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Session.7 interrogation Part.2



 佐原の方に視線を移し、御剣が聞く。

「これ付けろって?」

 佐原が返事するよりも早く、すでに彼は慣れた手つきで、ピンになっている襟章をつけ始めていた。自分が《保有者ホルダー》であることを認めることに関しては、なにひとつ抵抗はなかった。

 彼が《保有者》である自分の身分を隠していた理由は、他にあった。すでにその片鱗は幾度と無く見せつけているが、彼は変人で狂人だ。世間一般的な常識、モラルよりも、自分自身のエゴを優先するタイプの人間である。

 佐原の声。

「そうだ。それでいい。それと、《保有者》のクラスへの転入の手続きも済ませておく。明日にでも、正式にこの特別棟の案内をしてやる」

 《保有者》はほぼ全員、特別棟で授業を受けている。となれば、新たに《保有者》として管理されることになった御剣もそのご多分に漏れず、というのも当然のことだ。

 だが、彼は知っていた。今の世の中、規律は絶対だ。しかし、規律にないことなら、何をやっても構わない。

「あ~。それなんですがね。もしよかったらなんですが、このまま、A組の生徒でいさせて欲しいんスよ。特別棟じゃなく」

「……?」

 その御剣の声に佐原は、意外そうに数秒ほど固まっていた。

 彼が何か応えるよりも早く、御剣は言葉を続ける。

「わがままを言っているってのは分かってます。ただ俺は個人的に、あまり《因子ファクト》ってのに関わっていたくない。できれば、普通の人達と一緒にいたいんです」

 あやめにも言った通り、《因子》の力を使って二年生四人に軽傷を負わせた人間が言えることではない、というのは御剣自身分かっている。

 この言葉に誰より敏感に反応したのは佐原ではなく、椅子に座っていたおかっぱで眼鏡の女子だった。自分自身、不遜だと自覚している御剣の態度に苛立っていたところを、この発言で我慢の限界に達したのだろう。

 椅子から立ち上がり、神経質そうな声で叫ぶ。同じ一年の御剣に叫んでいるのに、何故か敬語だったが。

「あのですね! 貴方にそんな主張をする権利があるわけないでしょう。《Cランク保有者》を三人病院送りにしただけでも結構な問題なのです。そんな人を一般生徒の近くに置いておけるわけが……!」

 全て言い終える前に佐原が、「まぁ待てって」と制した。

「副会長?」

「実を言うとこの学校の規則に、《保有者》は必ず専用のクラスに入り、特別棟で授業を受けなければならない、ってのはない。あくまで入学時に希望した者が特別棟に入るってだけで、実は一般生徒と一緒にいることは問題でもなんでもないんだよ」

 その説明に、おかっぱとは別の新入生、ガタイのイイ“プロ”風の男が続く。今まで黙り込んでいたのに、隣の奴が声を出した途端自分を話し出すあたり、『ぼくもまぜてー』的な茶目っ気があるが、その“人間ウーファー”みたいな低い声が、そんな茶目っ気を吹き飛ばす。

「特別棟は別に、《保有者》を一般生徒から隔離する目的であるんじゃない。ただ、《保有者》の能力に合わせた、より専門的で高度な授業を受けさせるための場所だ。隔離しようとしたところで、同じ敷地にいる以上、悪さする奴は必ず出てくる。昨日の夏目がそれだったんだ。とはいえ、まともな《保有者》なら、授業のレベルも並、設備も比較的良くない、その上どうしても警戒されて眼を付けられるリスクまで負って一般棟で勉強する奴はいないけどな」

 辛辣ではあるが、“低い”とか“悪い”と言わない辺り、中々紳士的で好印象な男だ。

 彼の説明も踏まえ、佐原が再び言う。

「と、いうわけだ。それにな、さっきも御剣くんが言ったが、ある程度しょうがないことだと思う。相手が凶器まで持ちだして囲ってきたんだ、多少の怪我はさせても、自分の身を守らなければならんだろう。それに、こいつは《Aランク》なんだ。ヘタすれば相手を意識不明の重体にしてもおかしくないところを、全治何ヶ月の怪我で済ませたあたり、よく手加減してくれたんじゃないか? まぁ、砕けた鼻が元通りになるかは分からんし、若くして入れ歯しなきゃならん奴もいるわけだがね。後の検査で脳に障害が出ればそれこそ問題だ」

