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第288話 家族の手、狼の牙

 義弘は、アリスの言葉が場の空気を裂いた、その直後に動いた。


 レオンの仕込んだ照明の下。

 アリス・スクワッドの熱狂と動揺。

 セグメンタタのざわめき。

 WEREWOLFの四人の緊張。

 VX-32 TIGERの低い唸り。

 その全部をまとめて真横から断ち切るみたいに、白いサムライ・スーツがアリスのもとへ飛び込む。


 義弘は着地したまま、アリスの前へ半歩だけ出た。

 それで十分だった。

 誰もが、この白は“止めに来た”のだとわかる。


 レオンが、少し遅れて口元を歪める。


「義弘。やっぱり来たか」


 義弘はすぐには返さなかった。

 腰のブレードに手をかける。

 ゆっくりと、しかし迷いなく引き抜く。

 光を受けて、白の装甲に沿う刃が細く冷たく走った。


「悪いが———」


 その声は高くない。

 だが、妙にはっきりと場を通る。


 義弘はレオンではなく、その場にいる全員へ向けるみたいに言った。


「アリスは返してもらう」


 そこで一拍置いた。

 派手な宣言にする気はない。

 大きな物語にするつもりもない。

 ただ、これだけは間違えたくなかった。


「“家族”なんでな」


 その言葉に、場の温度がまた変わった。


 レオンの側から見れば、“アリス”は記号だ。

 アリス・スクワッドにとっては、“本物のアリス”であり、群衆の熱の中心だ。

 舞原朱音にとっては新開市の自治の象徴で、榊圭吾にとっては個人がもっとも危険に映える瞬間を体現する存在。

 リンにとってはどうしても届かない主役で、ドラウグルにとっては武力をもっと理解してほしい本物の影。


 だが義弘だけが、その全部を切って、家族と言った。


 神話でもない。

 偶像でもない。

 家族。


 アリスは、その背中を見た。

 白いサムライ・スーツ。

 いつも通り、少しだけ無茶をする時の背中。

 胸の奥で、むず痒いみたいな苛立ちと、わずかな安堵が同時に動く。


 余計なことを言うな。

 一人でやれる。

 でも、来るだろうとは思っていた。

 この最悪の場面ならなおさら。


 レオンはそこで、今度こそはっきりと笑った。


「いいねえ」


 楽しそうな声だった。

 けれどその目は、義弘の言葉を“感動”として受け取ってはいない。

 むしろ、盤面の意味が変わったことを即座に理解している目だった。


「だったら、取り戻せばいい」


 レオンの声が鋭くなる。


「“アリス”を取り戻せ!」


 その言い方もまた、はっきりしていた。

 義弘はアリス本人を家族として呼ぶ。

 レオンは“アリス”という舞台の中心を取り戻せと命じる。

 その差が、今夜の全部を表していた。


     *


 最初に飛んだのは、VX-32 TIGERだった。


 低い。

 獲物へ飛びつく直前の肉食獣みたいに低い構えのまま、装甲の塊が地面を舐めるように滑り出す。

 前肢の裂断クローが光を引き裂き、一直線に義弘へ襲いかかる。


 義弘はブレードを返しかけた。

 だが、その前に黒い影が入る。


 シュヴァロフだった。


 闇の切れ端みたいな黒。

 光を吸う装甲。

 背中の巨大な腕。

 鳥じみた脚の関節が静かに折れ、次の瞬間には義弘とTIGERの間へ滑り込んでいる。

 鋭い裂断クローと、シュヴァロフの巨大な戦闘用腕がぶつかり、重い金属音が弾けた。


 シュヴァロフはアリスの最強のドローンだ。

 だが今この瞬間、その黒い怪物は、アリスのそばにいる白を守るために前へ出ていた。


 TIGERが狩りの獣なら、シュヴァロフは静かな怪物だった。

 無駄がない。

 怒鳴りもしない。

 ただ、守るべき線へ最短で入る。


