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対話録 『伊集院 兼人の発明について』

予告通り、解説回となります。

今回はロニーではなく、前回登場したアインと大国博士の会話という形式になっております。

地の文が一切無く少々みづらいかもしれませんが、ご了承ください。



「アイン。今日は、私が尊敬する研究者、伊集院博士についての話をしましょう」

「伊集院博士。最初の《頭脳型因子保有者ジーニアスタイプ・ファクト・ホルダー》ですね」

「そう。まぁ、そもそもまだ二人しかいない内の一人なんだけどね……彼はこれまで、いろいろな発明をしてきた。その一部を、貴方にも簡単にだけど話してみたくなってね。勉強会よ」

「分かりました、よろしくお願いします」


「彼の発明の中で最も世間的に認知されているものが、《因子再構築永久機関(Fact Rebuilding Eternal Energy System)》、略して《FREESフリーズ》よ。特定の組成、特定の密度、質量の物質に、特定の環境下で特定のエネルギーを加えることで物質の質量崩壊が発生し、それに伴って熱量が放出されるの。さらにその物質は、まったく元と変わらない状態へと再結合し、その際にもまた、膨大な熱量を生み出す。それにより、半永久的な分解、結合のサイクルが起こり、原子力発電に匹敵する大電力を継続的に発生させることができる。しかも、廃棄物も一切生じず、炉心融解の可能性もほぼない。

 具体的にどのような条件を揃えればいいのかということについては、博士が個人的に秘匿していて公表はされていない。私は知ってるんだけど、可能な限り誰にも言わないで欲しいと頼まれてるからね。貴方といえど話すことはできないわ。

 だけどまぁ、ヒントぐらいならいいでしょう。物質を留置しておく環境については、気温、気体の組成、水蒸気飽和度、気圧が関わっていて、加えるエネルギーは電気、可視光線、粒子放射線よ。それらをある一定の量だけ加えれば、《FREES》の反応は発生する。各数値の許容出来る誤差は、最低でも0.01%。少しでもそこから逸脱すれば、反応は起きなくなる。

 《FREES》による大規模発電所は今のところ、アメリカ、中国、ドイツ……あと最近ロシアにできたらしいわね。それと、我が国日本以外には建設されていないの。日本の方には実は小型の発電施設がいくつかあるんだけどね。何故もっと多くの国で建設されないのかというと、これだけの状況を、0.01%という誤差で再現できるだけの設備を、用意できる国が少ないという理由があるの。後は、博士が《FREES》の原理を公表していないから、彼の協力を得なければ到底発電装置を稼働させることができない、というのもあるわね。

 なんせ、気温、湿度、気圧を全て一定にして、複数のエネルギーを加えるというのだから、その組み合わせには天文学的な数がある。そもそも、もし電流を3.1415926……以下略A流しなさいなんてことだったらどうする? 小数点の領域に入れば、ただの人間の身でそのたったひとつの答えに辿り着くことなんて、人類が進化の果てに別の生物になったとしてもないでしょう。それほどの奇跡的な数値の組み合わせを、伊集院博士は仮説と理屈と閃きの果てに導きだしたの。いやはや、仰天するばかりねぇ。

 彼は《FREES》の技術を秘匿している理由を、軍事応用を避けるためと言っていたけど、本当のところは、ただ自分が産み落とした唯一無二の成果を、独り占めしたいだけなのかもね」

「とんでもない話です」


「で、彼の発明はそれだけじゃない。アイン、テレパシーってできる?」

「テレパシー? やってみます……んむむむむむ……どうです、聞こえましたか?」

「いや、全然……とまぁ、できないわよね? でも博士がなんと……」

「できるようにしたん、ですか?」

「そうよ。これを見なさい」

「手? これが一体……あ、いえ、この小さいの。これが……?」

「そう。この小型のチップを首のここ――延髄の直下に埋め込むの。これが大脳の言語野から発生した信号を読み取り、言語として解析する。それを衛星軌道上にある専用の通信衛星を中継して“言葉”を伝えたい相手の機器に送信する。そうすると、脊髄から信号を送ることで脳内で直接音声が再生される。鼓膜をまったく振動させることなくね。これにより、さながらテレパシーで話をしているみたいになるってこと」

「へぇー……すごい」

「利便性もなかなか良くてね。大脳から常時信号を読み取って、それを逐一どこかに送られていたんじゃ、プライバシーもあったものではないでしょう? だから、機器同士での通信を行うためのコマンドが用意されていて、それを頭の中で“考え”なければ、動作しないようになってるの。そうね……携帯電話で通話の画面を開かないと通話できないようなものよ。このおかげで、誤作動は限界まで少なくなり、快適なテレパシーが可能になった。しかも面白いことに、送られてきた信号の受信を拒否したり、特定の相手との通信を常時切断したり、指定した人がこの機器を取り付けているかどうか検索したりもできるの。こんなmm単位のチップに何をすればこれだけの機能を持てるようになるのかしら。これの原理こそ知りたいわ。

 確か名前は、《言語野通信装置(Language Area Communication Device)》、略して《LACD》と言うの。すでに実用化も可能な段階だけど。今のところはまだ、実際にこの装置を埋め込んでいるのは《先導会》の幹部の一部だけよ。

 私はいい、埋め込むつもりはないわ。肺から空気を吐き、声帯が震える実感を持ちながら人と会話してる方が、多分落ち着くと思うからね」

「私もです」


「で、後もう一つだけ紹介しておきましょうか。伊集院博士は……ホントにただただ眼を見張るばかりだけど、《因子》すらも制御することができる機器を発明したの。それが、《Fact Concentrate Device》、《FCD》。それが、これよ。なんか、SF作品の光線銃か、建設現場の釘打ち機みたいね。これを使えば、周辺に存在する《因子》を集めることができる。後は、《因子獣ビースト》として実体化させるなり、人体に宿して新たな《保有者ホルダー》を生み出すなり、自由にできるというわけ。どういう原理で動作するのかはやっぱり教えてくれないんだけど、効果が及ぶ範囲は最大で直径500km。大阪から東京まで行くぐらいの長さかしら? もっとも、最大距離付近では《因子》を惹きつける作用も弱すぎて、ほとんど意味がないんだけどね。後、効果を及ぼす範囲は自由に設定できる。500kmから10mまで幅が効くから、必要な範囲から必要なだけ集めるということもできる。ただ、集めた因子はもう一度分散することができず、そのままにしておくしかないっていうのが欠点かしら。

 まぁ、わざわざ道具を使って集めなくても、この研究所には、百を優に超える《因子》が存在しているけど」

「それって……」

「貴方が考えている通りだと思う。さて、本当に簡単に説明したけど、改めて伊集院博士がとんでもない人だということが実感できるわ。私も、あの人の前でだけは大きな顔はできないわね」


「でも、博士だってすごいですよ。私を生み出したんですから」

「それはそうかもしれない。でも、私個人としては、貴方をこの世に産み落としたのは、他でもない貴方自身の中にある要因だと考えている――まさしく“因子”よ。貴方が生まれたいと望んだから生まれたの、きっとね」

「そういうものなんでしょうか」

「そうよ。私がただひとつ伊集院博士にも自慢できることは、己の研究の成果が、この手を離れて自らの意志で生きているということ。貴方は、完成してなお成長を続ける、可能性と希望の塊なのよ」

「……そんなに言われるとなんだか、照れますね」

「大いに照れていいのよ。その分私が、貴方のことを誇りに思う……また気が向いたら、別のことを話しましょう。楽しみにしていてちょうだい」

「分かりました。待っています」



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