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Session.7 interrogation Part.1



 放課後、心配するあやめをひとまず帰らせて、生徒会副会長の佐原との約束を果たし中庭で待っていた御剣は、フラフラとだらしない足取りで近づいてくる人影に気づいた。佐原だ。

「ん。約束を守るってのは社会で生きていく上で大事なことだ。当然のことながら、エライエライと褒めてやろう。さ、行こうか」

 その言葉を合図にそそくさと歩きだす彼の後ろについていきながら、《保有者ホルダー》専用の校舎――特別棟へと向かう。


 途中、不意に佐原は歩くペースを遅め、御剣の隣に並んだ。何事かと思う間もなく、気さくに話しかけてくる。

「あ、そうそうそう。そういえばお前さん、なんか気づかないかね?」

「……はぁ」

「何も気づかない」

「何か、ねぇ」

 唐突な質問に狼狽えず自然に思案する辺り、御剣も正常とは少し離れたところにいる人間だ。佐原と同じく。

 彼の問いに対する応えを考えた彼は、すぐにあることに気づいた。

「あ、そうだ。先輩、あんたは確かに生徒会副会長やってるんですよね?」

「んむ、そうだ」と頷く。

「でも、まだ俺達が入学して間もないし、普通そういうのの役員って選挙とかして決めるものじゃないッスか? なんでもう副会長が決まってるんです?」

「そ! それだ」佐原が御剣の方へビシッ、と指差す。そうして、続けた。

「その疑問にお答えしよう。実はね、もう卒業した前任の生徒会長さんが、新入生が入ってくる前に、副会長を推薦して選挙なしに会長にしたんだよ。えらくその人のことを信頼してたんだねぇ~。んで、その時に今の会長さんが自分を副会長にするように進言したんだ。それがあっさり通って生徒会のメインポジションが一気に決まって今に至る、ってわけさ。自分もまたその人から信頼されていたってわけだねぇ、へっへッ。『そんなのアリか』って思うだろうが、『アリ』なんだよ。この学校ではね。自分はともかく、会長に関しては選挙したって同じ結果になってたろうしな」

「え~、つまり先輩は、『自分が仕事熱心で優秀な人間』、と言いたいわけですね」

「えぇ~? 別にぃちょっと話したかっただけだよォ~ん。ま、少なくとも会長は優秀な人間だよ。この学校では間違いなく、ダントツのぶっちぎりでな」

「ふぅ~~ん」

 御剣としても、噂では聞いたことがある。

 この葦原高の歴代の生徒会長は皆、理事長を除けば実質学校の全権を握っている最高権力者であったと。それは今期においても例外ではないらしい。《保有者》による問題行為を厳重に取り締まっているのも彼ら生徒会であり、《保有者》と非保有者が同じ敷地内におり、いつ差別と優越感のために学級崩壊を超えた“学校崩壊”を起こしてもおかしくない状況で、快適な学校生活を維持している“メインシャフト”と言ってもいい。

 それほどの立場なら、確かに後任の生徒会役員ぐらい、自分一人で決められてもおかしくはない。

 なんとなくだが、御剣はその生徒会長に会ってみたくなった。

 とはいえ、それはまた別の機会になるだろう。今はまず“副会長”だ。


 数分後、ふたりは特別棟の前に到着した。清潔さと真新しさに包まれてはいてもあくまで“学校”であった一般棟に比べて、この特別棟は最早“校舎”と呼んでいいのか疑問だった。どちらかと言えば、“ビル”だ。中に入れば何十人という背広のビジネスマンがひしめき合っているのではないかと思える。とはいえ、高さ自体はそれほどでもなく、いざビルとして見てみるとむしろ貧相なほどだった。こちらもあくまで“学校”以上の機能は持ち合わせていないのだろう。

 なにはともあれ、中に入る。ご丁寧に入り口は自動ドア、下駄箱は電子ロックどこらか静脈認証だ。わざわざそこまでするか? 上履きなど持ってきていない御剣は、とりあえず来賓用のスリッパを手渡される。

