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第百六十三話 新しい熱狂

 導線屋は、腹を満たす方法を覚えた。


 《アリス・ウィーク》は大成功だった。

 列は燃え、絵は固定され、編集は回り、数字が跳ねた。

 そして何より――金になった。


 表向きの言葉はいくらでも作れる。

 「新開市の活性化」

 「市民アート」

 「安全啓発」

 誰もが耳を傾けたがる単語を並べれば、金は集まる。


 導線屋は水面下でクラウドファンディング・ネットを構築した。支援者の名は出さない。出せば燃えるからではない。燃える前に捕まるからだ。

 裏で企業群が混じり、OCMの匂いも混じった。どこまでが偶然で、どこからが意図なのか――曖昧にしておく方が強い。


 金は形になる。


 形は、戦う道具になる。


 新開市の倉庫街の端で、寄せ集めの巨体が起き上がった。


 大型ドローン。

 外装はばらばらで、パーツの色も形も揃っていない。

 それなのに、関節の動きだけが妙に滑らかだった。


 純正部品が混じっている。

 純正が混じれば、粗雑は強度になる。


 それを導線屋は知っている。知っているから買う。買えるから作る。作れたから持ち込める。


 本来は義弘とアリスにぶつける予定だった。

 だが間に合わなかった。間に合わなかったから、代替を選ぶ。


 外様サムライ隊。


 今日が初陣。

 新開市民が「誰だ」と言い、配信が上がり、角度が揃いかける日。

 祭りの目玉にするには、ちょうどいい。



 交差点の広い歩道で、外様サムライ隊の五人は並んでいた。


 装甲は義弘モデルの系列。日本製の強化装甲。

 だが個性が一目で分かる。


 黒×藍の真田颯真は前へ出たがる。

 白×鈍い金の伊東こよりは、言葉で形を作ろうとする。

 藍×白の九条弥生は、型を崩さない。崩さないから象徴になりやすい。

 黒×鈍い金の蜂須賀玄武は、喋らない柵のように立つ。

 深紅×黒の小夜すずは、撮られる前提で周囲を見回す。


 義弘は少し離れた位置にいた。膝を庇い、走らない。走れば絵になる。絵になれば列が太る。太れば潰れる。

 だから走らない。代わりに声だけで場を整える。


「中心になるな。中心を作るな。……流れを守れ」


 その直後、空気が裂けた。


 遠くで金属が擦れる低い音。

 地面が震えるほどの重い歩み。


 見物人が止まる。

 止まった瞬間に、配信が始まる。


え、なにこれ

デカすぎ

ロボじゃん

寄せ集め感あるのに怖い

新人初陣でこれは地獄

導線屋じゃね?

きたきたきた“目玉”来た


 導線屋は叫ばない。

 ただ“目玉”を出す。

 出した目玉が勝手に叫ばれる。


 大型ドローンが現れた。

 外装の継ぎ目が多い。粗い。雑だ。

 なのに、関節の動きが不自然に正確で、装甲の耐性が異様に高い。


 颯真が反射で前へ出た。前へ出る癖が、そのまま罠になる。


「前は俺が取る――!」


 義弘の声が飛ぶ前に、玄武が重い一歩で颯真の前へ出た。


「止まるな。倒すな。帰れ」


 敵に言っているのか、味方に言っているのか分からない。分からない冷たさが、余計に怖い。


 大型ドローンが、腕のような部位を振る。

 振り方は乱暴なのに、当て方が正確だ。

 弥生の型が一瞬だけ崩れる。崩れた瞬間に、列の外縁がざわめく。


弥生やば

型崩れた

でも絵は神

国のサムライ弱い?

いや相手が硬すぎ


 こよりが声を整える。現場を言葉で縛ろうとする。


「距離を取ってください。ここは――」


 言葉が終わる前に、ドローンが地面を叩いた。衝撃が広がる。

 言葉が揺れる。揺れた言葉は切り抜かれる。


 すずが即座に叫ぶ。明るい声なのに冷たい。


「撮るな! 止まるな! 流れて!」


 言えば言うほど、コメントが増える。


赤いの指示うま

でも止まって見ちゃうw

これ戦隊始まる?