「それはまぁ……そうです」

 そこまで聞いて、おかっぱ頭は納得したらしく、再び席についた。とはいえ、生徒に怪我をさせたのは確かなのだ。御剣を睨む目つきは変わらない。

 御剣としても、変な後遺症は出ないようにボコっていたのは確かだが、顔面の形がちょっぴり変わるようなことになったら、少しだけ可哀想だな、と僅かな罪悪感を抱く。夏休みに友達からゲームを借りて、その内と返すと言いながら結局夏休みが終わるまで返さず、友人にそのゲームをやらせてやらなかった小学生ぐらいの罪悪感でしかないが。

 それはともかくとして、彼のただひとつネックだった望みが叶いそうな雰囲気になっていたので、ひとまず安心できそうだ。

 佐原も、「そういうわけなんで、自分としては、彼の要求も聞き入れてやっていいんじゃないかと思ってる」と言っている。

 が、その矢先のことだった。


「しかし、だ」

 そう短くつぶやいてから、またしても彼は御剣の方へとにじり寄ってきた。ゆっくりと一歩一歩足を踏み出しながら、演劇でもしているような調子で言う。

「人を三人――いや。っていうかこの間違い何回すんだ自分……人を四人も病院送りにしてるのは、正当防衛とはいえ簡単に容認していいことでもない。それに、喧嘩した後誰にもなんにも報告せずにそそくさと帰ってる辺り、疑ってかからないといけないところもあるんだよなぁ。これでもし一般棟でなんかやらかしたら、今度こそ取り返しのつかないことになる。仮にこいつに、“そういう目的”があるとしたら……」

 再び、彼の顔が間近に迫った。その顔には、笑みはなかった。海の底、地殻の奥底どころか、それを突き抜けて宇宙の果てにまで届くのではないかというほどの深淵を湛えた瞳が、御剣を見据えている。

 同じだ。はじめから曖昧には感じていることだったが、この佐原も御剣と同じだ。一度解放されれば、全てを破滅させて余りある狂気を湛えていた。人間を超越した力を持つ者にしか分からないものが、そこにはあった。

 そして彼は、決して《因子人ファクトリアン》ではない。同じ人間に宿る狂気は、ある種ヤツらよりも恐ろしいものだ。

 さすがの御剣も、息を呑んだ。

 そして、これで終わりではない。

 彼は次いで、喉元にじわりとした熱が当たっているのに気づいた。

 佐原が、右手の人差指を御剣の喉の左側に突き立てていた。指と喉の間は5cmほど空いており、その隙間を埋めるように、小さな黒い球が浮いていた。先ほど御剣の目の前に飛来したあの黒球と同じものだ。

 その存在を感知すると同時に、同じ黒球が、膝の上においてあった両手の甲、両上腕のそれぞれ外側、前腕中央のすぐ上、足首の前、ふくらはぎの両脇、胸と腹の前にあるのに気づいた。

 息を呑むどころではない。こめかみから冷たい汗が流れた。

 佐原が、目の前にいるからこそ聞こえる程度の小さな声で言う。

「分かったな? 今からこいつらの熱量を上げる。《Aランク》と言っても、数秒当てられれば火傷する程度にだ」

 そこまで聞いて分からなければ、馬鹿だ。御剣は、いっそ敬意にも辟易にも似た脅威を、久しぶりに味わった。

 さすがの彼も、いつもの気の抜けた声は出せなくなっていた。

「……俺はただ、自分の希望を言っただけッスよ? それでここまでやっていいんスか?」

「いいんだよ。“この学校の中”では、俺は“トップ2”だ。あの人が認める限りは何したって許される。そしてお前さんも《Aランク》だ。それだけで要注意人物になるんだよ。お前さんがどれほどの人間か、ここではっきりしとかなくちゃならねぇ。取り返しのつかないことになってからじゃ遅いんだ……いいか、御剣 誠一、もう一度聞くぞ? お前は本当に、今のままA組にいたいんだな? 答えは『はい』か『いいえ』」