 そのまま一般棟の二倍は広い廊下を渡って、とある教室に案内される。こちらの出入り口もご丁寧に自動ドアだ。中には、椅子も机も一切なかった。ホワイトボードすらない。とてもではないが、高校生が勉強する空間には見えなかった。

「……」

 ぽかんと部屋の中を見渡す御剣の方を見て笑いながら、佐原が出入り口からすぐの壁にあるパネルを操作しながら、

「ま、驚かんでくれよ」

 その声に続いて、床面の一部がスライドすると、その下から椅子が音もなくせり出してきた。地下に格納されていたようだ。おそらく机やホワイトボードにしてもそうだろう。

 なるほど、こうすることで教室のスペースを広く取り、必要な時には多目的ホールなどにもなるというわけか。特別未来の技術というわけでもないが、こういうことを当たり前のようにできる辺り、この特別棟に多くの予算がつぎ込まれていることが分かる。

 と、そんなことに感心するような御剣ではない。彼はこの教室に入ってきてから、二人の先客がいることに気がついていた。今しがた用意された椅子から離れた場所に、並んで座っている。

御剣と同い年ぐらいの、男と女。両方の襟には、銀色の四角形の右側に二本の青銅の縦線がはしっている襟章が見える。心なしか軍隊の階級章みたいだ。《特殊型エクストラタイプ》――《騎士型ナイトタイプ》にも《魔導型エンチャントタイプ》にも当てはまらない《因子ファクト》の《保有者ホルダー》であることの証明だ。

 男の方は、短髪とガタイの良さに似合った細く凛々しい眼でこちらを見据えている。立てば2mも超えるのではないかとすら思えるほどだが、それはさすがに誇大表現だろう。

 おかっぱ頭の女の方も眼鏡の向こうの丸い大きな目でこちらを睨んでいる。御剣も、その場で立ったまま、二人の目を交互に見返す。

 と、隣で佐原が言った。

「あいつらは、自分が眼をつけて生徒会にスカウトした新入生。つまりはお前さんの同級生さ。後日正式に役員になる予定だ。つまりは会長と自分の部下ねェ~ん」

「……ホントに早いんスね。これで四人スか。生徒会」

「あのふたりは執行部になるだろうがな。面白い《因子》を持っとるんだぜ? ほらほら、お前さんも座りな」

 御剣に、用意した椅子に座るように促す。あれはこちらの為に用意したのか? と聞く前に、彼は手をひらひらと振った。

「あぁ~、自分はいいよ。あれはお前さんのために出した椅子だ。遠慮すんな。こっちはそこら辺をウロウロしとくからさ」

 とりあえず、言われるがまま、プラスチック製の椅子に座る御剣。いざ座ってみると、ふたりの《特殊型保有者》の視線はさらに近くなり、威圧感を増した。同級生ということは、まだここに入学して間もないはずなのだが、すでに“お役人”チックな雰囲気が満ち満ちている。特に男の方など、いわゆる“プロ”に見えるほどだ。

 御剣が座ったことを合図に、佐原が彼の回りを、本当にウロウロとせわしなく動き回りながら話し始めた。場の緊張感が徐々に増してくる。“尋問”の空気だ。

 しかし、こんなことでたじろぐ御剣ではない。

 「さ~て、そんじゃ早速始めよかなァん。昨日の晩、夜勤の教諭が一般棟の屋上で三人の生徒が気絶しているのを見つけた。三人とも《Cランク騎士型》だ。どうやら喧嘩した後みたいで、結構な怪我をしていたので救急車を呼んで病院に担ぎ込んでもらった。ひとりは鼻の骨が折れ、ひとりは前歯二本が抜け上顎部の腫れが酷く、ひとりは軽い脳震盪を起こしていたそうだ。生命に別状はないんだが、念のために数日入院して検査してもらうらしい。で、今日教諭がこんな事態になった経緯を調べるために、彼らに話を聞きに行った。喧嘩をしてたってことは当人達も認めたよ。とはいえ、怪我の具合から分かるようにかなりソーゼツにやり合ってたらしい。残念なことに誰ひとり細かい経緯を覚えていないんだ。一時的な記憶喪失になっていたんだねぇ」

