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作者: 土田かこつ
掲載日:2010/10/11

生きものが死んでいくのを初めてみた。


いつまでたっても慣れない仕事を終えて、なかば放心したまま駅に向かう帰り道。

時期の終わった桜並木の川沿いのむこうに、はた、はた、とは何かがためいているように見えた。

ポイ捨てされたコンビニ袋かなにかだろうか。

が、そのかすかな動きは風のせいではなかった。

そのモノ自身の力で、はた、はた、と不自然なリズムを刻んでいる。

鈍い灰色のかたまりが見えた。


鳩。


はた、はた、とコンクリートを叩いているのは片側の翼だ。

金属みたいな灰緑の首筋、その先にあるはずの頭がきっちり90度に折れていた。

もう一方の翼は身体の下になっている。

車のフロントガラスにでも衝突したんだろうか。

(バカだな。)

ぼうっとしてるからだ。

かわいそうというよりはむしろ一方的な共感を感じて、灰色の体をながめた。

踏みつけられた落ち葉でまだらになったコンクリート。横になった体は傷もなく妙に綺麗で、曲がった首さえなければただ眠ってるんじゃないかと思っただろう。


はた、はた。

はた、はたた。

翼が刻むリズムが不規則に、だんだん間遠になっていく。

(死ぬ。のか、)

まだ生きているのに。


わけもなく焦れた。

人が見たらたぶん不審人物だろう。死にかけの鳩の前でずっとつったっているなんて。頭の隅で想いながら、それでも目が離せなかった。

今、こいつは何を感じているんだろう。

(苦しい?)

鳴きはしない。

暴れもしない。

もうそんな力もないんだろうか。

なら痛いとか苦しいとか、そんなことも感じなくなってるんだろうか。

でも動いてる。かすかに、たしかに、コンクリートを叩く。訴えている。

(生きたい、とか思うんだろうか)


間抜けな鳩。不注意の事故。

はたして私だったら、生きたいと思うのか。

生きたいと訴えられるんだろうか。助けてくれる手なんかないとわかっていて。

汚い。気味が悪い。不衛生だ。

やってくるのは獣医ではなく保健所だとわかっていて。


あきらめるほうが簡単だ。

痛みから逃げるように、早く眠ろう、眠ってしまおうと。


灰色の翼がコンクリートをすった。

もう叩くことも出来ていない。


獣医は呼ばない。保健所も呼ばない。

このまま終わりまで見届けよう。



動かなくなった小さな体を川原の土手まで持っていった。

最期まで生きとおした鳩に敬意を表して手を合わせる。

せめてきとんと土にかえりますように。

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