32:ツリィム-3-
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
2015/3/3:文章手直し
『こんなところでネットゲームの操作感が役に立つとは、人生何があるかわからないもんだな』
俺は腰付近に浮遊している二つのデバイス、マウスとキーボードをみつめながらそう思っている。ツリィムの中で直接指を動かしてキーボードを打てる訳ではなく、ブラインドタッチがごとくイメージするのである。
『カチカチカチカチッ』
WASDキーと移動がリンクしており、走ったり座ったり、ほふく前進したりとキーと操作を一通りリンクしおえたので書庫整理を行っているところだ。
『もうすぐ終わっちまうな、ここ』
モコン様は五分くらい本を読んでたところでツリィムの書庫から姿を消していたので、現実に戻ったのであろう。
設置などのアクションボタンに設定しているRのキーをブラインドタッチの感覚で意識すると、カチッと音と共に俺の手に持っていた本が本棚へと収納される。
指が直接動かせないので、よくよく考えれば難しい事をしているのではないかと思うが、不眠不休でレベリングをしていた頃の感覚にどちらかといえば似ている。無意識にキーを操作し、自然とキャラクターを操作していくあの感覚に。
『懐かしいなぁ、そろそろ大規模アップデートもあったんだよな。豪炎使って暴れたかった……』
ぐすんと少し涙が流れた気がしたが、ツリィムの中では涙は流れないようなのでそんな雰囲気だけだしておこう。
『これでフィニッシュ!』
散らかっていた本を並べ、まだ三時間のリミットには一時間程余裕がある。
『ここの外って何かあるのかな』
二時間程自身のパネル設定をいじったり、書庫の整理をしていたが全く疲れを感じていない、これならば少しくらい残った時間で散策してもいいだろう。そう思い、俺は書庫の外へとつながる扉へと手をかけた。
『ヴヴヴ』
再び目の前が暗くなり、今度は何かと思えば真っ白い部屋へと移動していた。
『こ、れ、は』
真っ白い部屋には扉が三つあり、一つは入ってきた扉。そして残りの扉には俺にも読める文字でこう書かれていた。
『ワープ』
『ワープ』
と、二つのワープ扉が設置されていた。
『別の地域に自由に飛べる、とかまさか、な……』
俺はそんな事を思いながら、その場に座り込んで考えることにした。
『カチカチカチカチ』
まだ試してはないが、スキルショートカットを設定していく。扉をあけたら地獄だったりしてはたまらないので、万全の状態にしておくのだ。
『豪炎シリーズはロケット・ブースト・オーブン・セット装備1の4種類だよな、高所からの着地ダメージとかなくなるロケットは1番にいれて……』
と、順にスキルセットを試みる。
『カチッ……ドドドドドド』
白い部屋の中、俺はショートカットボタンを押してみると豪炎ロケットが見事に発動する。誰もいないから決して恥ずかしくない。俺は地表三十cm程まで体を浮かせ、無駄にリアルな白煙を足元からモクモクと噴出させている。
『カチッ』
再びショートカットボタンを押すと俺はゆっくりと地面と着地する。
『いいなぁ、ホバリングしてるみたいだ』
「いい加減にせんか!」
『「うわっ!」』
驚き声を出そうとするも、自然とは声がでないので実際には声が出ていないが更に追い打ちをかけられる。
「貴様、驚くのに心のでかい声で話すな、むしろ物騒な操作をするんじゃない!」
『「あれ、この声も聞こえるんですか?」』
「普通は聞こえんよ、私だから聞こえるのだ」
と、目の前の扉の一つから一人の男性が入ってくる。
「こんな狭間で私以外の力で何をしているのだ、貴様は」
『「え、その、探索?」』
「ええい、その声はでか過ぎる、ここのルールで話してくれ」
『カチカチカチッタンッ』
「俺は深浦 遊多っていいます、はじめまして」
『「よし、定型文も成功だ!」』
「ガーッ、貴様は学習せい」
『コツンッ』
と頭を殴られ、俺の意識は一瞬で暗闇の中に落ちたのである。