「……」

 御剣は黙してそれを聞く。もっともらしく、『一体何を言ってるんだろう?』という演技はしない。どうせしても意味が無い。佐原は分かっているのだ。今自分が話している事件に、御剣が関わっていることを。

「だが、喧嘩が始まる以前の記憶においては、三人ともしっかりと覚えていた。彼らは言っていたよ。『夏目 貴靖からの指示で、御剣 誠一をボコるために屋上に呼び出した』、ってね。三対一……いや、夏目本人もいたそうだから四対一か? それなのに、彼らは記憶がぶっ飛ぶほど派手に返り討ちに会い、お前さんはこの通りピンピンしている。現場には鉄パイプ、金属バット、バタフライナイフが落ちていた。立派な凶器だな。三つあることから考えると、みんな《Cランク》達が用意したものだろう。凶器まで持ち出すとは、明らかにリンチ目的だったんだな。ひっでえ話だよなァ? とりあえずあいつらとは後日、今後の学生生活についてきっちり話をつけるつもりだよ。しかしまぁ、それはひとまず置いといてだ」

 御剣の周りをぐるぐると歩いていた佐原が、不意に背後で立ち止まった。そうして、ゆっくりとその背中に近づいてくる。やがて、ほぼ真上から彼の声が聞こえてきた。

「それなのに、返り討ちにあったのは彼らの方だ。武装したヤンキー三人、いや四人だったか。四人相手に勝つなんて、無理だと思うんだよなァ自分は。いくら《因子法》に触れないために、身体能力は抑えてるっつってもな……なのに、お前さんは勝った。違うとは言わんよな?」

「……そッスね」御剣は軽く頷いた。

「もう一度言うが、武器を持った人間四人に勝つことなんで、到底無理だ。しかし、この現代日本においてはひとつの例外がある」

 そう言ってから佐原は座っている御剣の右からぐるりと回りこんで、その顔を間近で覗きこんできた。鼻と鼻がぶつかるほどの距離にまで、彼の笑みが迫る。その笑みは、昼休みの時のだらしないものとは違った。“不敵”という言葉の実例を絵で見せたような顔だ。

「聞きたいことはふたつある。まずひとつ。お前さん、《保有者》だろ」

 いっそ“予定調和”だ。こう質問してくるのは分かりきっていた。御剣は、ほんの数秒間を置いてから短く応えた。

「……そッス」

 その返事を聞くなり、佐原の笑顔が一気に離れた。まず一つ目の質問が終わり、次の質問に移ろうというのだろう。その質問の内容というのも、御剣にはすでに予想できていた。

 また、佐原は彼の周りをウロウロと歩きまわる。


「さァ~てそんじゃお次~。ここで自分らとしてはある疑問を抱く。お前さんには分かっとることだろう? 連中は夏目を含め、“四人”でお前さんを呼び出した。なのに、教員が夜中に発見した時は、“三人”しかいなかった。夏目が見つからなかったんだ。彼は、次の日の早朝に公園のベンチで気絶しているところを見つけられたよ。腕の骨が折れていたんで、発見者が救急車を呼んで搬送してもらった。鼻の骨も折れていたそうだ。救急車の中でようやく目覚めて、随分痛がってたってよ」

「……」

 腕が折れていたというのは、実は御剣としても昨晩の時点で分かっていることだった。あのまま気絶していた夏目を病院に担ぎ込んでも良かったのだが。一緒にいた自分があれこれ厄介なことに巻き込まれると面倒だということで、ほったらかしにしていた。腕の骨が折れただけで死にはしないだろうし、例え《因子人(ファクトリアン)》に半ば精神を支配されているといっても、自分をリンチしようとしていたということもある。その囁かな仕返しのようなものだ。

 面倒くさいという理由と仕返しのために骨折した人間を放置するというのも、ある種狂気の沙汰である。彼の考えを今あやめが知ったら、呆れ返って平手打ちでも飛ばしてくることだろう。