 衝突の反動を、シュヴァロフは鳥じみた脚で吸収し、そのままTIGERの横腹へ低く潜る。

 TIGERもすぐ追尾する。

 熱と振動と空気流動を拾って、逃げ先を食らうために姿勢を変える。

 大型獣同士の戦いは、重いのに速かった。

 真っ向からぶつかり合うというより、互いの次の踏み込みを食うための、都市戦らしい嫌な噛み合いになる。


 TIGERが上を取ろうとすれば、シュヴァロフは壁面を使って位置をずらし、背中の巨大な腕で横から裂く。

 シュヴァロフが距離を作れば、TIGERが低い姿勢のまま食らいつく。

 獣と怪物。

 どちらも一撃必殺を狙っているのに、その一撃へ至るまでの読み合いが恐ろしく緻密だった。


     *


 その間に、アリスの周囲では別の戦いが始まっていた。


 セグメンタタ部隊は、反射的にアリスの周囲へ陣形を取る。

 協力派が無理やりねじ込んだ“支援”だ。

 いまこの場ではそれが、皮肉にも防壁として働いた。


 だが、その防壁を剥がしに来る者がいる。


 ドラウグルとリンだった。


 WEREWOLFの感知補助が、煙と照明の乱れの中でも獲物の位置を逃さない。

 ドラウグルは低く沈み、最短距離でアリスへ届く線だけを狙ってくる。

 リンはもっと滑らかだった。

 元企業ヒーローらしい、見栄えのいい動きの名残がある。

 だが今はそれが、闇の狩り装備と妙に噛み合っていた。


 アリスへ届く前に、義弘が割って入る。


 白のブレードが一閃し、ドラウグルの踏み込み線を切る。

 そのまま義弘は身体を返して、リンの間合いへ踏み込んだ。

 速い。

 正面から立つヒーローの強さではない。

 戦場で生き残ってきた人間の、迷いのない切り返しだ。


 ドラウグルは受け流すが、腕の中へ重い衝撃が入る。

 リンは寸前でかわし、しかしその避け方ごと読まれて、次の一歩の位置を変えられる。


「っ……!」


 リンが短く息を詰めた。


 強い。

 知っていたが、近いとさらに嫌になる。

 義弘はただ正面から強いのではない。

 こちらが“主役としてどう見せたいか”まで読んだうえで、そこを踏み潰してくる。


 ドラウグルも歯噛みする。

 武力を信じる彼にはわかる。

 義弘は力だけではない。

 どこで、どう詰めれば相手が一番嫌がるかを知っている。

 そういう意味で、かなり狡猾だ。


 榊圭吾と舞原朱音は、一瞬だけ迷っていた。


 アリスの側へつきたい。

 少なくともレオンの舞台へ完全に乗せられるのは気に入らない。

 だが“ゴースト・ヒーロー”になる夢も捨てきれない。

 いまここでドラウグルとリンを見殺しにして、四人の核が崩れるのはもっと嫌だ。


 結果として二人は加勢に回った。


 榊は導線を見る。

 義弘が次に取りたい位置、切り返しに使いたい足場、四人の連携でそこをずらせる角度。

 舞原は群衆の熱の動きと視線の偏りを読み、義弘の“見られ方”を一瞬だけ崩すタイミングを選ぶ。


 四人が揃った瞬間、空気が変わった。


 義弘は、それを肌で感じた。


 まるで自分自身が、もっと狡知を持って襲いかかってきたみたいだった。


 武力。

 見栄え。

 導線。

 扇動。

 バラバラなら未熟でも、四つ揃うと途端に“人一人分の本物”へ近づく。


「……そう来るか」


 義弘は小さく言う。


 驚きはした。

 だが崩れない。


 長年の戦術眼と知恵は伊達ではない。

 彼はもう、こういう手合いを何度も相手にしてきた。

 真正面の強敵より、連携の妙で崩しに来る側の方が厄介だと知っている。


 義弘は無理に四人を倒しに行かない。

 捌く。

 捌きながら、連携の癖を見る。

 ドラウグルは最短で来たがる。

 リンは“主役らしい”入りをどこかで捨てきれない。

 榊は綺麗な線を作りたがる。

 舞原は群衆の熱が強い方へ寄る。


