10:火の世界
2015/2/3:文章手直し
2015/3/2:文章手直し
2015/3/2:各タイトルにナンバリング記載。
「ここがモロの家か」
感慨深い、俺がこの世界にきてから33日が既に経過していた。あの日、偶然俺と出会ったモロという少女がいなかったら既に俺は死んでいたに違いない。
モロの家は目と鼻の先にあったにも関わらず、一度もお邪魔したことがなかったのである。非常に長かった、木登りが出来るようになるまでが。
俺は樹の幹 (地表15m地点) から周辺を見渡すと、見事に密林地帯が広がっていた。遠くは木々に遮られその奥に何があるのかこの高さからでは何も知ることができなかった。
『と、いっても大体この森の事は把握したっけな』
モロと走り続けた結果、俺はこの森についてモロの家中心にだいぶ離れた位置まで把握したのだった。
「はやくおいでよー」
モロが俺を手招く。修行の結果、本日やっとモロの家へあがることができるのだ。
「おう、お邪魔します」
『ギギギ』
少しガタがきてるのか、入口の扉は音を発しながら開いた。うん、俺の知ってる木造のログハウスっぽい感じだな。
家の中を観察すると、玄関はなく直接広い部屋が広がっていた。そこには机と椅子があり、花瓶を飾っている木製の家具、真っ白いカーテンまであった。
「ちょいと緊張するな」
「何を今更ー、かあさーん連れてきたよー」
『かあ、さんだ、と』
いや、自宅だから親が居てもおかしくない、そう、オカシクハナイノデアル。
これまで自分が生きる事に必死だった為、モロの事を考えるという思考がスッパリと抜け落ちていた。
『女の子の家にきて、親に挨拶とかやべぇ、全然やべぇ』
何度もいうが俺は24歳という歳になっても未だネトゲ中毒者まっしぐらだったのである、そんな機会が今まであった訳もなく、めちゃくちゃ緊張してしまう。
「あら、いらっしゃい」
奥にある扉の一つが開き、モロのお母様が現れたのである。それも肌着しか着てない状態で。
「は、はじめまうわっ」
挨拶しようとして、俺はもの凄い勢いで回れ右をしたのである。お母様若すぎませんかモロさんよ。
俺と同じくらいの身長の女の子が視界にうつったので急いで後ろを向いたのだ。見た目幼さを残しているが、モロの母親らしき人物が確かにそこにいた。それも真っ白な肌着のみで。スタイルは間違いなくモロさんと同じレベルか、それ以上に良いか。いやそれ以上にあの笑顔は卑怯だ、天使さんじゃないですか。
「かあさん、その格好は流石にダメだよー」
モロがそういうなり、バババッと音がしたかと思うと『びっくりさせてゴメンね?』と小声でいいながら俺の顔を覗き込む。
「あ、いや、そのもう振り返っても大丈夫かな」
うんうん、とモロの頷きに応え振り返ると、しっかりと服を着こなしたモロ母が椅子に座っていた。机をポンポンと軽く叩いている。これは間違いなく俺も着席しろって事であろう。
「改めてお邪魔します、深浦 遊多と申します」
すぅ、っと深呼吸をはさみ続ける。
「あの、モロさんに俺助けてもらって、本当に感謝しています」
「ここから視ていたけどしっかりしてるじゃない。良かったわねモロ」
ニコっと天使の笑顔を振りまき、モロ母は更に話を続ける。ふわっと長い黒髪が何故か強く印象に残った。
「では深浦さん、モロをよろしくお願いしますね」
「えっ」
「ヨロシクオネガシマスネ?」
「あ、え、あ、はい」
何の事かわからないまま、俺は応えてしまった。俺の人生が、新たなる始まりを告げた瞬間であった。
「宜しくね、遊多。幸せにしてね」
何がどうしてこうなったのだろうか、モロ母は俺の返答を聞いたらすぅっと姿がみえなくなった。モロ曰く、精霊は実体を持つ必要がないとの事で、食事をする為だけに姿を造り出しているとか。ではモロさんは何故食事を毎回とっていたのか? たんに、お肉が大好物という簡単な答えが返ってきたのだった。
「で、どういう事かもうちょっと詳しく教えてもらっていいかな、かな?」
毎回モロさん、説明はしょりすぎで困ります、俺本当に困ります。今回のはさすがに意味深だよ、な?
「私と、遊多はいっしょに旅をします」
「お、おう」
「私は、美味しい食べ物をもっと知りたいです」
「う、うむ」
「でも母さんは食に興味がないし、私一人では人里は危ないからってここから出してはくれません」
「……」
「そこに何の害もなさそうな大人の人間が現れました」
「それは俺の事、だよな」
「そして私の希望となりました。母さんもずっと遊多の事みてたから、許してくれたの。遊多と一緒にいれば旅に出てもいいって!」
「あー、あー旅ね、旅」
そうだ、いつまでもこの密林地帯にいる訳にもいかない。俺のいた世界に帰る方法があるなら戻りたいし、今俺にあるのはモロという少女との繋がりのみなのである。行動をとる時が来たのだ。
「私を幸せにしてね?」
ギュッと俺に抱き付いてくるモロ。姿はみえないけどモロ母みてるんじゃないか、大丈夫かこのシチュエーションは。でも、まぁ。
「今度は俺の番ってわけだな、任せとけ」
俺はモロの体をギュッと力を入れ返し応える、この修行の日々毎日行っていた癒しの行為だったが、今日だけはちょっと意味が違っていた気がする。
「それじゃ美味しい物、探しに行くか」
「うん、まずは太陽の都に行ってみよう!」
「応、で、それどこ」
修行の結果、俺は逞しくなっていた、が。
やはりこの世界の知識についてはまだまだわからない事だらけだったのである。
『ちょっとづつ、今みたいに前進したらいいよな』
椅子に座ってネトゲだけをやっていた頃には得れなかった感情に、俺はちょっとだけ心を満たされた気がした。
『今月のアップデートどうなったかなぁ』
撤回、プレイ期間が30日以上あいたこんな環境下にいても、俺の思考はネトゲが大好きな中毒者であるのだった。