2:異世界と俺
2015/2/3:文章手直し
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
城外に放り出されてから丁度1時間程歩き続け、俺は現状の再確認を行った。
『豪炎』
右手にまとわりつく炎の塊をみて、それを樹に向かって投擲をする。
『ゴウッ』
激しい音と共に、炎は樹と衝突してそのまま霧散してしまう。
「なんだかなぁ…」
俺の名は深浦 遊多24歳の無職、世間でいうネトゲ中毒者である。つい1時間と数分前に俺は異世界へ召喚され、ネトゲの中で覚える筈であった魔法、それもゲーム内サーバーで一人しか取得できない究極魔法:豪炎をこの世界で手に入れたのだ。しかしそれは……
『使えねぇ……』
この異世界、火の世界とやらは火を操れることが標準スペックらしく、恐ろしい程に火への耐性が強い世界であった。現に、俺が使った究極魔法:豪炎は正面にあった樹へ衝突すると共に燃えることもなく炎が霧散してしまった。
周りは密林地帯が続き、普段からろくに運動をしているわけでもない俺は現在へばり休憩中である。
「何やってんの…?」
それは唐突に聞こえてきた他者の声。正面の茂みから出てきた存在を確認すると、そこには俺より頭一つ背の高い女の子が居た。
「そこで一体何してんの?」
「休憩だよ」
俺の隣にやってきた女の子は、見た目俺より年下のようだが……
「へぇ、こんな場所でねぇ……名前は?」
俺の隣に座り、名前を聞いてくるこの子は一体。疑問に思いつつ俺は答えてみる。
「俺は深浦 遊多、24歳の異世界人だよ」
「んー……異世界人?」
隣に座った女の子は疑問形で返してきたので、俺は右手に豪炎を纏わせてはなってみせた。
『ゴウッ』
再び豪炎は樹にあたり霧散してしまう。
「で……?」
『ゴウッ……メラメラメラ』
俺が放ってみせた豪炎に続き、少女も同じく樹に向かって火を飛ばしていた。その火塊は樹を1本まるごと包み込み、しばらくして霧散していた。
「それで、異世界人って何なの?」
「あ、えっと……」
俺は言葉に詰まってしまった。俺が得た豪炎では樹にあたった瞬間に霧散していた、にも関わらず隣に座った少女の放った火塊は樹を覆い、少し樹に焦げ跡を残していたのである。
「まぁいいわ、私はモロっていうの」
「お、おう」
「それで、何してたの?」
目の前の少女モロは俺に再び同じ質問を浴びせかけてくる。
「休憩だよ。あそこから歩き続けてきたから」
俺はいまだデカデカとみえる城を指さし、モロへ現状を伝えてみた。
「へぇ、貴方面白いわね」
「お、おう・・・」
コミュ障というわけではないが、現実が受け入れきれていなかった俺は目の前の不思議な女の子に対してぎこちない返答しかできなかった。
「この先に私の住んでる町があるんだけど、一緒に来るかな? 私は狩りを終えて戻るとこだったし」
「いいのか?」
「勿論、貴方はみてて面白いし」
年下であろう(と、推測だが)少女からそんな事を言われ、少しムッとしてしまう大人げない自分であるが、落ち着こう。俺の言葉を肯定と受け止めた少女は俺の手を引き一言。
「それじゃ、行きましょ」
「お願いするよ」
そんな訳で、異世界人である少女モロが俺を町まで引率してくれるのであった。
『ついて行って大丈夫だよな……?』