いや始まったら列できるぞ

列できたらSOFFest戻るぞw


 誰かが冗談を言う。

 冗談は現実になる。


 外様サムライ隊は混乱した。


 混乱は弱さではない。新開市が特殊すぎるのだ。

 導線屋がいる。編集文化がある。列が戦場だ。

 戦場のルールが違う。


 大型ドローンは“乱雑”に見えるのに強い。

 殴り方が雑で、受け止め方が堅い。

 そして何より、壊れにくい。


 純正が混じっている。


 その瞬間、義弘の胸に嫌な予感が走った。

 オスカーの匂い。

 裏からの手配。

 責任線がまた曖昧になる。


 義弘は走らない。走る代わりに、声で切る。


「前を取るな! 固まるな! 広がれ!」


 だが初陣の五人は、どうしても“中心”を作りかける。

 中心ができると、見物が止まり、配信が揃い、角度が揃う。

 角度が揃うと、列が生まれる。


 列が生まれた瞬間、導線屋は勝つ。


 そのとき、別の影が割って入った。


 空気が変わる。

 視線が一斉に“そっち”へ寄る。

 寄った視線は、今度は驚きになる。驚きは散る。散ると列が太らない。


 シュヴァロフ。


 完全修理された機体が、静かに現場へ入る。

 澄んだ目。余計な動きのない姿勢。

 修理されたのは外装ではない。運用の癖そのものだと分かる動き。


 続いて三つの影。


 バンダースナッチ。

 トウィードルダム。

 トウィードルディー。


 三機は“守護”に見えない形で、空気だけを整える。

 目立たず、しかし確実に、列が固まる前の隙間を作る。


 さらに、コロボチェニィクとグリンフォンが入る。

 鎮静の動き。遮蔽。誘導。隔離。

 戦闘ではなく“事故を起こさない形”を作る。


 大型ドローンが振り向いた。

 振り向くのが遅い。遅いから重い。

 重いものは、当たると危ない。


 だが影は、先に“当たらない形”を作る。


 シュヴァロフが一歩、位置をずらす。

 グリンフォンが割れ目を塞ぐ。

 コロボチェニィクが外縁を流す。

 三機が、逃げ道を作る。


 寄せ集めの巨体は、攻撃の形を作れない。

 形を作れないまま、制圧される。


 制圧の瞬間、配信コメントが爆発した。


うわあああ来た

シュヴァロフ完全に別物

三機の動き、前より静かで怖い

グリンフォンつよ

これ戦隊じゃん

合体しないのに合体してる

“正規化”ってこういうこと?

え、これアリスいないのにアリス回じゃんw


 アリスがいないのにアリス回。


 その皮肉が、街の性質をよく表していた。


 大型ドローンは倒れた。


 倒れ方が、綺麗すぎた。

 綺麗すぎる倒れ方は、編集に向く。

 編集に向くものは、祭りになる。


 義弘は歯を食いしばった。

 勝利が、燃料になる。


 その瞬間を待っていたように、オスカーの声明が流れた。

 端末の通知がいっせいに鳴る。


――OCMドローンとサムライ・ヒーローは協力する。

――秩序ある運用のもとで、市民の安全を守る。


 言葉は整っている。整っているほど、逃げ道がない。


 協力宣言は、善意に見える。

 だがオスカーの協力は、取り込みだ。


 外様サムライ隊を“運用枠”に入れる。

 正規化の正当性を上げる。

 反対派を炙り出す。


 そして何より――今日の勝利を、OCMのものにする。


 市民はそれを熱狂として受け取る。

 受け取ってしまう。


協力宣言きたw

これもう公式戦隊

次回予告どこ

新ヒーロー育成編始まった

返せデモどこ行った

でも見たい、次も見たい


 “次も見たい”。


 その言葉が一番危ない。

 見たいが揃うと列になる。列はインフラへ寄る。

 寄れば、使節の名目が立つ。

 名目が立てば、終わらせる重さが戻る。



 その夜、療養施設のテレビで、アリスはその映像を見た。


 顔は映らない。映らないように管理されている。

 それでもアリスは、自分の影を見た。


 シュヴァロフの澄んだ目。

 三機の静かな配置。

 コロボチェニィクとグリンフォンの鎮静。


 そして、外様サムライ隊とOCM機の“協力”という見出し。


 アリスは鼻で笑った。口は悪い。声は低い。


「……ほんと、勝手に祭り作るの好きだね」


 同じ部屋の子どもが言う。


「すごい! かっこいい!」


 アリスは子どもを見て、少しだけ言い方を変えた。


「かっこいいのは、事故が起きなかったことだ。……そこだけ見ろ」


「でも、次も――」


 アリスは短く切った。


「次なんか、いらない」


 その言葉が、誰にも届かないのが新開市だった。



 庁舎の窓の向こうで、使節は淡々と夜景を見ていた。


 熱狂が生まれた。

 編集が回る。

 次を欲しがる声が増える。


 列は、もうすぐ戻る。


 使節は自分たちを指す言葉で、静かに結論を置いた。


「我々は居るべきだ」


 居るべき理由は、今日また整った。

 だからSOFFestの影は、まだ遠くで待てる。


 熱狂は、次の名目を運んでくる。

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