにみえ、回避させるためにタックルを試みる。
「げふっ」
とは俺の声。背後から迫った俺達を軽くいなすその男は、火の操作を瞬時に展開させ俺のボディに一撃くらわしあらぬ方向へ転がる俺。そしてパリイは。
「バカ野郎、一般人に連射とか危険だろうが」
「何を言う、俺は正義の名の元成敗をだな」
パリイの氷の双剣を指2本で挟み、その剣の軌道を強引に変えてもう一筋の太刀筋に割り込ませていた。
「この単細胞め、あれじゃあいつら病院送りになるだろうが」
「あー……やり過ぎたか、すまん」
俺は転がる途中、タッと地面に両手をつき華麗に態勢を戻す。
「いてて、てかあの二人って知り合いなのかな」
そんな事を一人愚痴りながら、俺は少し遠目に二人のやりとりを聞き続ける。
「それはそうと、昼間っから外に居るなんて珍しいなパリイ」
「お前こそ相変わらず無駄にトラブル起こしやがって、少しは自重しろボルカ」
「で、今度は何があったんだ」
「いやな、あの3人組が実は悪党だったのだよ。話してたんだ、お店の中で『おぬしもわるよのぅ』『お前モナー』『違いないわっはっはっ』て。間違いない、俺は知ったからには悪を放置できんのだよ」
「それな、ただの言葉のあやってやつだから」
そこには正真正銘のバカが一人いたのであった。
「えーと、それってどう聞いても悪党には直結しませんよね」
俺もボルカと呼ばれる黒服男のとこまで近づき、突っ込みを思わず入れていた。
「貴様、何者だ。まさか4人目だ、と!?」
「まてまて、こいつは余所者で非常に怪しいが」
「成敗っ!」
「おまっ、話をきけ」
パリイの双剣を砕き、その氷の刃を俺に投擲してくる。が、今度はしっかりと見極めをつける。
『モロの木の実に比べたら遅い遅い』
そう余裕をもって避けるが。
「はうあっ」
氷の刃は俺の横を通り過ぎる瞬間に、その軌道は無理やり横殴りに操作された火の操作で俺の体へと軌道をかえた。結果、俺の左腕に氷の刃が突き刺さっているのであった。
「これに懲りたら悪から足を洗う事だな少年ヴァ」
対峙していたボルカの横から、パリイが拳骨で言葉を遮る。
「だー、少し待てって。お前何度注意したらわかんだよ。まだこいつが黒だって決まってねーし。あの3人組とは全く関係ないとこだしっ」
「なん、だと」
今更驚きだすボルカ。そして俺は思うんだ。
「あの、滅茶苦茶痛いんだけど……」
俺がボタボタと血が流す中、3人はにらめ合うのだった。