 と、そんなことは露とも知らず、佐原は続ける。

「その腕の骨折の原因は何か……それを追求するのも大事だ。しかし、もっとも重要な問題が発生してしまった。分かるか?」

 唐突に聞いてきたので、御剣は短く、「……いえ」と返した。勿論この回答は嘘だ。

 一呼吸を置いてから、佐原は再び口を開いた。

「彼の中の《因子》が、なくなったんだよ。夏目は《Bランク騎士型》だったんだが、検査したところ、《騎士型》特有の身体的な特徴が、まったく見られなかった。骨折してるんで運動量とかはどうしようもないが、視力や神経系の機能については間違いない。常人と同じだった。《保有者》じゃなくなったんだ」

「……」

 一応、驚くような素振りは見せておく。彼の語っている事態は、それに値するものだからだ。その理由を佐原が語る。

「《保有者》が《因子》を失うという事例は、なくはない。しかし、非常に稀だ。原因もよく分かっていない。《因子》を失った《保有者》は、同じく原因不明で、かつ重度のPTSDになって、《因子》を失うことになった経緯についての記憶を失ったり、拒絶反応を示しておるんだ。夏目にしてもそうだ。自分が何故こんなことになっていたのか、何故公園のベンチなんぞで寝ていたのか、まったく分からないそうだ。自分の腕が折れたら普通すぐ病院いくだろ? 気絶したから仕方ないんだろうが、だったら何故丁寧にベンチの上でポックリいったんだ?」

 再び、佐原が立ち止まった。今度は、御剣の正面だ。先程と同じようにゆっくりと歩み寄ってきた彼は、御剣の肩に両手をのせ、顔をぬっ、と近づけてきた。彼の、“御しがたい”とひと目で分かる眼光が、間近で見える。

「二つ目の質問だ――いや、二つ目と三つ目だな。夏目の腕を折ったのはお前さんか? そうして、何故彼が《因子》を失ったのか、分かるか?」

「……腕は折ってません。ただ、鼻の骨を砕いたのは俺ッス。なんで夏目先輩が《因子》をなくしたのかは、見当もつきません。そりゃあ、先輩と喧嘩したのは確かだし、疑うのはよく分かりますけど……」

 スラスラと、淀みなく応えた。

 《保有者》が《因子》を失う。それは間違いなく《因子人》の仕業だ。そうあやめにも説明した。

 《因子人》の多くは、自由に実体化できるようになった後は、元の宿主を殺すか、気まぐれで生かすかする。生かされた宿主は、精神が半ば《因子人》に支配されていたため、解放されても記憶の一部が欠如する。

 御剣もそれを知っていた。例え嘘をついても、夏目本人が何も知らないのであれば、足は付かないと考えていた。それでまず間違いない。

 その絶対的自信に裏付けされた眼を、しばらくの間じっと見返す佐原。長い沈黙に緊張したというわけではないが、御剣は申し訳なさそうに苦笑いしながら、言った。

「あ、あはは……喧嘩がよくないことっていうのは分かってます。でも、向こうから仕掛けてきたんだから、しょうがないでしょう。正当防衛でしょお?」

 その言葉は、ある種次なる尋問への誘導であるとも言えた。

 そう。ボコボコにされたくないから、相手を返り討ちにした。それで問答無用の有罪になるほど、日本の法律というのは非道ではない。

 しかし、この御剣の言葉には大きな問題点があった。

 先程も佐原が言っていた。武器を持った《Cランク》と、《Bランク》の《騎士型》を相手にして、まともな人間には勝ち目などない。しかし、御剣は勝った。しかも、身体の丈夫さも非保有者アンホルダーとは桁違いの《Bランク》の、鼻骨を砕いたのだ。

