34:我等の武器
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
2015/3/30:文章手直し
「ふぅ」
俺は言われるがまま、モコン様に借りている部屋へと戻っていた。もう一度没入したかったと切実に思っていた。しかし、時間が余ってしまった。まだ午後三時過ぎといったところだろう、昔ならレベリングしていてる時間帯だ、この世界に来てからは体作りに励んでいる時間帯である。
「普段、か」
この世界に来てから一月以上もの時間が経っているが、現実に戻ったら元の時間軸に戻れるのかな、PvPとかGvGとか、レイド戦やら色々やりたいな。という感想を抱きつつ、生き残る為の知識・モロ流の生活リズムを思い出す。
「さて、空いた時間はランニングやな」
と、いう事で白いローブを着てみる。フードはかぶらず、そのまま俺はモコン様の館を出ると朝方に走ったコースを辿ってみる。しばらく走るとギルドが見えて来たので少し覗いてみることにしたんだが、そこでは入口付近で若い男と女が何やら会合を開いていた。
「なあ、この依頼はやっぱまずくないか」
「いやいやいや、報酬が破格やん、やろうや?」
「まーてまて、俺のいけ」
「私も欲しいアクセサリーあるしー」
「俺も反対だ、分が悪い」
「リーダーの意見誰か聞いてあげようよ」
「そうだそうだ、それで「やっぱ俺も欲しいの「私はいくよ!」」「まずいって」」
と、賑やかそうな六人組が何かの相談をしているようだ。それもリーダーらしき人物がまとめきれていないという残念な集団である。
「チャットならガツガツ参加できるのになー」
心の声で話したつもりだったがツリィムに没入した後遺症か、悲しいかな声に出して呟いてしまった。
「ん、君は」
一人、落ち着いてる感じの子が俺に気づき近づいてくる。残りの五人はまだ話し合いをしているようだ。
「あ、すいません唐突に」
「いえ、確かシゼルさんと一緒にいた方ですよね。確か深浦さん、であってましたよね? 間違っていたらすいません」
目の前に来て話しかけてきたのはモロと同い年くらいの女の子である。腰には弓筒を背負い、他の五人も同じ装備をしている。砂色のインナーに胸当てを装備しているだけの軽装備、胸の部分には魚のマークが描かれていた。
「あ、そうです」
と、素っ気なく返答してしまう。女性とのリアル会話は苦手なのである。といっても150cm程の身長の子供なので臆することもないのだろうが、苦手は苦手なのである。
「あの、突然で申し訳ないのですが、ツリィム操作って得意だったりしませんか?」
「え、その、一度だけ……」
そう、つい先ほど一度だけ没入したことのある世界の単語がでてきて、俺はつい答えてしまう。
「やた、ちょっとだけお時間いただきますね!」
ニカッと笑みを浮かべセミロングの髪をふわっとさせリーダーのいる場所へと戻っていく。二分程で話をまとめたのか、六人組が俺の元へとやってくる。待ってる間何してたって? 一応、その六人を観察してみていた。
六人中、二人が女性で四人が男性の構成。皆若く、全員が弓を担いでいる。肩から担いでるのは男性陣、腰から担いでるのが女性陣である。身軽さ重視なのだろう、胸当てしか身を守る装備らしき装備はないが、全員同じロゴが入ってるので一つのパーティなのだろう。
更に分析をしてみる。最初に話しかけてきた女の子は冷静な感じ、逆にもう一人いる女の子はキャーキャーいった感じ、どちらにしても女の子のあの感じは苦手だったりする。
そして男性陣、リーダーと思われる男性も若く、何故リーダーをしているのか傍から見た感じ全くわからない、しかしそれでもリーダーなのだろう、何だかんだで五人はリーダーを中心としているようにみえなくもない。
二人の男性は、冷静な感じだが先ほど話していた依頼の反対組みである。リスク回避を選択するタイプなのだろう。そして最後の一人はムードメイカーなのだろう、イケイケな感じで話をしている。
「あー、はじめまして。俺はギルド『シャーケ』のリーダーをしているベンだ。よければ話を聞いてはもらえないだろうか」
俺はコクっと頷き、ギルド内にあるテーブルへ移動し改めて自己紹介を行う。
円卓につき、俺の右から順に自己紹介が始まる。俺はざっくり
ギルド-シャーケ:ベン(リーダー、18歳らしい)
ギルド-シャーケ:フレク(ノリで流れを作る男の子、12歳らしい)
ギルド-シャーケ:オギリ(最初に反対してた男の子、17歳らしい)
ギルド-シャーケ:モク(解析が得意な男の子、同じく17歳らしい)
ギルド-シャーケ:サーモ(アクセサリー大好き、な女の子13歳)
ギルド-シャーケ:フライ(俺に話しかけてきた女の子、15歳)
というところまでは把握した。下は12歳から上は18歳だが、年下組みが暴れてる感は否めない。
「俺は深浦 遊多っていいます、深浦でも遊多でもどちらでも構いません」
「遊多の得物って何なん?」
