017 目指すべき境地
地下遺跡の探索から、数日が経っていた。
あの亜神との遭遇以来、師匠は地下への再挑戦を控え、代わりに“領域”内での修行をさらに厳しくした。
朝から晩まで、剣を交え、魔眼を鍛え、イデアを極限まで高める。
汗が飛び、息が上がり、ときには血が混じる。
だが、俺たちは確実に強くなっていた。
ティオルの速さは、もはや影すら残さないほどに研ぎ澄まされ、
俺のイデアも赤いオーラを自在に発動できるようになり、持続時間も伸びてきていた。
そして身体強化の能力も向上した。
そんな修行の合間、休憩中に俺はふと師匠に尋ねた。
星空の下、岩に腰掛ける師匠の頭上には、いつものように淡い光の輪が浮かんでいる。
「……師匠。頭の上の光の輪、何なの??」
師匠は少し驚いた顔をしたあと、くすりと笑った。
「これはーー魔眼所有者が“覚醒”すると発現するものだよ。
私の創造の魔眼が完全に目覚めた証さ。力の象徴であり、時には防御や増幅の役割も果たす」
へえ、と俺は輪を見つめて感心する。
淡く輝くそれは、まるで小さな太陽の輪郭のようだった。
ティオルも興味深そうに近づいてくる。
「覚醒……か」
師匠はティオルに目を向け、にこりと微笑む。
「そうだよ。ティオルも、いずれはこうなることを目指さないとね。
君の魔眼は、まだ潜在力を秘めている。
覚醒すれば、この輪が現れ、力が飛躍的に上がるはずだ」
ティオルの目が輝く。
「……目指します」
師匠は満足そうに頷き、今度は俺に視線を移した。
「アニス、君のイデアは段階的に強くなる性質だ。
その力は段階的に強くなり、最終的には世界そのものを変えるほどの力になるかもしれない。
だから焦らず、着実にその階段を登りなさい」
ドクン、と心臓が応じるように鳴った。
「ああ……実感湧かないけど……わかった」
師匠は続けてティオルへ向き直る。
「ティオル、君は“時間停止”を目指しなさい。
今の“時層”は速さを操るだけだけど、真の覚醒で完全な停止を可能にすれば、無敵に近づく。
そして魔眼が覚醒すれば、この光輪が君の頭上にも現れる」
ティオルが拳を握りしめる。
「時間停止……。わかりました、師匠」
虹色の瞳が静かに俺たちを映し出す。
「そして二人が強くなったら――
各地で起きているノクティアの襲撃を阻止し、一時的な抑止力となりなさい」
ノクティア――。
あの日の事を思い出し、俺は眉を寄せた。
「ノクティアの襲撃……?」
「ああ、各地でノクティアの襲撃を受けていると情報が入ってるんだよ。
王都のの天槍の騎士も動いているが、手が回らない場所もある。
君たちが強くなれば、それを補うことができる。
一時的な抑止力として、ノクティアの進撃を遅らせるんだ」
ティオルが静かに息を吐く。
「僕たちの力で……」
師匠は立ち上がり、星空を見上げた。
「そうだよ。君たちは特別だ。私が鍛える価値がある。
さあ、休憩は終わり。続きを始めよう」
俺とティオルは立ち上がる。
剣を構え、互いに視線を交わす。
胸の疼きが、熱く、強く、鳴り響く。
ドクン、ドクン、ドクン――。
目指す先は、まだ遠い。
だが、俺たちは歩き続ける。
――覚醒へ向かって。