 読む。

 ずらす。

 ひとつ潰せば、四人の形は少し崩れる。


 だから義弘は押し返されながらも、完全には崩れなかった。


     *


 アリスは、その戦いの横で端末を探していた。


 さっき自分で落としたもの。

 ブージャムを呼び寄せるための端末。

 ここを切り抜けるには、あれがいる。

 シュヴァロフだけでは足りない。

 レオンもまだいる。

 アリス・スクワッドの熱も残っている。

 この場全体を崩すには、ブージャムの一撃が必要だ。


 だがレオンは、それに気づいていた。


「近づかせるな!」


 彼の指示が飛ぶ。


「端末を取らせるな! いま止めろ!」


 アリス・スクワッドが一斉に動く。

 簡易スーツの補助脚が唸り、支援ドローンが低空を回る。

 彼らの多くは、もう何が正義で何が演出かを考えていない。

 ただ熱の中心へ走っている。


 それでもアリスへ届ききらないのは、セグメンタタ部隊がまだ壁になっていたからだ。


 工具の束みたいな輪郭を持つ鎮圧無人機たちが、機械的に最短で防衛線を作る。

 威圧や宣告はない。

 ただ、ここから先へ来たら壊すという動きだけがある。

 アリス自身には邪魔でも、この瞬間だけは役に立っていた。


「ちっ……」


 アリスが低く舌打ちする。

 守られて助かっているのに、やっぱり邪魔だと思う。

 最短線が取れないからだ。


 その時だった。


 別方向から、乾いたサイレンと車両音が突っ込んでくる。


 真鍋だった。

 そしてSABLEと、治安機関。


     *


 最初に現れたのは治安機関の車列だった。


 新開市の公的な色。

 無遠慮で、しかし言い逃れのできない正当性。

 企業群でもオールドユニオンでもなく、市の側の武装と規律。


 その横へ、SABLEが飛び込んでくる。


 白と淡い銀ではない、現場向けの軽装。

 それでも無表情に近い鋭さは変わらない。

 彼女はこの場へ来るまで、ずっと息を詰めていた。

 アリスが今どんな形で群衆の前へ立たされているかを、ニュースの途中からもう理解していたからだ。


 シュヴァロフはすでにTIGERとやり合っている。

 だからSABLEは一人で前へ出る。


「そこまで!」


 大きな声ではない。

 だが不思議と通る。


 その直後、真鍋の冷たい実務が現場へ被さった。


「治安機関です。これより現場を強制分離します。武装解除に従ってください。拒否した場合は記録の上、拘束します」


 その言葉は、アリス・スクワッドにとって最悪だった。


 企業群やオールドユニオン相手なら、“真実を隠す側”と叫べる。

 だが治安機関が来ると話が違う。

 新開市そのものの顔が出てくる。

 その瞬間、雑多な群衆の熱は一枚岩ではなくなる。


 逃げる者。

 食ってかかる者。

 何が起きたのか飲み込めず立ち尽くす者。

 熱でまとまっていた集団は、公的な整理が入ると一気にほころぶ。


 アリス・スクワッドは総崩れになった。


「退け! 退くな、いや――」


 誰かの叫びが途中で切れる。

 支援ドローンがぶつかり合い、簡易スーツの足がもつれ、野次馬が悲鳴混じりに散る。

 さっきまで“正義の行進”だったものが、一瞬で都市の混乱へ戻る。


 レオンはその崩れ方を一目見て、即座に判断した。


「撤収」


 迷いがない。


 すでに彼は、群衆が崩れた時の潮目を読み切っていた。

 ここで残るのは損だ。

 TIGERも残せない。

 回収できるものだけ回収し、次の舞台へ移る。


 レオンの姿は、次の瞬間にはもう混乱の陰へ溶けていた。


     *


 VX-32 TIGERも撤退に入ろうとした。


 シュヴァロフの攻撃線を切り、低い姿勢のまま距離を取る。

 狩りの獣らしく、逃げる時も追いの逆算がある。

 だが今夜は、そこまでだった。


