38:火の指輪製造Ⅰ-2-
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
2015/3/30:文書手直し
ほんの少し疲弊感を感じたが、まだ一時間連続プレイといったところか。このくらいであれば五十回くらいは余裕でセット装備2を使う事が出来そうだ。
そんな事を思いながら、煙が霧散するのを確認したので改めて扉の前まで移動をする。
『開けたら驚く展開とか、はないよな』
そう思いこむようにして、Rキーをカチッと押し込む。扉がキィって音をたて開き、そこには見覚えのある部屋が視界に映る。
『そうくるか』
モコン様の館から没入した際に、書庫の扉から入った部屋と同じ空間が目の前には広がっていた。
『これ、更に奥に扉が2つあるけどどっちに進めばいいのだろうか』
目の前の真っ白な空間には扉が2つ。そして椅子に坐った男性が一人。
『どっちにしようかなー』
俺は腕を組み悩んだポーズをしてみる。ポーズアクションもしっかりと動作している。良好である。
『両方とも扉をあけちゃおうかなー』
『ガタンッ』
椅子が音をたて、男性が立ち上がったようだ。
『んーでも、ワープってことは別の場所いっちゃうかもなー。火の指輪製造Ⅰが欲しいだけだからなぁ』
タンタンタンッという足音と共に男性は近づいてくる。
『あー、まぁもう流石にスルーできないよなー』
「お前さん、現実逃避大好きだな」
『おおっと、NPCとかじゃない感じか。挨拶しなきゃ」
『カチカチカチカチッタンッ』
「初めまして。深浦っていいます。それでは……」
俺は男性と向き合ったまま後退を始めるが、気が付いたら真正面まで近づかれ肩を掴まれる。
「お前さん、俺はれっきとした神だよ。NPCとか意味の分からんものではない」
「へー」
カチカチッと入力して相槌を打っておく。て
『神? 紙? 神様なのかな、いやーそんな訳ないよなイデデデデ』
肩を掴む力が増し、俺の体に痛みが走る。
「丸聞こえだよ、それにしても変な奴だな」
『えっ、こっちの声も聞こえるって事は』
一つだけ心当たりがある、いや心当たりがあり過ぎる。
『あの、もしかして先ほどお会いしましたかね?』
「ああ、直接声をだせ。頭に響くんだよお前さんの声は」
『カチカチカチッ』
「すいませんでした、あのあなたが神様なんでしょうか?」
表情は冷めたままで神様(自称)は返答する。
「そうだよ、私は火の神だな。貴様は何者なんだ、答えるまでは返さん」
「俺は深浦 遊多、地球育ちの青年ですよ」
「地球、はてどこの領土だ……まぁよい、それでそのふざけたソレは何なんだ?」
俺は部屋の中央まで引き寄せられ、イスに着席させられる。
「えっとソレ、とは何でしょうか。後、地球ってのは異世界にあたりますきっと」
「異世界人、か。そんな事はどうでもよい。ソレとはソレの事だよ」
カチカチッと俺のキーボードをつついてくる。
「これですか? これはキーボードっていって、便利なんですよ! ここのショートカットボタンはよく使うから壊れやすかったり、効きが悪くなったりするからメンテナンスも大変で……」
神様(自称)が冷めた顔を近づけてくる。
「キーボード、とな。それの説明はいらぬ、何故『火を二つも持っている』と私は聞いているだよ」
「はて?」
アクションコマンドをついでに入力して頭の上に火でクエッションマークを出してみる。これも成功である。
「お前さん、俺の火をそちらの操作に丸々利用しているが、そのキーボードからの制御は全く別の火を使っているよな。その火はどうしたのだと聞いている」
俺は思い直してみる。誰でも火の力が扱える世界、そして俺が願ったギフトは豪炎の火の力。
「答えになっているかわかりませんが、この世界に召喚された時にギフトというものを貰いました。その力に豪炎を選んだんですが……」
「ふむ」
神様(自称)が少し考え込む。
「と、なるとその豪炎という火の力は別の神からの力という訳か。それで俺の創造世界では無駄な力になるわけだなククク」
どうやら俺の豪炎が先ほどの扉を破壊できなかったり、物を温めるのが限界だったりするのは別の神様の力で力負けしているから、という事らしい。
「しかし面白い奴だ、その豪炎というのは私の世界でもしっかり動作しておる。その力、俺なら更に高みへと昇華させることができるぞ」
『まじで!』
と、思わず声をだそうとするも心の中での叫びでとどまる。
「こら、そのバカでかい声はやめろと」
「すいませんでした、それで豪炎がパワーアップできるんですか」
「そうだな、私の力になってくれるならそうしてやっても構わないが」
一息ついて、神様(自称)は俺の膝の上に座ってくる。
「お前さんの豪炎がどこの神の力かわからん。だから徐々にその力に私の力を混ぜていってやろう。勿論この世界の中ではその二つのデバイスのまま扱えるようにしておくよククク」
「どれくらいで全開放になるんですか! そしてちょっと重いですイデデ」
太ももをつねられた。余計な事をいってしまったのだろうか。
「そうだな、ざっと二百年くらいで私の力と混ざりきるだろうさ」
うん、わかってた。そう都合よくいかないよね。
「しんでるわっ!」
おもわず突っ込みに神様(自称)の後頭部にチョップをカマス。
「こら、痛いじゃないか。俺より下位とはいえ神の力なのだから時間はかかるて」
「そう、ですよね。ところで何か手伝える事があるんですか俺に」
俺は尋ねると、膝の上でグルッと回転して顔が正面に向き合う。
「そうなんだよ、そう。よくぞ聞いてくれた。師匠から報告で明日、現実に災を降らすって連絡きたんだよね。今の管理って俺なのに。師匠も師匠だけどそれを許す大神様も大神様なんだよね。で、守れ?」
『いきなり師匠とか大神とかでてきたけど、誰だよ……』
「守れって、何をどうしたらいいんですか」
「師匠は先代の火の神様だよ。大神様は最初にこの世界を創造した本物かな」
『本物って、お前はイデデデ』
「今は俺が神様だから、神やで神。滅多に出会えるとかないから。それで、守れな?」
「いや、何を……」
神様はめんどくさいと、俺に接吻を試みる。
『あぶねっ!』
もちろん避ける。
「お前さん、情報が欲しいんだろう。くれてやるから大人しくせい」
俺の顔の両サイドに灼熱の炎が舞い上がり、俺は神様との接吻が不可避となる。
「で、守れって接吻されたけど何もわからないんですけどかーみーさーまー」
俺は目を白く濁しながら訴える。男同士とか、くそ、くそ。
「おかしいな、まぁよい。これでそのキーボード、いや豪炎はその内パワーアップするよ」
「その内って、二百年後ですよね……」
「そうだ後これ探してたんだろ、これやるから。な? 元気だせ?」
そういうと俺の膝からやっと退いた神様(自称)は一冊の本を膝に乗っける。
「これは」
ーー火の指輪製造Ⅰ
「それやるから元気だせな。それで、守るのは太陽の都という場所だ。そこに災をもたらすとか師匠ふざけてるんだよね。お気に入りの地域なのに」
「太陽の都って、モロと行く予定だった場所だな……」
「そうか、行ってくれるか。良かった良かった、後な、もうお前さんは師匠にマークされてるから。ごめんな」
「えっ!?」
俺が椅子から立ち上がり神様(自称)を触ろうと試みるが、真っ白い部屋は暗転しそのまま俺の意識も暗闇の中に落ちていった。