 それが意味することは、たったひとつである。


 佐原が再び顔を離し、御剣と距離を置いた。が、もう周囲をウロウロしたりはしない。正面の位置をキープしたまま、彼はまた語りはじめた。

「次の質問……じゃあない。質問はふたつって言ったろ?――みっつだったけど――これは質問じゃなくて“要請”とも言える。 単刀直入に言おう。お前さんは《保有者》だ。この学校では、《保有者》は襟章をつけて非保有者とは別に扱われなければならん。が、お前さんは一般生徒としてここに入学してきた。入学時に確認した住民登録は偽装したものではないようだし、《先導会》のデータベースに問い合わせてみたところ、御剣 誠一の名前も見つけられなかった。だが、お前さんは間違いなく《保有者》だ。これから、《先導会》に報告してデータベースに登録してもらわねばならんし、襟章もつけてもらう必要がある。とはいえ、だ。そのためにもまず、お前さんがどの《因子》なのかを確かめにゃあならん。《Cランク》ではないだろう。夏目と互角以上にやり合うには、《Bランク》以上でなければなぁ。しかし、“もしかしたら”……? ということもある」

 佐原が、にやりと笑った。まさしく不敵。その襟に輝く金の五芒星の不気味さに似合う、自信と矜持に満ちた《Aランク》の顔だ。同じ《Aランク》としての勘が、御剣の肉体にエネルギーを送り込む。筋肉が緊張し、四肢が強張る。

 その瞬間だった。

 眼の前が真っ暗になった。全ての照明も、太陽の光も、星の光さえも消え失せたように、全てが漆黒の中に消え失せた。

 いや、違う。光が消えたのではない。


 迫っているのだ。

 闇が。


 御剣は咄嗟にその場から右へ飛び退いた。蹴り飛ばされた椅子が、床面を転がる。何かが、じわりとした熱と共にこめかみをかすめて通り過ぎていった。暗黒に転じた視界に、光が戻った。

「素早い! さすがセーイチ」という声が、どこからともなく聞こえてくる。

 言わずもがな、ロニーの声だ。

 片膝立ちの姿勢で身構えた彼は、今しがた“それ”が通過した方へと眼を向けた。すぐに、先の一瞬全てを飲み込んだ闇の正体が、判明した。

 黒い球型の塊だ。コンパスで引いたように整った形の、一切光沢のない黒一色の球、それが、先ほど御剣がいた場所をゆっくりと上下しながら浮遊していた。

 本当に、まったく色調に変化がない。黒一色、光の反射すらもない。カンバスに塗りたくった黒い絵の具よりもなお黒い。まるで網膜に空いた穴のようだ。あらゆる光を飲み込んで、その漆黒を絶対に覆そうとはしない。

 あれは、物理現象から切り離された領域に存在している。

「何アレ? キレイだねー」

 と、ロニーが脳天気な台詞を口にする。

「あんなの見ると、わたしも“あっち”になりたかったなぁ~、って思っちゃうな」

 その台詞に応えたくても、“空気とお話する可哀想なヤツ”と思われたくないので無視する。御剣はもう一度、悠然と立つ佐原 刃一郎を見た。その襟に輝く金色の五芒星を。

 不意に彼が、拍手し始めた。拍手、というには間隔が大きすぎる。どちらかというと、ライブで観客がする手拍子のように聞こえた。

「いや、見事! いきなり驚かせてすまんな。お前さんが予想しているであろう通り、その黒い球は自分が作ったエネルギーの塊だ。この襟章を見れば、あれこれ説明する必要はなくなるだろう。《Bランク》では避けられない速さで撃ちだした。心配いらんよ。熱量自体はほとんどない。せいぜい“お湯”がかかったぐらいのもんさ。力試しで人殺したらシャレにならん」

「……」

 ゆっくりと立ち上がる御剣。椅子に座っているあの二人の《特殊型保有者》の視線がより鋭くなっていることには気づいているが、どうでもいいので意識はしない。

 手拍子もやめて、佐原が言う。

「しかしまぁ、これで調査は終了! これからお前さんには……えーっと?」

 彼は徐にズボンのポケットをまさぐって、何かを取り出した。眼の前でそれを確認した後、「ん」と頷く。

「これをつけてもらう」

 そう言って、取り出したそれを御剣の方に投げた。片手でそれをキャッチした彼は、さっき佐原がしたのと同じように、手のひらを広げてそれが何なのか確認した。

 黄金に輝く、交差する二本の剣。デザイン自体は、夏目の襟についていたものと同じだが、その眩いまでの輝きが、格の違いというものをありありと見せつけてくる。


 《Aランク騎士型保有者》の襟章だ。



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