第九章 玉座の影
王都を覆う鐘の音は、重く長く響き渡った。
「……国王アルフォンス三世、崩御」
民衆は涙を流し、貴族たちは沈痛な面持ちで頭を垂れた。
しかし宮廷の奥では、すでに次の権力の流れが動き出していた。
豪奢な大聖堂。
王太子レオナルドは白金の王冠を戴き、聖職者の手で新たな王として即位した。
「我こそは、王国の新たなる導き手――レオナルド四世である!」
歓声と拍手が広がる。
だが、その裏で冷徹に状況を見つめる瞳があった。
クラリッサ――その中に潜む元宦官。
(あはは……見て。玉座に座るのは無能の王。
だが王権を支える文も兵も財も、すでに我が糸で縛られているの。
この即位式は、飾り人形に冠をかぶせる茶番にすぎないわ)
即位後、最初の政務の場。
王座に座るレオナルド四世は声を張り上げた。
「北方に兵を派遣する! 異民族の動きを抑えねばならぬ!」
廷臣たちがざわめく。だが次の瞬間、クラリッサが静かに進み出た。
「陛下のご聡明なるご決断に、補足をさせていただきます。
兵を派遣する際には交易路の補給線を確保しなければ、軍は動けません。
そのため、まずは南部の商会に物資供給の協定を結ばせております」
廷臣たちの視線は一斉にクラリッサへ向かう。
そして、彼女の言葉に深く頷いた。
レオナルド四世はただ「うむ」と頷くだけ――。
やがて廷臣たちは囁き始める。
「決定権は新王にある……だが、実際の政務はクラリッサ様の采配だ」
「王国は玉座と影、二つの権力に導かれているのだ」
クラリッサはその囁きを遠く聞きながら、赤い唇に冷笑を刻んだ。
「あはは……王国は表に王を戴き、裏に影を抱く。
その影こそが、この私。
かつて帝国を滅ぼした愚を繰り返さない。
私は表に立たない。玉座に座る愚王を飾り立て、民心を安堵させたまま……
裏で永劫にこの国を操るのよ!」
その笑声は、大聖堂の石壁に反響し、まるで新王の宣言を覆い尽くすかのように響き渡った。




