4:おうちに入れません
2015/2/3:文章手直し
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
『星が綺麗だなぁ、俺の連続ログボ終わっちゃうなぁ』
俺は空を眺めつつぐにゃっと視界が滲む。目に涙を溜め考えていることは、既に半日以上放置してしまっていたネトゲの事だった。
『それにしてもさみぃ』
ここは、モロという少女が住んでいるという町らしい。俺は現在、大樹の根本に背を預け空をボーと眺めている。既に時刻は深夜、体内時計ではそろそろ日付が変わる時間帯である。
招待された町に辿り着いたまではよかったが、この町にある家は全て樹の上にあり、そんな場所に俺が登れる訳もなく現在一人、こうして大樹の根本で寂しく空を見上げているのであった。
『あの星の中に地球あるのかなぁ、ネット環境ねぇかなぁ』
これまでネトゲに命をかけているといっても過言ではないほど、ネットゲーム三昧であったからか、体力は勿論、学も正直危うい。
『これからどうしたもんかな』
俺は豪炎を使い目の前にある焚火に火を加えるが、火力が増す事はなかった。寒いから火力をあげたかったのだが、どうやら俺のこの能力では暖をとることはできないようだった。
「ぷぷっ」
「笑うなよ」
そんな俺をみて、笑い声を我慢して吹き出しているモロという少女。その少女は樹の精霊さんらしく、俺を何故か気に入ったらしい。色々と俺に教える為に何往復かして大樹の根本までわざわざ様子を見に来てくれているのだ。
モロがいうには、人間と精霊が住むこの世界では、人と精霊が力をあわせ別の『人間達』と争いをしているのだそうだ。いわゆる人同士の戦争というわけだ。
そして、このリーモという町は樹の精霊の住む場所であり、ここペンネの国の領土だそうだ。あの城もペンネの国の領土の一つであり、次の争いまでに兵を育てているのだとか。
「体温調整できなくて焚火って、ぷぷ」
どうもこの世界では、『火』に対して全てのものが親密な関係があり、その恩恵か『温度』に対しても異常なまでに適応力があるらしい。
「寒いって、ねぇ、どんな感じ、どんな感じ?」
「そうだなぁ、とっても辛いヨ」
目の前にやってきたモロは、昼間みた服装ではなく大人しいライトグリーンの服に紺色のデニムという感じになっている。
「異世界人? ってほんと、面白いネ!」
モロの服は半そでである、こんな寒いのに。
「てか下手すると凍えしんじまうよマジで」
そんな事を言い、暖の強化をモロにお願いした。ゴウッて音と共に焚火の炎は火力を増し、俺の肌をちりちりと温め始めてくれた。
「それで、これから遊多はどうするの」
「わっかんねぇよ、まず俺が一人で生きていけるか怪しい、非常に怪しい」
じわじわと感じていた、召喚された時はその場の流れに流され、訳も分からないまま森の中を1時間も歩きまった。あの城からこの町まで10分もしたところに町があった事実に凹み、町についたものの家には入ることができず、こうやって寒い中野宿をしているのが現実なのだ。
食糧確保の方法もわからず、水の確保もできていない。ましてやアウトドアなんて全く知識がないため、このモロという少女がいなければ今頃俺はアウトだっただろう。
「だから、そのだな、もしよければ」
俺はプライドを捨てて、モロにお願いをしたんだ。
『この世界で生きるために必要な力を貸してくれ』と。
「えー、それは出来ないかなぁ、でも一緒になら居てあげてもいいわよ」
俺の顔を覗き込むその少女は、俺がこの世界にきて初めて、安心感を抱けるほどに純粋な笑顔をみせてくれた。
「じゃぁ、私そろそろ寝るね。上にはベットもあるんだけど」
「うん、登れねぇから」
そうして俺の初野宿・初異世界ライフの初日は過ぎていったのである。
深浦君、異世界初日目でした。