雪がちらつく、 そんな世界で。
白い。 一面真っ白。
私はそんな中で立っていた。
別に何をするわけでもない、
街が白く、歩く人たちは嬉しそうで。
だけど、私はその中で、別に何をするわけでもない。
ただ、立っていた。
他の人みたいに、彼氏を待つわけでもなく、
彼女を待つわけでもなく、時計台の下で一人待つ。
でも、「誰を?」って訊かれたら、私は迷わず答える。
「大好きな彼を待っている」と。
だけど、私が大好きな彼は来ない。
なぜなら、それは死んでしまったから。
私は、1年前も同じ様な1日を過ごした。
朝起きる。 歯を磨く。 パンを食べる。
テレビを見る。 そして、何時かを確認する。
9時46分。 待ち合わせは、10時ジャスト。
1年前、彼は言った。
「来年も、そして再来年も、こうしていたいね」
「だから、クリスマスの予定は絶対に空けておいて」
「毎年、同じなのは嫌かもしれないけれど、
俺はお前と一緒なだけで、十分だから」
「だから、来年も同じような日を過ごそうよ!」
そう言っていた彼は、半年前に車に轢かれて死んでしまった。
泣いた。 泣いた。
声を上げて、何度も何度も泣いた。
涙は枯れて、声も枯れて、
それでも出ない涙を振り絞りながら泣いた。
私にとっては、彼が全てだったから。
だけど、彼は戻らない。
泣けば泣くほど、彼を望めば望むほど、
彼の存在がそこにはないということを思い知らされる。
涙を拭う人は誰もいない。 慰めてくれる人は誰もいない。
私の母は、私を産んで死んでしまった。
私の父は、大学に入学する頃に死んでしまった。
姉弟はいない。 親戚も遠い遠い親戚しかいない。
所謂、私は天涯孤独な人間だった。
そんな私と彼が出逢ったのは大学2年の春のこと。
あの頃はまだ、独りで生きていくっていうのに慣れていなくて、
だけど、それでも誰にも頼らずに生きていくしかなかったら、
私は私なりに生きていた。 精一杯、私は生きていたつもり。
だけど、私が無理してたのがどこかでわかっちゃったのかな?
私を見かねて、彼は「友達を頼れよ」って言ってくれた。
私と彼は知り合ったばかりでそんなに仲良くはなかったけど、嬉しかった。
彼は困ったときに頼れるのは家族だけじゃなくて、
“友達にも頼っていい”ってことを教えてくれた。
だから、私は「ありがとう」と言って、徐々に彼を頼るようになった。
そして、しばらくして、彼から告白を受けた。
返事はもちろん「私も好きです」だった。
こうして、付き合うようになった私達。
お互いにお金はなかったけど、それでも毎日を笑って過ごせた。
たまにしか行けない遊園地に行っても、
彼は一人暮らしでお金がないし、私も独り身でお金がないしで、
お昼ご飯は、メニュー表の中で一番安いものを頼んでの割り勘だった。
だけど、そんなデートだったけど、中身が濃かったから楽しかった。
でも、そんな楽しかった毎日をくれた彼はもういない。
大学3年のクリスマス。
彼にデートに誘われた。
今までのデートとは違い、
彼は私に初めて「今日は俺の奢りでいいから」と言った。
いつもと雰囲気が違い、いつもよりもカッコよく見えた彼。
そんな彼を見て、『やっぱり好き』と思ってしまう私は、
果たして本物のバカなのか? それともアホなのか??
だけど、そんなアンポンな私を好きでいてくれる彼。
彼は私に「大学を卒業したら結婚しような!」って言ってくれた。
そして、「来年も、そして再来年も、こうしていたいね」っとも。
本当なら、特別な言葉はいらなかったけど、
今までの人生で一度も言われたことのない特別な言葉を言われて、
私は心の底から飛び跳ねるほど嬉しくって、涙を流してしまった。
「ありがとう ありがとう」
って、少し高めのレストランで、私一人だけが泣いていた。
それから半年後。
私はもう一度泣いた。 彼の死を目の前にして。
悲しかった。 彼は少しも悪くないのに。
世の中は理不尽だと思った。 相手の信号無視で轢かれるなんて。
だけど、何度願ったところで、彼が戻らないのは事実。
じゃあ、私はいったい、どうすればいいのか?
『そうか、 私は彼との約束を守ろう』
そう思ったんだ。
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大学4年のクリスマス。
私は、一人で待っていた。
来るはずもない相手。
寒い中で、私は彼の温もりが欲しかった。
だけど、それをどれだけ求めたって、まるで雪のよう。
融けては消える、私の儚い夢。
あるはずのないものを求める悲しさに、
私は押しつぶされそうになっていた。
10時になって、 去年は彼が来た。
だけど、今年は・・・大好きな彼は来ない。
わかっていたのに涙をこらえきれなくなった私。
涙が一粒、頬を伝う。
だけど、このままではいけないと思い、
グッと我慢をして、去年のデートコースを再び歩き始めた。
愛が永遠に変わるまで。。。