 アリスの指先が、ようやく落ちた端末へ触れる。


 画面がひび割れている。

 それでも十分だ。

 極短の信号を飛ばす。


 返答は即座に来た。


 ブージャム。


 混乱の外縁から、黒い影が滑り込む。

 TIGERが反応した時には遅い。

 前方にはシュヴァロフ。

 後方からはブージャム。

 アリス側最強の獣と怪物が、TIGERを挟撃する。


 シュヴァロフの巨大腕が裂断クローを抑え、

 ブージャムが低く潜って関節部へ噛みつく。

 TIGERはなおも暴れる。

 獣らしく、最後まで狩りの姿勢を崩さない。

 だが二方向から食われれば、さすがに逃げ線が消える。


 重い衝撃。

 金属音。

 火花。

 そして最後に、獣の駆動が膝から落ちるみたいに沈んだ。


 VX-32 TIGER、鎮圧。


 ただし、その過程で現場はさらに混乱した。

 大型獣の暴れ方は、それだけで人を散らす。

 足場が崩れ、照明が倒れ、野次馬が悲鳴を上げる。

 治安機関は分離と保護で手いっぱいになり、WEREWOLFの四人もその隙に撤いた。


 ドラウグル。

 リン。

 榊。

 舞原。

 四人とも、これ以上ここに留まる意味はないと判断した。

 夢はまだ終わっていない。

 “ゴースト・ヒーロー”になる構想も、まだ捨てていない。

 なら今は引く。

 それが最善だった。


     *


 崩れたアリス・スクワッドは、きれいには終わらなかった。


 治安機関へ食ってかかる者がいる。

 拘束されまいと怒鳴る者がいる。

 アリスへ直接、企業群や家族や現場の苦しさをもう一度訴えようとする者もいる。

 逆に、何も言わず都市の闇へ消える者もいた。


 最初から一枚岩ではなかった集団だ。

 だから崩れる時も、それぞれの本音の形へ戻る。


 真鍋の捜査班が現場整理に走り、治安機関は拘束線と避難線を分ける。

 SABLEはアリスの方へ駆け寄りかけて、途中で一度だけ立ち止まった。

 義弘がいる。

 その白い背中と、アリスの立つ位置を見て、邪魔をしない方がいいと一瞬で判断したのだろう。


 だから最初にアリスのところへ行ったのは、義弘だった。


 混乱が少しだけ引いたあと、彼はアリスの前へ立つ。

 白いサムライ・スーツのまま。

 戦闘が終わった直後の、いちばん説教の匂いがする立ち方だ。


「お前な」


 義弘の声は低かった。


「どれだけ心配かけたと思ってる」


 アリスは即座に顔をしかめた。

 叱られるとわかった時の、いつもの顔だ。


「……一人でやれる」


「やれてないだろ」


「やれた」


「やれてない」


 義弘は一歩も引かない。

 むしろ普段より頑固だ。


「勝手に消えるな。勝手に一人で抱えるな。勝手に群衆の真ん中で自分を差し出すな」


 アリスはふてくされた。

 白いフードの下、片目を隠す前髪が揺れる。

 見えている赤い目だけが、あからさまに不機嫌だった。


「うるさい」


「うるさく言う」


「一人でできた」


「だからできてないって言ってる」


 そのやり取りの間に、ようやく周囲が追いついてくる。


 最初に来たのはシュヴァロフだった。

 TIGERとの戦闘を終え、黒い怪物みたいな輪郭のまま、しかし動きだけは妙に丁寧にアリスの側へ寄る。

 損耗確認でもしているのか、肩位置の上腕がそっとアリスの袖の端をつついた。


 SABLEもそこでようやく駆け寄った。


「……アリス」


 その一言に、言いたいことの大半が詰まっていた。

 無事でよかった。

 危なかった。

 勝手にいなくならないでほしい。

 でもちゃんと帰ってきた。

 全部まとめて、短い呼び方ひとつへ押し込んでいる。


 真鍋は少し遅れて歩いてきた。

 彼女は感情を前へ出さない。