「……はい」

 御剣が応えた瞬間だった。彼は、自分の喉に激痛を感じた。それは、熱さのために生じたものだった。喉に当たっていた黒い球が、その熱量を上げたのだ。おそらく1,000℃は超えているだろう。並の人間の皮膚なら溶けるほどの高熱だ。

「うぅ……ッ!」

 御剣は、歯を食いしばって呻いた。思わず佐原の腕を引き離すために手が動きそうになるが、それもできない。すでに全身同じ黒球に囲まれている。下手に動けば、高熱のエネルギー体が身体に食い込み、骨まで焦がされることになる。

 佐原は、御剣の真意を確かめようとしているのだ。この得体のしれない一年生が無害なのか、本当に何の悪意もなく、本人なりの理由があってA組に残るというのかどうかを。彼のこの希望が、どれほど“本気”なのかを、自らの《魔導型エンチャントタイプの力をもって。

 だとしても、これは異常だ。いくら喧嘩で相手を入院させるような者とはいえ、ただ『クラス替えしたくありません』程度のことを言っている生徒にこれだ。最早これは、質問でも尋問でも、ましてや要請でもない。拷問だ。

 しかし、これだけやらなければならないのが《Aランク》だ。《Aランク》が普通の人間といる。それがすでに、大量虐殺の危険性と同居しているのである。彼らは撫でるだけで人を殺せる。撫でるだけで皮を剥ぎ、肉を抉る。それを、決して現実にさせてはならない。同じ《Aランク》に相当する力によって、出る芽は摘み取り、杭は打たなければならない。佐原は狂っていると同時に、それが分かっている人間だった。

 おそらく、痛みによって考えを改めさせ、無理やり特別棟行きを選択させるという目論見もあるのだろう。腹に一物抱えているような者なら、それを諦めさせる、ということでもある。

 おかっぱ眼鏡が、さすがに困惑した様子で、「副会長、そ、それはいくらなんでも……やめてください!」と、彼を止めようとする。

 しかし、

「お前さん達は何も言うな」という有無を言わさぬ声が、意見をかき消す。

 御剣もまた、彼のその真面目すぎる流儀に応えることにした。自分は、身を守るためでなければ、絶対に悪意をもって人を傷つけたりはしない。それを、痛みに耐えることで証明するのだ。

 もっとも、何故痛みに耐えてまでA組に――あやめや友野達のところにいたいのか。その理由は誰にも分からないだろう。御剣自身が、彼の胸の内にあるものをさらけ出さない限りは。


 常人には到底理解できない“潔白の証明”が、今始まった。

 佐原が言う。その声は、わずかに興奮しているように聞こえた。

「もう一度聞くぞ。お前さんは、A組にいたいんだな? 普通の人間といたい。そこには何の悪意もないんだな? お前にとってそれは、重要な望みなんだな? 『いいえ』と言えば解放してやるぞ。だが、『はい』と言えば、今度はこのまま首の骨を焼いてやる。脊髄が黒焦げになっても知らねえぞ。それとも、脳みその表面スレスレを炙ってほしいか。焼けない程度に神経を熱して、痛覚を直接ジリジリやってもいいんだぜ」

