57:時は少し遡る
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
少し時間は遡り、場所は変わって太陽の都--ギルド支部--。
「無理無理、無理なものは無理なんだよ」
私は今、ギルド支部の管理者に依頼を持ち掛けている。が、門前払いをくらっているところである。
「お前では話にならん、もっと上の者を呼びたまえ」
私は決してひかない。この目の前の受付があまりにも無知なので、少し自己紹介をしておこうと思う。
太陽の都にて北門を守護する貴族、名はライラという。都にある8か所の入口を守護する貴族の一つなのだが、各貴族が所持するオアシス以外にもオアシスを独占する流れが最近強まっているのだ。理由は至極簡単、水が不足していてどこの貴族も確保に走っているのだ。
しかし、水不足は北にあるチャ川から運んでくるという方法で多少は解消するのである。私は、オアシスの水だけを利用せずにチャ川からの輸送ルートも確保しているわけだが……。
「私のところに水を卸してくれてる商人が戻ってこないのだよ。きっとトラブルがあったに違いない、捜索隊をだな……」
「はぁ、無理なものは無理なんですって。そんな商人一人の為に捜索隊とか、絶対に依頼は受け付けないからな」
と、私のところに水を卸してくれる商人の一人、センチが戻ってこないのである。私の知る限り、彼女は至極真面目で仕事の失敗など聞いたことが無かった。それがどうだ、もう私の館に戻ってきていてもおかしくない日数が経過しているのだ、トラブルがあったと考えて当然ではないか。捜索の依頼をしに来たものの、この管理者ときたら無理の一点張りで話にならず、こうやって押し問答を続けている所なのだ。
「貴様らギルド支部は、都の中心で天然の水場を地下に抱えているからいいだろう。だが我々には都内に水場がないのだよ、わかるかね? 水がない不安が。そんな不安を解消するルートの一つが無くなったかもしれない事案でもあるんだぞ」
「はいはい、わかったわかった。では後30日して戻らなかったら捜索でもしますか」
何て愚かな。どうやっても動くつもりはないらしい。
「くそっ、わからずやめ……」
私が拳を握りしめ、管理者を睨みつけたその時。
「ピリリリリリリリ」
普段聞きなれない電子音。しかし私達は知っている、この音がどういったものなのかを。
受付の奥から別の管理者がロビーへとやってくる。
「緊急事態だ、都北側より未確認飛行物体が襲来。脅威何度はⅢ以上と推測される。今われわれの騎士が偵察にでている、しばし待て。また、ここに居る戦力になる者もロビーで待機だ。いざとなれば出撃だ、覚悟しとけお前ら」
北側と言えば私の治める地か。やはり何か北側で発生したからセンチも戻ってこれなかったのか……。
「飛行物体を確認。きょ、巨大なコカリリスが一匹真っ直ぐと都に向かって飛んできています!」
ギルドの入り口から騎士が入って来て、報告を大声で通達する。
「ふむ、たかがコカリリスか。しかし巨大なのは厄介だ、それにアラートⅢが反応しているのだ……よし、今動ける者全て召集しろ! 巨大コカリリス殲滅作戦にでる」
奥から出てきた管理者がそのまま指揮をとり、俺の依頼を断り続けていた男もギルドの奥へと引っ込んでしまった。
『くそ、早く戻らねば』
ざっと考えて200人くらいはこの場に集まってくるだろう、がコカリリス相手なのだ。私達貴族が抱える騎士までは強制召集はさせられないだろう。そう考えながら、私は館へと戻る為ギルド支部をあとにした。
私の館へと到着した時には、空を駆ける大量の火球が頭上を通過していくのが見えた。
「戻った、状況は!」
館に戻ると、執事に状況を説明させる。現在150名の人員がギルド支部より遠距離火球を火具を利用して発しているとの事。私の騎士・ヴィッシュは直接現場に向かったとの事。まだ巨大コカリリスが卵を吐き出して暴れている訳ではなく、現在は『まだ』無害であるという事が手短に説明される。
「ご苦労、私も北門の管理室へと向かう」
「はい、坊ちゃま」
執事は鍵をとりだし、北門の上部へ上る為の扉の鍵をその場でクイッと回す。
「これで開錠はすんでおります坊ちゃま」
「ありがとう」
館をあとにし、北門の上部へと急ぐべく扉をあけ螺旋階段を駆け登る。
「状況はっ」
北門の管理室を任しているレオに尋ねる。
「ライラ様! 最初の150もの火球は全て巨大コカリリスへと直撃……したのですが」
直撃したのか、よかった……が何か歯切れが悪いな。
「脅威は去ったのだな?」
「いえ、それがその……全て無効化されました。我等よりも高度な火の操作をしているものと思われます」
「なん、だと」
コカリリスが火具を利用した火球を全て無効化するとは、何事か。
「ラ! ライラ様ッッ!」
急に取り乱すレオ。今度はどうしたというのだ。
「こ、この反応はフレイザーです! か、数1・2・3……どんどん増えていきます!?」
フレイザー、確か火具で火の収縮したものを線上に放つ戦闘用の火具だったか。
「落ち着けレオ。コカリリスが火具を使えるわけがないじゃないか」
頭をフル回転させ、思い当たる。レオの監視力は遠距離まで把握する視野・そして火の流れをよむ操作力にあるのだ、が今回の報告は誤っているだろう。
「いえ、これは間違いなく……それも1つだけフレイザーⅠよりも上級の物が紛れてます……」
「はっはっはっ、それじゃまるで人があの場にいるようじゃないか……」
そう、冗談で発した自らの言葉にひっかかりを覚える。
「いや、まてよ……まさかな……」
「伏せて下さいっ!?」
レオが叫んだ瞬間、視野に広がる朱色の絨毯がまっすぐと空を覆い尽くすのであった。
『これは何の悪夢だ……』
この時私は、この光によって都は滅ぶのではないかと恐怖した。それが都頭上を通り過ぎ被害が無かった事を悟るも、それでも生きた心地がしなかった。今はまだ点程にしか見えないそのシルエットは、徐々に都へと近づくのであった。