と、さっそくフレクが名前で呼んでくる。
「いや、そのとくには無いかな?」
「無いのかー、ワハハハ」
と笑っているところをオギリがコツンと軽く小突いて制止する。
「騒がしくてすまない、話を戻させていただきたい。今我々はある依頼を受けるかどうかで悩んでいたんだ」
「依頼、ですか」
俺は脳内ではRPGならこのまま冒険にでる場面だよなーと考えながら、現実はこうも話が進まないものなのか、と思いながら話が進むのを待つ。
「そう、俺達のギルドは弓が主体で成り立っている。そして狩りの腕は他のギルドよりも群を抜いていると自負している」
「そうそう、主にオギリの力がメインだけどな!」
自信たっぷりな感じにフレクが言うが再びコツンとオギリに殴られている。
「度々すまない、続けさせていただこう」
こほん、と咳払いをするが話が進まないと思ったのかサーモという少女が話を引き継ぐ。
「リーダー、もっとシャキシャキ話してよねっ! 深浦さん、私達は報酬額の良いこの依頼、ツリィムの情報奪取を引き受けようと思うの。でもね、安全に没入をする余裕がなさそうなの。そこで、貴方に情報奪取をお願いしたいの。勿論護衛はするわ、信じて、間違いなく守りきるから!」
と、一気に話しかけてくる。そして依頼書にある値段部分だろう場所に指を指したまま一切ブレない。
「大丈夫なのか、こいつで。俺は反対だぞ」
今度はモクが反対意見を突き通してくる。いや、初対面だしそれが普通だろうと、俺も思いますよ。よって俺は逃げようと試みる。
「えっと、俺もシャーケギルドの皆と初対面ですし、また今度でも」
「待ってください深浦さん、私は貴方とシゼル様の模擬戦を拝見させていただきました。シゼル様と一緒にいた貴方なら信用して良いと思いますし、実力も十分だと思います」
俺に最初に話しかけてきたフライという女の子が俺を逃がすまいと語り、リーダーのベンが更に続ける。
「だ、そうだ。どうだい、一緒に組んでみないかい?」
「あの、そうだっ! 得物! 得物もってないんですよ!」
「それは大丈夫、俺達六人で護衛すれば深浦一人は簡単に守ってみせるよ」
と、分析屋のモク君が言ってくる。俺が何かいう前に畳みかけてくるフレク君。
「よっしゃ、いけるやん!」
「いや、だから」
「これであの宝石買えるわきっと!」
サーモさん? アクセサリーから宝石にランク上がってますよ?
「フライが言うなら大丈夫、か。わかったよ、リーダー引き受けようこれ」
と実力派なオギリ君がゴーサイン。
「よし、では行こうか。これを持っといてくれ」
あ、あれ、俺の意見は何も言えないんですね……と、思いながら渡された矢を受け取る。
「この矢には我々の火操作が通っている付与矢だ。普通の弓とは別に各自1本持っている物なんだ。危険な時はこの矢を折ってくれ」
「お、折るんですか?」
俺が聞き返すと、フライがそっと教えてくれる。
「そう、折ると私達全員に警告シグナルとして伝わるから。そして付与矢はツリィムに持ち込めるから、そこでも同じシグナルを出せるって訳。ね、だから持ってて」
と、そういう事らしい。
「じゃ、行きましょう!」とはサーモさん。
「じゃぁ行こうや!」とはフレク君。
「日が暮れる前に行こうか」とはモク君。
「頑張るか」とクールにオギリ君。
「よし、行こう!」と、リーダーのベン君。
「では、陣形は熊の陣でいきます」
最後にフライが締めくくり、それぞれがギルドの外へと駆けた。俺は勢いについていけず、何コレ? といった感じでぽかんと口をあけたまま椅子に座っていた。
「さぁ行きましょう、私とフレクが貴方と一緒に行くわ」
「宜しくな遊多兄ちゃん!」
年下組みのフレクとサーモが円卓に残り、俺と行こうと促してくる。
「あ、ああ宜しく頼む」
勢いで一緒に行くことになったが、実は依頼書の文字は全く読めていない。報酬額も本当のところ、どれ程の価値があったのか何もわかっていなかった。
改めて観察をする、俺と共に同行するのはフレク少年とサーモ少女らしい。
フレク少年は12歳でギルド内では最年少だが、身長は155㎝程あり、スポーツ刈りをした頭がちょっぴりまぶしい。まだ体が出来ていないからか、筋肉質ではないが身のこなしは間違いなくハンターといったところだろうか。
それに対しサーモという少女。宝石やらアクセサリーやら、女の子が好きそうなことに真っ直ぐに突き進んでいる女性であるが、やはりこの世界で生きているからだろう、体は引き締まっておりフレク少年よりも少し身長は高い感じだ。髪の毛も伸ばしており、カチューシャの端っこに輝く青色の宝石が埋め込まれているのが見える。
「そうだ、深浦さん。好きな宝石ってあります?」
「あ、えっとダイヤモンド、とか?」
「いいですよねー!」
と腕をがしっと掴まれ、宝石トークをしながら俺達も外へ出るのだった。
「遊多兄ちゃん、俺もかまってくれよー」
フレクが言うが、もうどうにでもなーれ! と俺は勢いで依頼を受け突き進むのであった。