46:タナダタの町攻防戦(夜)-3-
シゼルさんの主人公力に期待。あれ、主人公って誰だっけか。
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
2015/4/10:文章手直し
俺がチャ川へと到着すると、目視できる程度の距離まで水鉄は迫ってきていた。
「何だ、報告とは違うじゃねぇか」
目視出来る水鉄は確かに10組である。ただしその内の1体は倍あるだろう巨体をしていた。
チッと舌打ちをしつつ、俺は付与矢を握りしめ伝達する。
「おい、第二組・あのデカイのは俺が引きつける。他の奴を頼むぞ」
俺は一方的に伝達を第二組に終え、続いて後方にいる部隊へ引き継ぐ。
「第三組から第六組、よく聞け。一匹ユニークが混じってやがる。他の水鉄の倍のでかさだ。俺が最後まで引きつけてやる、お前ら先に『普通』の水鉄9体を始末しな」
後ろを振り返り、更に俺は続ける。
「第一組、お前たちは目の前の強敵が見えているな。町への攻撃をその自慢の盾で『極力』塞ぎきれ。ただし、シェルターに攻撃は『絶対』に防げ。全滅は絶対にさせない、信じてくれ」
俺が第一組へと声をかける。
「ああ、皆お前を信じてるさ。絶対に守り切ってみせるさ、任せな!」
防御リーダーのマレイと自身の拳をコツンとぶつけあい、俺たちは約束をする。
「死ぬなよ」
「お前もな」
「さて、いきますか……」
最後になるかもしれない言葉を交わし、俺は火の制御を始める。
「お前ら、火の味って知ってるか」
俺は小さく呟く、あの水鉄達に向かって。
「火の味ってのはな」
火の制御が整っていく、足元に薄いレンズ状に常時設置。ギルドから持ってきた2m程のロングソードを片手で持ち、俺の拳から火の制御を付与していく。
「火の剣、か。こんな物じゃ水鉄の足止めもできねぇよな」
俺は更に意識を集中する。ロングソードが纏っていた火が消え、握っていた拳が赤色に輝きだす。
「切ないんだぜ」
「味わう前に消えちまうんだからな!」
タッと俺は駆ける。と、同時に後ろからボソッと突っ込みが聞こえてくる。
「火の味は、味覚もろともお前を融かすんですよネー」
第一組の皆がそれぞれ俺の独り言に突っ込みを入れて来る、が振り返ることはなく突き進む。俺はチャ川の上を駆け抜ける。水の上だろうが一切体が沈むこともなく、むしろ俺の体は水上からどんどん高度を増していく。
駆けるも、まだまだ距離が離れている為に10体の水鉄には攻撃は届かない。と、俺の目指す目標が俺を目視したのだろう、動きが止まる。
「ギギギ」
水鉄はフルプレートの塊が高速の水を纏って動いているような物である。鉄がこすれあう音が響き、両腕を前に突き出してくる。
「これやばいやつだよな……」
俺は駆けながらそう思い、決断する。
「この距離からでも始めるしかねぇ」
握っているロングソードを天に掲げ、全力で振り下ろす!
「味わいやがれ糞野郎!」
刹那。
巨体を誇る水鉄の1体、それもユニークタイプが後方へ水しぶきをあげ後退する。
「ザザザザザザッ」
遅れてやってくる水が裂け続ける音。
俺の斬撃が水鉄を押しのける、が無傷。両腕を前に突き出したままの状態である。
「やべっ」
横並びになっていた10体が同時に手元に水塊を作りだす。
それは次第に膨れ上がり、大人一人を丸々飲み込める程の大きさまでになっている。
俺は更に駆ける。あれは放たせては『いけない』やつだ。
「ヒュンヒュンヒュンヒュン」
と、町はずれから多数の矢が飛来する。そして
「バンバンバンバンバンッ」
水鉄の手元まで届いた矢の数々は水に触れると同時に爆発を起こす。ユニーク以外の水鉄の内7体の手元がブレる。
刹那。
「キーーーーン」
と耳鳴りかと戸惑う程の高音が鳴り響き水塊から一筋の水が放たれる。
7体が放った水は町を逸れ大地を削り、2体が放った水は町へと真っ直ぐ突き進む。
「ジュワッ」
と爆音が鳴り、一筋の水は町の北側で大きく蒸発をする。
第一組である。
彼らの大盾により2本の水は防がれ、無事である。
が、問題はまだ水塊を集め続けている巨体である。後方へ押しやったものの、俺の一振りを食らいながら平然としているユニーク。
「ギギギギギ」
奴は腕の位置を修正して、俺へと標準を合わせる。
「キーーーン」
と音ととにも放たれる一筋の水が俺めがけて飛んでくる。が、この距離で当たってやるほど俺もやさしくはない。
俺は火球を作り上げ連射する、が。
「ふざけんなっ」
火球が一筋の水に消化され続け俺の目の前まで迫る。咄嗟の判断だった。
ロングソードを逆手に持ち変え、最大限の火の制御で覆う。それを斜めに構え体を覆うかのごとく守りに入る。
「キィン」
他の水鉄よりも鋭い一筋の水はロングソードの表面を削りながら軌道をずらし町へと突き進む。回避は成功である、が。俺は戦闘中だというのに恐る恐る町を見る。
綺麗に一筋の傷跡が大地に刻まれている。その先にはーー
「ちくしょう、モコン様の館までっ」
館も綺麗に真っ二つに分断され、分断された面はまるまる大地ごと削り取られ姿を消していた。
「早く接近しなければ」
俺の間合いは近接である。水鉄が『斬れない』としても、遠距離では更に分が悪いのだ。
まだ攻防戦は始まったばかりなのである。