 ここで、手足が焼けるのも構わず黒球の拘束から抜け出し、佐原を殴り飛ばすことはできる。が、そんなことをすればそれで終わりだ。クラスがどうこう以前の問題になる。

 今はひたすら、皮膚が焼かれる痛みに耐える。それが、今御剣がやるべきことだった。

「……はい」

 呻くように応えると共に、痛みが広がった。宣言通り佐原の指先が少しずつ動き、それに伴い、黒球による莫大な熱量が移動している。首の後ろ側、脊椎を焼こうとしている。

 なおも歯を食いしばり、耐える。耳元で響く佐原の囁きが、鼓膜を揺らす。

「無理してこの場を切り抜けたってな。万が一、一般生徒に危害を加えてみろ。《因子法》には、重犯罪を犯した《Aランク保有者》は、同じ《Aランク》が処刑してもいいって書いてある。この学校にはお前さんなんぞより強い《保有者》は何人でもいるんだ、自分を含めてな。すぐにでもお前さんをぶっ殺してやる。どんなに上手く隠そうと無駄だ、こっちにはすでに“対策”があるんだぜ。悪いこと考えてるんなら、今のうちに『いいえ』と言っといた方が身のためだぞ」

 そのやけに細かい台詞が、彼の《Aランク》の脅威に対する理解と、罪もない生徒を守ろうとする気概を表していた。イカれたほどやりすぎているというだけで、彼は実直な人間なのだと感じられた。飄々とした態度に反して。

 だからこそ御剣は、熱気と痛みを甘んじて受け入れることにした。自分に悪意がないからこそ。

 どうせ一時のことだ。こういう男に付き合ってみるのも悪くない。

 黒球はさらに移動を続け、とうとう、脊柱に触れたのが分かった。骨が焼かれているのがはっきりと感じられる。脊髄まで後数mm。少しでも押し込まれれば、首から下が動かなくなるかもしれない。最大規模の痛みが御剣を襲う。

「ううぅぅぅ……!!」

 飛び上がりそうになるところを必死に堪え、身体が小さく痙攣する。それでも、横からこちらをじっと睨みつける佐原の眼を見返すことはやめない。一瞬足りとも、視線を外しはしない。

 うめき声を上げる御剣に、彼がさらに囁く。

「中々強情だな。一体なんでそこまで普通の人間の輪の中にこだわるんだ? 何か理由があるんだろう。聞かせて貰いたいもんだ」

「それは、言えない、ッスねぇ……」


「……へへッ」

 不意に、佐原の顔が遠ざかり、首筋から指先が離れた。熱の余韻に苛まれながらも、彼の背中を見据える御剣。

 ゆっくりとさっきの位置へと戻りながら、彼は振り返りもせず、背中を向けたまま言った。

「分かった。分かったよ。正直ここまで頑なだとは思わなんだ。お前さんのことを信用しよう。このまま引き続きA組にいるように、会長さんに頼んでみる。あの人のことだ、多分通してくれるだろう」

 これで、拷問まがいの交渉は終わったらしい。おかっぱ眼鏡は安心した様子でほっと一息つき、“プロ”の方は、『何を考えてるのか分からない』と言いたげな眼で佐原の方を見ていた。

 と、急に彼がくるりと御剣の方へ振り返ると、軽く両腕を広げた。『胸に飛び込んでこい』とでも言いそうな格好だ。しかし彼の場合、飛び込んでもらうのは胸というより“顔面”らしい。

「酷いことして済まなかったな。このままこっちが一方的に傷めつけたんじゃ示しがつかん。さ! 自分を一発殴れ。本気でいいぞ。なんなら殺す気でこい」

 おかっぱが思わず、「はっ!?」と声をあげた。御剣の方もさすがに眼を点にする。“プロ”は相変わらずの鉄面皮だが。

「《Aランク保有者》の危険性を見極めるためには、多少痛めつけるぐらいしなきゃならんが、彼がまったくやましいところのない善良な人間だとしたら、自分はそんな人間を一方的に“根性焼き”したワルモノになってしまうだろ。そうならんためにも、こっちも痛い目を見て“おあいこ”になろうって言ってるんだ。みろ、首に真っ黒な線が引いてあるだろ。ちょいと熱量を上げすぎた。ありゃしばらく消えないぞ」

