28:ツリィム
皆様、今年もよろしくお願いします。
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
2015/3/3:文章手直し
「先ほどは失礼しました」
五分程経ち、やっとメイさんは顔を火照らしたまま戻ってきた。
その五分間で必死に火の操作を練習したが、まだメイさんの手を振りほどける気がしない。
「ま、まぁいいでしょう、遊多様の操作は並の上くらいには鍛えられてるようですので、ツリィム内での書庫整理をお願いしたいと思います」
「ツリィム?」
俺は初めて聞く単語に、疑問符を加えつつ問い返す。
「書庫の名称か何か、ですか?」
「いいえ、やはりそれも知らないのですね」
と、メイさんは俺に一冊の本を差し出してきた。
「この本は?」
「これがツリィムに没入できる本です、簡単に説明させていただきますね」
そういうと、本は真っ二つに開かれた。そう、真っ二つである。
ページが糊でくっついてるかのごとく、本は真ん中の2ページのみしか開かない仕様となっていた。
「これがツリィムへ没入する為のページです、間違っても一人で没入はしてはいけません」
「没入? 一人?」
何やら謎な本がでてきたものである。メイさんは机にそのツリィムと呼ばれる本を置き、俺の手を握ってくる。
「では、もう一度私の火を抵抗してみてください」
「まっ」
俺の言葉が終わる前にチクチクと拳全体に火が襲ってくる、が二度目、それも五分間の練習成果があるのだ。
「いででででで」
簡単には抵抗できなかったが、最初よりかはマシ、な気がする。
「では、今の感触を忘れないで下さい」
そういうと、今度は椅子に座るように促される。そっと手を離してくれたので、合格ラインには達していた、という事であろう。
「このツリィムですが、意識を本の中に没入させることができます」
「意識を没入?」
「はい、簡単にいいますとこの本を通じてツリィムの世界に入れる訳です」
「なん、だ、と」
俺は黙考する。いやまて、本の中って異世界にきた以上にファンタジーな出来事だよな、きっと、そうVR世界のような。いやまてまて、本の中に入ったところできっと楽しくはないだろう。
「えっと、本の中に入れる、のですよね?」
「はい、正確には火の魂をツリィムの世界に没入させる事が出来ます。ツリィムの世界では火の操作により様々な情報を得ることが出来ます」
訂正、本の中ではなくツリィムという世界に入り、そこで情報を色々漁れるのか。それはまるで、俺のよく知っている物と酷似している。そのイメージが結びつき、思わず俺は声に出し叫ぶ。
「ネットキター!?」
「ひぃっ」
俺の叫びに、メイさんが悲鳴をあげる。が、すぐに手にもっている棒をビシッと手に収め落ち着きを戻す。
「ねっと? が何かわかりませんが、このツリィムの世界に書庫があります。ただしツリィムの世界に没入してしまうとこちらの世界、いわゆる実体が無防備になってしまいます」
「ふぬふぬ」
「没入の際には拳をページに乗せ火の魂をツリィムとつなげる必要がございます。
なので二人以上でツリィムを操作する者、見守る者と役割分担が必要になってまいります」
「ふぬふぬ」
「そして、ツリィムの世界を操作するには火の操作力が一定以上ないといけない上、集中力を常に要しますので非常に精神的な負担が大きいのです」
「ふぬふぬ」
「しかし、ツリィムの世界には莫大な情報がありますので、と。遊多様きいていますか?」
「ふぬふぬ」
『バシンッッ』
「ひぃん」
俺は間違いなく察する、これはご褒美である。いや、メイさんに思いっきり棒で殴られた事じゃないからね? 俺は、この世界に来てネットが出来ると確信したのだった。
「遊多様、お気を確かに。続けますよ?」
「は、はい」
「先ほど私が扱ったような火の操作を、ツリィムに向けて両の手で行ってください。このツリィムには『モコン様の書庫』を出入口にしてますので、没入したらそこにある本を片付けてください。後、『水の書Ⅲ』の情報を持って帰ってくださいまし」
「持って帰る?」
「ええ、ツリィムの開かないページに持ち帰った情報を持ち帰る事が出来るのです。しかし、24時間で開かなくなりますし、24時間はツリィムに没入は出来なくなります」
「ふぬふ、いや、聞いてますよ!」
俺はまだ見ぬツリィムの世界を想像しつつ、メイさんの説明を聞いていく。
「はい、また本によって出入口が固定化されてますし、没入できる時間は無制限なのですが、自身の体と精神に負担がかかります。そして、現実にある体に関しては完全に無防備なので、信頼できる相手に没入中は守ってもらう必要もございます」
「俺はメイさんを信じて、本の中に没入すればいいわけですね」
「そうですね、ただし二時間に一度は目的の品を見つけれなくても戻ってください。精神的消耗が激しいので」
「わかり、ました」
俺は顔がにやけるのが止まらない、ツリィムとの出会いがこの世界に来てから、二度目の生きていく希望となったのだから。
勿論、ネット大好きな俺でも一番の希望はモロさんと歩む人生ですよ。本当だよ?
俺はそっと両の手をツリィムの開かれたページに置き、火の操作を集中させる。
『没入、か。楽しみだ……』
そんな事を思いながら、俺はツリィムの世界へと没入《旅立つ》するのだった。




