033 魔女の森
エルフの国を後にして、俺は再び走り出した。
世界樹の光が背中を押すように、朝日が昇る中、赤いオーラを纏って大地を蹴る。
ティオルと師匠と別れて、どれだけの時が経っただろう。
ティオルはもう王都に着いている頃か。あの白黒の魔眼があれば、きっと天槍の騎士にもなっているだろう。
強い仲間たちに囲まれ、ノクティアの動きを抑えているのかもしれない。
俺はまだ、まだ世界を回る。
記憶を探し、連鎖を断ち切るために。
走り続ける。ただ、あてもなく。世界を見るために。
サリアとの戦い以来、イデアはさらに強くなっていた。
赤いオーラの出力が上がり、一振りで広範囲の木々を両断し、地面を蹴れば姿が霞む速さで移動する。
身体強化の限界が、少しずつ押し広げられていた。
道中に出くわすイデアの化身は、次々と切り伏せた。
“貪欲”の群れも、“不動”の巨岩も、俺の剣の前では一瞬だった。
数日走っては野宿を繰り返す。
進めば進むほど、森は暗く、深くなっていった。
木々が密集し、光はほとんど届かない。
イデアの化身の数も、明らかに増えていた。
――なんだか、不思議な感覚がした。
誰かに、見られているような。
俺は立ち止まり、イデアを解放して感知能力を高めた。
視界が広がり、森の奥まで感じ取れる。
複数の化身の気配。
そして一箇所──異様な雰囲気を放つ場所。
そこだけ、空気が重く歪んでいる。
まるで、何かが潜んでいるかのようだ。
「……行くか」
好奇心が勝った。
俺はイデアを解放したまま、その方向へ走った。
だが、そこには何もなかった。
暗い森の空き地。
木々が密集し、地面には苔が生えているだけだ。
「おかしいな……」
振り返ろうとした、その瞬間──
空中の一箇所で、何かがヒラヒラと揺れた。
三角形の、薄い布のようなもの。
端が風に揺れ、空間そのものを歪ませている。
「……なんだ、これ」
怪しい。危険かもしれない。
だが、それでも好奇心が勝った。
俺は剣を収め、跳び上がってその三角を掴む。
そして、強く振り下ろした。
すると──
空間が裂けた。
三角の布が広がり、その向こうに別の世界が現れる。
中は、霧に包まれた森。
紫色の光が淡く揺れ、木々は不気味にうねっていた。
空気は甘く重く、濃密な魔法の匂いがする。
「なんだ、これ……」
思わず息を呑む。
だが、やはり好奇心が勝った。
剣を握り直し、俺はその裂け目へと踏み込んだ。
裂け目が、ゆっくりと閉じていく。
外の世界が、遠ざかっていく。
俺の旅は、また新たな場所へ。
この場所きっと、ウィッチの国だろう──
魔女の森の入り口なのだと、俺は心の中でなぜか確信していた。
ドクン、ドクン、ドクン……
胸が高鳴る。
世界は、まだ広い。
そして、俺の記憶は、まだ遠い。
――霧の向こうに、何が待っているのか。
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