 彼の言うとおり、御剣の首には、火傷による痕で赤黒い線が引かれていた。組織が炭化する寸前、という程の酷さだ。《Aランク》は組織の回復力も人間離れしているので、時間が立てばこれほどの火傷も完治するが、常人ならおそらく一生治らない。

 それほどの負傷を見れば確かに御剣に同情したくもなるが、それでも佐原の考えは理解できない。

「な、なんでそうなるんですか……」

「お前さんはもうしばらく静かにしてろ。全ては御剣次第だ。どうするね?」

「……」

 確かに、ある意味では理にかなった言い分ではある。それに、まだはっきりと残っているこの首筋の痛みを、合意の上で仕返しできるとあれば、この機会を逃すつもりもなかった。

「ホントにやっちゃっていんスね? 殺すつもりでもいいって言いましたよね?」

「そうだそうだ。殺っちゃえセーイチ。あなたをいじめるなんて胸クソ悪いやつ! 代わりにわたしがバラバラにしてやろうか」と、ロニーが囃し立てる。

 やめとけ、と心の中で言いつつ、佐原の返事を聞く。

「ああ、いいよ。男に二言はないし、俺は男だ」


 瞬間、彼の顔面に御剣の拳がクリーンヒットした。合意を得たなら話は早い。有無を言わさず、さっさとぶん殴ってスッキリすることにしたのだ。

 佐原はそのまま盛大に吹っ飛んで教室の壁に叩きつけられ、落ちるように床に座り込んだ。彼の望み通り、身体をバラバラに四散させるつもりで殴った。せっかくの特別棟の教室を壊さないように、物理法則にちょいと細工はしてあるが。

 しかし、モロに当たったはずなのに、何故だか手応えをほとんど感じなかった。佐原とは違う何かを殴ったような感覚がした。その原因は、なんとなく察しがつく。

 《特殊型エクストラタイプ》は、あくまで身体能力や反射神経はそこらの常人と同じだ。突然佐原の身体が吹き飛んだのに唖然としていたおかっぱが、数秒遅れて凄まじい剣幕で怒鳴り立ててきた。

「ちょ、ちょっとーっ! ホントに殴る人がいますか!」

そのまま《Aランク》であることもお構いなしに御剣に飛びかかりそうな雰囲気だったが、またしてもそれを佐原が宥めた。その声は、小学生が全力投球したボールぐらいには勢い良くふっ飛ばされたわりには、余裕綽々といった印象だった。

 実際、壁際で座っている彼を見てみると、頬が赤く腫れているぐらいで、それほどダメージは負っていないようだった。《Bランク》以上の《魔導型》に備わっている力、“サイコキネシス”を、自分の身の回りに包み込むように展開し、衝撃を押し返すバリアーにしたのだ。打ち消しきれない衝撃が頬を腫らしたが、それでも、ほとんどの衝撃波相殺できているようだ。

 どうやら先程の佐原の言葉に偽りにはないらしい。彼自身を含めて、この学校には御剣以上の《保有者》はまだまだいるようだ。

 片や中枢神経を焼かれる寸前までいって、片や顔半分がおたふくみたいになるだけというのはどうにも癪に障る気分ではあるが、これで“おあいこ”だ。

 佐原は徐に立ち上がりつつ、すっかり元のだらしない口調に戻っていた。やることをやると腑抜けに戻る辺りも、どことなく御剣に似ている。

「さぁ~てこれで終わり、一件落着……とはいかない! 最後にちょいとだけ、説明しとかにゃあならんことがある」

 まだ何かあるというのだろうか。多分もう痛い思いはせずに済むと思うが。

「実を言うとな、お前さんがさっきみたいなことを頼むってのは、想定していたことだったんだ。想定してただけで確率は超低かったけど。で、その時のためにこのふたりを用意していた。ちょっと立ってもらおうかな」

 そう言われて、おかっぱと“プロ”が椅子から立ち上がった。そういえば、何故このふたりがここにいるのか分からなかったが、これから佐原が教えてくれるようだ。

「言ったろ? “対策”があるって」



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