6:修行はじめました
2015/2/3:文章手直し
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
俺は朝7時ジャストに目を覚ます習慣がついている、ので今は間違いなく朝7時ということになる。朝日が眩しく俺を照らす、という事はなく森の中はひんやりとした空気を俺の体にまとわりつかせていた。
「すぅ、すぅ」
何故か俺の体に覆いかかるように寝ているこの女の子は、俺を助けてくれたモロという少女。自称樹の精霊13歳という事だが、俺はまだこの異世界についての感覚が希薄である。だが、この少女との出会いがなかったら俺は初日で行き倒れていたに違いなく、こんな俺を助けてくれたモロには当然感謝をしている。
「おーい、朝だぞー」
そして、少女との接し方がわかるわけもなく、俺はドギマギしながら控えめに声をかけモロを起こしにかかる。
「朝ごはんの準備しないとなー?」
「すぅ、すぅ」
『お、おきねぇ』
触って揺さってもいいのか、どうなんだろう。こんな場面に出くわしたことがない俺は動揺が止まらない。ましてや朝から少女が覆いかぶさるなんてどうしろと。
「すぅ」
寝息の温かみを感じ、更に目の前の少女を意識してしまう。
『いけない、このままでは非常によくない事態になってしまう』
意を決し、俺はモロの肩を控えめに揺さぶりながら引き続き起こそうと試みる。
「おーい、モロさーん、起きてくれないかなー」
昔やったことがあるゲームではこのような場面が何度かでてきていた。しかし俺はリアルでは無縁だな、という感想と共にネトゲへの世界へとぬめりこんでいったため、本気でこのような場面への抵抗がないのである。
「起きないとちょっとばかし、俺大変なんですけど」
そう、何が大変かは男性の皆ならわかるであろう、寝起きでこの刺激的場面は非常に大変なのである。
「んん、あ、れ、私寝ちゃってたのか」
そう言ってモロは両の手を俺の体にそえ、ぐっと力を乗せ起き上がる。その手のポジションは勘弁してほしかった場所にジャストミートだったのはいわずもがな。
『ぐおっ』
「おはよー、遊多のここって」
「お、おうおはよう、おはようモロ」
そういって俺はモロの肩を押し返すように起き上がらせた。これ以上モロに続きを言わせない為俺は必死にモロへ言葉を繋げる。
「その、昨日はありがとう、俺なんかを助けてくれて」
「ん、いいよ」
モロの表情は満点の笑みであり、俺の瞳を覗き込みながら続ける。
「今日から、遊多は火の事を理解してもらうから覚悟しといてねっ」
モロ曰く、火の操作は練度があり自在に操れるようになったら子供時代は卒業との事だった。
「その前にご飯、食べよ」
そう言い俺に赤い果物を渡してくれるモロ。何て良い子なんだろう、俺はこの子にこの恩を必ず返そうと、そうこっそり思うのだった。
「じゃー、まずは火を操作する為に火を纏ってみようー」
『ゴゴゴゴゴ』
俺の周辺は唐突に地面より生えた樹に囲まれた。それはまるで教室のような空間を生み出したのである。
「まずは私がやってみせるから、真似てみてね」
『メラメラメラ』
目の前にいるモロはいうがはやく、燃え盛る火の衣を纏ったのである。
「ちょ、まてよ」
「なーに?」
「いや、火の前にこの部屋ってモロがやったの?」
「うんー、私樹の精霊だし、朝飯前だよー。朝ごはん美味しかったねー」
「お、おう。俺にもそういった事も出来るのかな」
念の為問いかけるが、それは樹の加護持ちか樹の精霊しか扱えないとあっさりと否定されてしまった。
「遊多は人間だから、魔法とか契約魔法とか他にも色んな力を得ることが出来るだろうけど、まずはこの世界の基本である火を使えないと生きていけないよ?」
「おう」
まずは基本である火の操作をマスターしなければ、何も始まらないようである。
「じゃーもう一度みせるから、火を纏ってみようー」
『メラメラメラ』
「なぁ、さっぱりわからんのだが」
モロが火を纏ってみせるが説明がなさすぎる、それって熱くはないのか。
「そもそも、火傷したりしないのかそれは」
俺は疑問をぶつける。
「うー、本当にそんなとこからなのかぁ」
上手く伝わらなかったからか少し口を尖らせ、今度は先ほどよりかは丁寧に解説をはじめる。
「まずね、火の操作ってのは温度の操作も兼ねてるのね、わかるかな。そして火の力ってのは燃やす力じゃなくて体の一部だと思ってほしいの」
「火は燃やす為の力ではなく体の一部、と考えろか」
「うん、遊多は物を燃やそうとしてるイメージを強く持ってるみたいだけどそれは間違い。ここでは火はイメージを具現化できる魔法と思ってもいいんだよ。その力をこの世界の生命は全てもっているから」
「俺が焚火が燃やせなかっり、樹に焦げ目すらつけなかったのは」
「火の操作が当たり前の日常だから、全ての生命・物には火への耐性が強く根付いてるの。だから燃やそうってのはそもそも意味がないの。火で加工するならば相手の火の流れをわからなきゃダメなの、わかるかな?」
「火の流れを読めなきゃダメだと、それを知る為に火の操作を覚える必要があるわけだな。で、それを操作するにはイメージが大切、と」
「あら、遊多って結構理解はやいじゃない」
勿論、理解したわけではない。ただ俺のいた世界にはファンタジーな思考が溢れかえっていただけである。
「とりあえずやってみるか、豪炎ッ」
俺は右腕に豪炎を纏わせる。これは俺が最初にこの火に抱いたイメージ。だとすれば、ここから体を覆う鎧をイメージ、そして人肌程の温度もイメージしてみる。
『メラメラメラ』
「わぁ」
モロが俺をみながら、俺の豪炎の鎧をみつめてくる。
「すごい、すごいよ遊多」
そして褒められた俺は少し恥ずかしく思い、そんな事はないと言おうと気を抜いた瞬間。
「うわっち」
俺の火に対するイメージ、火は熱いっていうイメージが逆流してくる。
「えいっ」
モロが俺の体に樹の弦を絡ませ、俺は豪炎を無事に解く事が出来た。
「あはは、遊多ってば面白いね。纏ってる火を熱くしたらそりゃ熱いよー」
俺はこの樹の弦にがんじがらめにされながら、しょっぱなから前途多難だな、と思うのであった。