001 空が裂けた日
はじめまして、作者の鹿尾菜です。
本作は「七つの魔眼」を巡るファンタジー能力バトルものです。
初投稿で至らない点もあるかと思いますが
気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
朝の陽射しが、いつものように優しかった。
エクリシア協会の教会の前で、シスター・エレナが手を振っている。
「アニスー! 今日はあなたが料理の担当だから、遅くならないで早く帰ってくるのよー!」
白い修道服に包まれた優しい笑顔。
俺がこの村に来てからずっと母親みたいに面倒を見てくれた人だ。
「わかってるって!」
俺が手を振り返すと、教会の小さな庭から子供たちが飛び出してきた。
「アニスー! どこ行くのー?」
「また博士のところー? 一緒に連れてってー!」
「今日はダメー。また今度なー!」
子供たちが「えー!」ってブーイングしながらも、結局笑いながら見送ってくれる。
俺には、唯一はっきりと思い出せるものがある。
それが――「アニス」という名前だ。
五年前、記憶をすべて失った状態で、
俺はエクリシア協会の教会前で倒れていた。
シスター・エレナに拾われ、こうしてルーベル村で暮らすことになった。
シスターや協会の家族たちとの日々は穏やかで
温かかった。
でも、俺が一番好きな場所は、村はずれにある
インテリオ博士の研究室だ。
⸻
「博士ー! 今日も話を聞かせてー!」
ほぼ毎日のように扉を蹴り開ける俺を、
博士はいつもの笑顔で迎えてくれる。
「こんにちは、アニス君。今日も元気ですねぇ」
黒髪を後ろで束ねた三十代前半くらいの
若々しい博士。
白い研究衣に銀縁の眼鏡、口調はいつも丁寧だ。
「アニスは元気だけが取り柄だからね〜」
隣でニヤニヤしてるのはティオル。
銀髪を肩まで伸ばし、ぱっちり大きなエメラルドの瞳。
村の古い家系の生まれで、自分の血筋を
ちょっと誇りに思ってる。
俺が来たばかりの頃は「余所者だ」「怪しい」って
毎日絡んできたのに、今じゃ一番の友達だ。
「うるせぇよ……」
俺はため息をつきながら椅子にどかりと座る。
博士が苦笑しながら、古びた一冊の本を取り出した。
表紙には七つの異様な瞳が描かれている。
⸻
「今日は君たちに特別な“力”についてお話ししましょう」
博士は静かにページを開いた。
「この世には二種類の力があります」
博士の声は淡々としているが、どこか重みがあった。
「一つは――イデア。
我々が生まれながらにして持つ、ごく小さな“意志の力”。
身体を強化したり、火を起こしたり、風を操ったり……
人によって強弱はありますが、誰でも持っています」
博士は俺とティオルを交互に見た。
「そしてもう一つ――魔眼。
イデアとは全く別次元の、概念そのものを支配する力」
ティオルが息を呑む。
「魔眼……?」
「ええ。
虚無、創世、動因、空間、元素、幻術、そして……時」
博士の指が七つの瞳の絵をなぞる。
七つの瞳が、まるでこちらを見据えているようだった。
「今、世界は再び動き始めています。
二百年前のラグナロク――魔眼戦争の傷が、まだ癒えていない。
セラフィム王国とノクティア王国。
両者は互いを憎み合っている」
その瞬間、俺の胸がズキリと疼いた。
ドクン。
理由もなく、心臓が強く脈打つ。
博士が静かに微笑んだ。
「君たちも自分の力を深く知ったほうが良さそうですね」
――その数分後。
「ティオル、今日もやるか」
研究室を出て、裏手の空き地に移動しながら俺は言った。
「何回やっても結果は変わらないよ?
今日も僕が勝つんだから」
ティオルがにこにこしながら木剣を構える。
俺も笑って木剣を握り直す。
「それはどうか……な!」
カキンッ!
木剣がぶつかり合う音が響いた。
いつもと同じ、軽い稽古。
俺のイデアは「身体強化」。
ティオルのイデアは「加速」。
何度もやり合って、何度もティオルが勝つ。
でも、今日の俺は少し違った。
受け止めた衝撃が、いつもより軽く感じる。
胸の奥が、熱い。
ドクン、ドクン、ドクン。
「……アニス?」
ティオルが不思議そうに首を傾げた。
その瞬間だった。
空が、裂けた。
巨大な黒い亀裂が、ルーベル村の上空を覆う。
轟音と共に、黒い軍勢が降り注ぐ。
「あれは……まさか!」
インテリオ博士が研究室の窓を開け、叫んだ。
俺とティオルは、同時に空を見上げた。
ティオルのエメラルドの瞳が、初めて恐怖に揺れる。
俺の胸の疼きが強まる。
――これが、始まりだ。
ノクティアの襲撃だ。
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