 出さないが、現場の収まり方とアリスの位置を見て、小さく息を吐いた。


「帰還確認ということでいいですね」


 その硬い言い方が、妙にありがたかった。


 アリスはそこで、ほんの一瞬だけ肩の力を抜いた。

 叱られて、ふてくされて、それでも戻ってきた場所に、

 白のサムライがいて、黒い怪物ドローンがいて、SABLEがいて、真鍋がいる。


 帰る場所だ。

 そう思うのは、少し癪だったけれど。


     *


 一方その頃、レオン・ヴァルケンはもう別の暗がりで、敗走したアリス・スクワッドの残党を見ていた。


 残党といっても、まだ熱を失いきってはいない。

 混乱で散っただけだ。

 怒りも、正義感も、承認欲求も、まだ残っている。

 だからレオンはまとめ直せる。

 そのつもりでいた。


「落ち着け、落ち着け」


 彼は軽く手を上げて言う。

 まるでちょっとしたイベントの仕切り直しでもするみたいな口調だ。


「今日は少し派手に転んだだけだ。次はもっといい支援を用意する。君らの“真実”は、まだ終わっちゃいない」


 だが、その熱の外側に立つ四人は、もう別の計算に入っていた。


 ドラウグル。

 リン。

 榊。

 舞原。


 彼らはレオンが弱体化したと見ていた。

 TIGERを失い、舞台を崩され、アリスの告発も許した。

 なら次の支援線を奪い取り、“ゴースト・ヒーロー”になるために動くべきだ、と。


 ドラウグルは武力の側からそう判断し、

 リンは“いまなら主役の座を奪えるかもしれない”という熱を感じ、

 榊はもっと個人の輪郭が映える新しい舞台を欲し、

 舞原は新開市のために、外部の煽り屋から主導権を奪うべきだと考えた。


 四人の反旗は、時間の問題だった。


 だがレオンは、その温度もすでに読んでいた。


「そういう顔、すると思った」


 彼は笑った。


 四人がわずかに構える。

 先に読まれている。

 それだけで少し嫌な感じがした。


 レオンは気にせず続ける。


「ぜひ君たちに協力させてくれ」


 その言葉があまりにも自然だったので、逆に一瞬、意味が遅れた。


 ドラウグルが低く問う。


「……何を言ってる」


「そのままさ」


 レオンは愉快そうに肩をすくめた。


「俺も“ゴースト・ヒーロー”になろうじゃないか」


 リンが目を細める。

 榊は口元だけを歪めた。

 舞原は危険信号と魅力を同時に感じ、ドラウグルは露骨に警戒した。


 普通なら、ここで怒るか、脅すか、裏切りを咎めるはずだ。

 だがレオンはそうしない。

 裏切りまで含めて、新しい舞台にしてしまう。

 それがこの男の最悪なところだった。


「君たち、わかってるだろ」


 レオンの笑みは消えない。


「群衆の熱だけじゃ、本物には届かない。虎も群衆も、あくまで外側だ。本当に欲しいのは、もっと深い牙だろ?」


 それはまさに、四人が考えていたことそのものだった。


 WEREWOLFの狼。

 その先にある、もっと個人的で、もっと暗いヒーロー像。

 レオンはそれを、もう口にしてしまう。


「だったら一緒にやろう」


 彼は軽い調子で言う。


「奪うんだよ。支援線も、舞台も、名前も。どうせなら一番面白い形で」


 その誘いは、あまりに危険だった。

 そして危険だからこそ、四人の誰にも簡単には捨てられない響きを持っていた。


 新開市の夜は、表ではひとまず収まったように見える。

 アリスは帰った。

 義弘は取り戻した。

 TIGERは沈んだ。

 アリス・スクワッドは散った。


 だがその裏側では、まだ別の熱が、もっと暗い形で次の名乗りを探している。


 ゴースト・ヒーロー。


 それが本当に誰のものになるのか、まだ誰にもわからなかった。

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